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第七話 ドロップしない魔獣

 地獄の苗植えは三日間続き、何とか目標の広さは確保した。

 この後は狩場作りだ。

 フィアとフィルと俺の三人は、今日も朝から街を出て農場の端まで来ていた。


 三日で遭遇した魔獣は全部で五種類。

 大きさと力の強さなら、最初に会った巨大な魔獣が一番ね、とフィアは言っていた。

 戦った厄介さはまた違うけど、どうせあんたには分からないでしょ、とも言われた。確かにその通りだ。


 その五種類のうち、狩場に回せそうなのは二種類だけだった。

 一種は、トマが倒した狼型の魔獣。五種類の中では一番弱いらしい。

 もう一種は、それより少し大きくて動きも速いが、フィアたちから見ればまだ弱い部類に入る魔獣だ。


 そこで、狩場は街と森の間に帯状に作ることにした。

 街の外壁と平行になるようにベノナ草を植え、魔獣の動きを区切る。

 街に近い内側の区画には、一番弱い狼型の魔獣だけが入り込むようにする。

 その外側にもう一つ区画を作り、そこには狼型の魔獣に加えて、二番目に弱い魔獣も残す。

 強い魔獣は、さらに外側でベノナ草によって近づけないようにする。

 ゲーム的に言えば、内側はレベル一から使える狩場、外側はレベルが少し上がってから行く狩場だ。



 苗植えは終わったので、俺は本当にただの足手まといでしかないが、情報集めのためについてきている。



「痛い……体中が痛すぎる」


 と言っても、魔獣にやられたわけではない。

 二人の近くに居たら、俺の近くには全く魔獣を寄せ付けなかった。

 単に苗植えを続けた筋肉痛だ。


「あんた、一回も戦ってないのに」


 あの化け物を軽々と倒す、つまり体力化け物に何か言われた。


「うるさい、異世界に来て体に負荷がかかってるんだ」


 本当はただの運動不足が祟っただけだが、悔しいので言い返す。


「大丈夫ですか? 薬飲みますか?」


「バカ! どうせただの筋肉痛よ。それに、その薬もう残り少ないのよ、分かってる?」


 フィルが言ってくれたが、フィアには筋肉痛なのがバレていた。


「その薬って?」


「傷の治りが速くなる魔法の薬です」


「心配性のアリシアに、もしもの時にって持たされたのよ。効き目は抜群だけど、もう十本もあるか怪しいんじゃないかしら」


 数を聞いて、えっと声を漏らしながら、フィルがちょっと取り出そうとしていた薬を大事そうにしまいなおす。

 ちょっと切ないが、そんな大層なもの絶対に筋肉痛に使ってくれるな。それでいい。


 これもゲームと違うところか。

 回復薬があるのは似てるけれど、制限が厳しすぎて毎日全快というわけにはいかない。


「これまでの戦いで数が減っちゃったってこと?」


「それもあるけど、もう新しく手に入らないのが大きいわね。うちの領内だけじゃこの薬は作れないから、材料を隣の街から買ってたの」


「魔獣問題で、交易も無くなったってわけか」


「そ」


 なるほど。この世界の問題は単に魔獣にやられるってだけじゃなさそうだ。

 それも原因は魔獣な訳だけど、隣街に行くだけなら、根本から魔獣退治するよりも簡単なような気もする。


 もしかしたら、他の街ではそこまで酷いことにはなっていないかもしれない。

 目の前にある森にとらわれていたけど、そっちを目標にした方が良いかもしれない。


「そういうわけで、薬はあんたには使えないし、どうせ今日は何もしないんだから、邪魔にならない様に見てなさい」


 合っているけど、言い方がキツイ。


「姉さんも心配してるのに、素直じゃないなぁ」


 歩き始めたフィアには聞こえない様に、小声でフィルが言う。

 俺たちもフィアに続いて歩き始めた。


「この辺りも片付きましたね」


 ふぅ、と息を吐きながら、魔獣を切った剣を払いながらフィルが言った。


 今の魔獣は、二足歩行だが、この前の様に人のように直立しておらず、恐竜のような見た目だ。

 長い尻尾と鋭い牙と爪を持ち、ものすごい速度で走って迫ってくる。

 まぁ、フィルはそれを正面から叩き斬った訳だけど。


「そういえば、魔獣倒しても何も手に入らないな」


 俺はふと思ったゲーム常識から口に出した。

 ゲームだったら大抵金を落とすか、たまにレアアイテムをドロップする。


「手に入るって?」


「魔獣を倒したら何か落とすとか、普通は金とか」


「魔獣が金なんか持ってるわけないでしょ」


 いや、そうなんだけど。

 手に入るんだから仕方ないじゃん。


 倒した敵から素材を取るパターンもあったな。


「何か素材になるとかはないか?」


「素材?」


 フィアは足元に転がる魔獣を見た。


「さあ。あたしたちは倒すだけだから、詳しくは知らないわね」


「知らないのか?」


「当たり前でしょ。こっちは警備だけで手一杯なのよ。倒した後のことまで、いちいち見てられないわ」


 言われてみれば、その通りだった。

 フィアとフィルは魔獣を倒せる貴重な戦力だ。

 街の外を見回り、危険な魔獣を退けるだけで精一杯なのだろう。


「でも、倒した魔獣って、その後どうなるんだ?」


「場所によりますね」


 フィルが少し考えながら答える。


「農地に近いところなら、後で農民の人たちが持っていくことがあります」


「持っていく?」


「食べられるところを取るんだと思います。食料が足りない家も多いですから」


「危ないから本当は近づかない方がいいんだけどね。死骸に別の魔獣が寄ってくることもあるし」


 なるほど。

 少なくとも、魔獣の死骸は完全なゴミというわけではないらしい。


「じゃあ、肉くらいは使えるかもしれないのか」


「種類によるでしょうけど、たぶんね」


 それなら、魔獣を倒して、素材を集めるパターンなら使えそうだ。

 大抵、素材を売って金にすれば、間接的には金が入るのと同じことになる。


「そういえば、この世界にも金ってあるのか?」


「円のこと?」


「円? この世界の通貨って円なの!?」


 まさか日本がこっそり異世界と交易していたりするのか。


「あー、アリシアの術式で変になってるのね」


「アリシアの術式?」


「そう。異世界から来たあんたが、普通にあたしたちと話してるでしょ。それ、アリシアが共通思念術式って言う、同じような言葉を勝手に置き換える術式を使ってるのよ」


 なんだそれ、便利すぎる。

 俺が英語で苦しんだ時間を返せ。


「でも、今みたいに実は違うものなのに認識違いになると、言葉がおかしくなっちゃうのよね。あたし達は、大人一日分の穀物を基準にした通貨を使ってるわ。一日分で一スタム」


「すたむ?」


「その感じだと、認識が合ったようね」


 俺の知ってる通貨とは全然違う。

 昔の日本で米が価値の基準になっていたのと、少し似ているのかもしれない。


 隣で聞いていたフィルが、ゴソゴソと何かを取り出す。


「この領内では、このシャンベル硬貨が一スタムとしても使えます。シャンベル家がこの硬貨と一スタム分の穀物を換えると約束しているので」


 なるほど、穀物を基準にして、通貨を発行しているってわけか。


「それなら、この魔獣が何かに使えそうなら、その分の硬貨と交換ってのもできるよな?」


「それは……どうでしょう。アリシア様に聞いてみないと」


 少なくとも肉になると考えたら、無価値ってことはないだろう。

 アリシアのところに運んで、どのくらい価値があるか見てもらえば、交換で実質お金ドロップの仕組みが作れるな。


「じゃあ、狩った魔獣をアリシアのところに運んでみようぜ」


「あら、あんたにしては珍しくいい考えね」


 良い仕組みに気付いたところでテンションが上がって言うと、フィアの方こそ珍しく俺に同意してくれた。

 でも、フィアの笑顔から嫌な予感がする。


「荷物運びなら、あんたも出来るからね。どんどん運んでもらいましょ。苗より重たいわよ」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ゲームで敵からすぐ金がドロップする理由が分かった。

 狩るたびに荷運びしなくちゃいけないなんてクソゲーすぎる。

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