第三十五話 約束
俺が目を覚ますと、自室の天井が見えた。
ベッドで寝ているようだ。
巨大魔獣を倒すところまでは覚えている。
あの後は一体……?
「あ! 目を覚ました!」
疑問に思っていると、横からフィアの声がした。
そちらを見ると、椅子にフィアが座っている。
フィア?
あの時、吹き飛ばされたはずだ。
大丈夫なのか?
「お前、大丈夫なのか?」
「平気よ。私も、他のみんなも、重傷の人はいるけど、帰ってこなかった人はいないわ」
それを聞いて、ほっと胸をなで下ろす。
みんな無事だったのか。
あんなに吹き飛ばされて、もしかしたら、と思っていた。
「どうやって帰ってこられたんだ?」
「コレットさんって言って、わかるかな? 上で弓矢を放ってた人。あの後、あの人が吹き飛ばされた人のところへ行って、手当をして、動けそうな人には薬を配ってたの。そして、歩ける人たちで集まり、肩を貸し合って、動けない人を背負って帰ってきたってわけ」
そうか。
全滅してしまったと思っていたけど、もう一人、援護役の騎士は残っていたわけか。
「それにしても、あんな攻撃を受けたのに、みんな無事とはさすがだな」
そう言うと、フィアが少し胸を張るようにした。
「まあね。というか、あんたには事前に言わなかったけど、作戦上、ああやって攻撃を受け止めることになるのは、ある程度予想がついていたのよ。だから、飛ばされながらも、みんなちゃんと受けてはいたの。まともに直撃していたら、全員が助かるってわけにはいかなかったでしょうね」
そうだったのか。
言っておいてくれよ、とも思ったが、事前に言われたら絶対に反対しただろうし、それが気になって、大魔術をうまく放てた気はしない。
結果的に、隠しておかれたのが正解だったようだ。
「じゃあ、みんなに伝えてくるわね。食べやすい果物が置いてあるから、それでも食べて待ってて」
そう言って、フィアは部屋から出ていった。
ベッドの脇の机に、果物が置かれていた。
リンゴのような果物だったけど、食べてみると洋ナシのような食感で、確かに食べやすかった。
どのくらい寝ていたのかわからないが、食べ始めると急に空腹を覚えたので、果物をひたすら食べていた。
すると、また扉が開いて、アリシアとフィア、フィル、そしてクロードが入ってきた。
フィルとクロードは包帯を巻いていて、クロードは足を引きずっていた。
「ラクト様、目覚められたのですね。良かった」
アリシアがいつもの微笑みを浮かべたまま近くへ寄ってきて、かがんで俺の手を両手で握った。
しばらくそうしていた後、俺が黙っていると、はっとしたようにアリシアが手を離した。
「貴様、やっと目覚めたか。約束を果たさずに目覚めなかったら、承知せんところだったぞ」
アリシアが少し離れたのを合図にしたように、クロードが俺に声をかけてきた。
約束。
そうだ。
俺たち四人は、無事に帰ってきて、アリシアに謝るという約束をしていたんだった。
「約束? 何のことですか?」
何も知らないアリシアが、不思議そうに首をかしげてクロードの方を見る。
アリシアに見つめられたクロードは、少し照れくさそうにした後、頭を下げた。
「四人で無事に帰り、全員でアリシア様に謝罪すると約束しておりました」
「謝罪? みなさんに謝られるようなことなんて、何も……」
「アリシア様が内密にと仰っていた術式の負担のことを、ラクト様にお話ししてしまいました! 申し訳ありません!」
クロードが抜け駆けして、一人で先に謝った。
「おい、一人で先に謝るなよ! アリシア、隠していたことを聞き出してしまった。ごめん」
俺がそう言って、急いで謝る。
フィアとフィルも、慌てて頭を下げた。
それを見たアリシアは、微笑みに少しいたずらっぽい表情を浮かべて、
「みなさん、私にそれを謝るために、無事に帰ると約束したのですか?」
と聞いた。
フィアが、そうよ、と答えると、
「それなら、ずっと許しません。そうしたら、またみんな、無事に帰ってきてくれるのでしょう?」
と、冗談めかして言った。
クロードは、おそらく冗談だということはわかっているのに、一度頭を上げると、
「はっ! 申し訳ありません! お許しいただけるまで、何度でも帰り、謝罪いたします!」
と、大真面目に言いながら、深々と頭を下げた。
それを見て、俺も続いて、
「わたくしめも、何度でも謝罪しに帰ってまいります!」
と、深々と頭を下げながら言った。
その俺を見たフィアとフィルも、
「わたくしたちも!」
と言って、深々と頭を下げた。
それを見たアリシアは、おかしくなって、笑いが止まらなくなったようだった。
「もう! みんなやめてよ、頭を上げて!」
と言いながら、普通の女の子のように、けらけらといつまでも笑っていた。




