思念記録 四
余所者が多く入ってきてから、街の雰囲気が悪い。
奴らは不満ばかり言っている。農地を追われた、騎士たちは全然守ってくれなかった、と。
何も知らずにのうのうと暮らしておきながら、文句ばかりは一人前。そんな奴らが、エルンは大嫌いだった。
エルンは、この街に生まれ、この街で育った。
この街に生まれ育った人間ならば、誰もが知っている。
街で盛大な葬儀が開かれるときは、シャンベル家の方が亡くなったときか、騎士家の当主が亡くなったときだ。
余所者が入ってくると同時に、葬儀も次々と開かれていた。
騎士様は、最後まで領民を守り抜いたのだ。だからこそ、奴らは魔獣から逃げて、この街まで逃げてこられた。
奴らはそんな街の常識も知らず、自分を守るために騎士様が亡くなったことも知らず、街の人々ともろくに話さず、街の農民から分けてあてがわれた土地に不満を言っている。
確かに、街の状況は良くない。それは誰が見ても明らかだ。
それでも、シャンベル様や騎士様が何とかしてくれる。
奴らは救ってもらっておきながら、何故それを信じない。
先日、魔獣退治を領民から募集するという話を聞いた。
何故そんなことをしたのかは分からない。
ただ、昔の干ばつの時も、嵐の時も、理由は分からないが、シャンベル様に従っていたら解決した。
まるで、元々何が起こるのか分かっていたようだ。
理由など、考えるだけ無駄なことだ。
言われる通りにすれば良い。
エルンは、迷いなく志願した。
数日後、魔獣退治の任に選ばれたと聞き、エルンは胸が高鳴った。
自分がシャンベル様のお役に立てる。それ以上に光栄なことなどない。
早速、シャンベル様のお館に出向いた。
館では、なんとラガルド家のお嬢様であるフィア様が、直々に丁寧な説明をしてくださった。
地図と呼ばれる、この街周辺の絵が描かれた紙のこと。その見方。
狩場、と言っていた最初に行くべき場所。そして、隣街への任務。
その先に、最終目的である魔獣退治があるらしい。
どのようにつながるのかはエルンには分からなかったが、まずは隣街へ行き、その様子を報告すれば良いとのことだった。
その後は、ありがたいことにアリシア様もお言葉をかけてくださり、術式をかけてくださった。
この街で生まれ育った者なら、お二人のことは昔から知っている。
お二人とも聡明に、美しくお育ちになったものだ。
自ら希望する者がいるなら、五人まで仲間を連れても良いと聞いたので、迷わずにレトとダンを誘った。
二人とも、この街で生まれ育ち、信頼できる仲間だ。余所者たちとは違う。
当然のように、二人とも快く引き受けた。エルンのおかげでシャンベル家のお役に立てると、大喜びだった。
三人で武器を持ち、食料を積んだ荷車を引いて、狩場と聞いた場所に向かった。
ここにいる魔獣を狩り、街まで運べばシャンベル硬貨と換えていただけるとのことだ。
まずは金を貯め、それで隣街までの食料など、必要なものを買えばよいとフィア様が教えてくださった。
それならば、その通りにするのが当然だ。
エルンたちは農地を越え、狩場へ進んだ。
ここからは、魔獣がいつ現れてもおかしくない。
警戒しながら、三人は進む。
グルルル、と唸り声が聞こえた。
声が聞こえた方を向くと、狼のような魔獣が唸っている。
「レト、ダン! 回り込め!」
エルンは二人に指示を出し、自分は剣を構えて魔獣と相対した。
剣を構えながら、じりじりと魔獣に近寄る。魔獣もこちらを見たまま動かない。
距離があと数歩まで迫ったとき、魔獣がエルンに向かって飛び込んできた。
剣で何とか受けると、エルンと魔獣がお互いに弾かれるように仰け反った。
その時、後ろから回り込んでいたレトが、槍で魔獣の背中を突き刺した。
魔獣が苦しみ、悶える。
そこへダンが短剣で魔獣の首を切り裂いた。
首を切られた魔獣は、血を流して倒れ、動かなくなった。
「やったな!」
三人で初の魔獣退治を喜び合う。
この調子なら、隣街にもすぐ行けるかもしれない。
確かな手応えを感じた。
魔獣を狩り、荷台に積み、街に運んで硬貨と交換してもらう。
それを数日繰り返し、隣街への遠征の準備を整えた。
食料を調達し、簡単な防具も買った。
さすがはフィア様の教え通り、全て順調だ。
エルンたちは街を出て、狩場を越え、隣街への街道に入った。
街と、その周辺の農地しか知らない三人には、考えられないくらい遠い世界まで来ていた。
シャンベル領と隣領の間には川が流れ、そこから街道が枝分かれして二つの領地へ続いているらしい。
そのうち、左側の道に進めば良いということだった。
つまり、川が見えるまではひたすら街道を進むだけだ。
街道の横に森がある場所に差し掛かった時、森の方からザワザワ、と木々が揺れる音がした。
「何だ?」
ダンが怪訝そうに声を上げ、少しそちらへ近づこうとする。
その時、突然ものすごい速度で魔獣が突進してきた。
後ろ二本足で走り、鋭い歯がついた巨大な頭、短いが尖ったかぎ爪のついた前足、長い尻尾を持つ魔獣だ。
エルンが剣を構えようとした時には、前に出ていたダンに魔獣が突進していた。
ダンの腹に頭突きするように魔獣の頭が当たり、ダンが吹き飛んだ。
バン! と荷車に当たったらしい音が聞こえるが、魔獣から目を逸らしてそちらを見るわけにはいかない。
エルンは剣を構え、魔獣から目を逸らさないように、突進を食らわないように、いつでも横に動けるようにしながら、魔獣へ近づく。
魔獣がエルンの方を向き、素早く突進してきた。
予見していたエルンは、さっと横に躱す。それと同時に、隣で槍を構えていたレトが魔獣を突き刺した。
突進中の魔獣に横から刺したため、槍が真ん中から折れる。だが、穂先は魔獣に突き刺さった。
その痛みと衝撃で、魔獣が少し横にふらつく。
ふらついて遅くなった魔獣に、エルンが後ろから斬りかかった。
隙だらけの背中をまともに斬られ、魔獣は倒れ、動かなくなった。
「はぁ……はぁ……。ダン! 大丈夫か!」
エルンは、荷車にもたれかかっているダンのもとに駆け寄る。
「あぁ、大丈夫だ。でも、吹き飛ばされたときに足をぶつけてやっちまった」
ダンは足を怪我したが、無事なようだ。
安心して、とりあえず荷車の上にダンを横にして載せた。
「いったん街に戻ろう。危なくなったらいつでも戻るようにと、フィア様も仰っていた」
エルンがそう言うと、二人とも納得して街に戻ることになった。
その時、また森からザワザワザワと音がした。
しかも今度は、複数箇所から聞こえる。
「まずい、エルン! レト! 逃げろ!」
ダンが横になったまま叫ぶ。
フィア様も、本当に危険な時は荷物も何もかも置いて逃げるのが最優先だと仰っていた。
でも、ダンは荷物じゃない。
同じ街で生まれ、共に育った、大切な仲間だ。
申し訳ありません、フィア様……。
心の中で懺悔し、剣を構えた。
隣を見ると、レトもダンが持っていた短剣を構えている。
「おい! 何してる! 逃げろ! 早く!!」
ダンが荷台を揺さぶりながら絶叫する声と同時に、魔獣が何体も同時に突進してきた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エルンは叫びながら、一体目の魔獣に剣を叩きつけた。
魔獣が血しぶきを上げて倒れる。
それと同時に、脇腹に激痛を感じた。
見ると、横から来ていた二体目のかぎ爪が突き刺さっていた。
顔を上げると、目の前に




