第三十三話 遭遇
森の中は暗く、足元も不安定なうえ、警戒を続けているので、一歩一歩の歩みは遅い。
それでも、着実に、犠牲も出さずに前へ進み続けている。
魔獣には何度も遭遇していたが、あっという間に騎士たちに倒され、俺のところに来るどころか、隊列もほとんど乱れない。
最初のうちは魔獣を見るたびに足が竦んでしまいそうだったが、少しずつ冷静になれるようになってきた。
ガサガサ、と先頭を歩くベルナールさんの前から物音がした。
そちらに目を凝らすと、木々の間から動く影が見えた。
それも、今度は一体ではない。
三体の魔獣が、同時にこちらへ向かって歩いてきていた。
ベルナールさんは、前方に木々の隙間が少し空いている場所で立ち止まり、左右に目配せをして、小声で何かを言った。
何を言っているのかは聞こえなかったが、対処法を伝えたようだ。
隊列も止まり、魔獣が近づいてくるのを待つ形になった。
魔獣は、隊列が止まったのを見ると、勢いを増して向かってきた。
それも、一体ずつではなく、三体同時に向かってくる。
魔獣の側にも、何らかの連携を取る術があるのかもしれない。
魔獣が木の陰から姿を現し、ベルナールさんに向けて勢いよく拳を振り下ろした。
ベルナールさんはそれを軽くかわした後、大きくその場で飛び上がると、片手で持っていた剣を両手に持ち替え、上から下へ振り下ろした。
頭から胴体まで、魔獣の体が一気に斬られ、そのまま後ろへ倒れた。
着地したベルナールさんに、横から他の二体の魔獣が左右同時に襲いかかろうとする。
しかし、右から迫った魔獣には、盾を構えた騎士が体当たりし、それと同時に、左から迫った魔獣には、細身の騎士が関節を狙って細剣を繰り出した。
右の魔獣は、体当たりで体勢を崩されたところへ、ベルナールさんの剣が襲いかかる。
そして、左の魔獣には、腕の関節を刺されて怯んだところへ矢が飛び、さらに細剣が何度も繰り出された。
細剣の攻撃は、ベルナールさんの剣と違い、一撃で倒せるようなものではなかったが、足や腰の関節を何度も突かれ、少しずつ体勢が崩されていく。
華麗に舞う騎士と、それに翻弄されながら少しずつ崩れていく魔獣は、まるで何かの舞を一緒に踊っているようだった。
舞の最後には、地面に手をついた魔獣の胴体にも細剣が繰り出され、やがて魔獣は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「すご……」
思わず声が俺の口から出る。
あの三メートルの魔獣が三体も現れたのに、たった三人で一気に倒してしまった。
「あのお三方ならば、あれくらい当然だ」
「やっぱり、ベルナールさんの両脇にいる二人って、他の騎士家の当主とかなのか?」
「はい。右の方がデュヴァル家のガストン様、左の方がモンレーヌ家のオリヴィエ様です。お二人とも、それぞれの家の当主です」
俺の疑問に、フィルが答えてくれた。
俺の勝手な予想だったが、正しかったようだ。
でも、単純に家のバランスというだけでなく、実力から考えても妥当な配置なのだろう。
流れるような動きで倒された魔獣たちを見ながら、そんなことを考えていると、再び隊列が動き出した。
俺も慌てて歩き出す。
さらに少し歩くと、急に木々が倒れ、視界が開けている場所に出た。
ここが、ガレンが襲われ、木々を倒された場所だろう。
今までとは違い、明るく、先まで見通せる。
奥の方では、ぽっかりと空いた空間に光が差している。
そして、一度降り注いだ光が周囲に反射し、その空間を青色に染めている。
その空間だけ、イルミネーションで青くライトアップされたようで、暗い周囲の森とは別の世界があるかのようだった。
しかし、その綺麗なおとぎ話のような世界の向こう側に、茶色の小山のようなものが見える。
あれが、巨大魔獣だろう。今回も、こちらに背を向けて横になっているようだ。
「ここからでは木を盾にできない。少し横へ逸れて接近する」
ベルナールさんの指示で、隊列が進行方向を少し変え、森の中から青色の世界へ近づいていく。
光が再び木々に遮られるが、遠くに青い世界は見え続け、それが少しずつ近づいてくる。
もう少しでたどり着くと思ったところで、ベルナールさんがこちらを振り返った。
「ここで大魔術の準備を。我々が引きつける」
俺に向けてベルナールさんが言う。
俺が頷くと、ベルナールさんが騎士たちに指示を飛ばした。
傘のような形だった陣形から、後ろの方にいた騎士たちが前へ移動し、横二列に並んだ。
騎士たちは前へ進み、青色の世界のすぐ手前で足を止めた。
「五秒後に一斉攻撃する! 攻撃用意!」
ベルナールさんの、大声ではないが鋭い声が飛ぶ。
巨大魔獣への攻撃が始まるらしい。
俺はそれには加わらず、腰に下げていた四種類の触媒を取り出し、両手に握りながら、大魔術のイメージを始めた。
「五、四、三、二、一」
合図とともに、炎が剣や矢や球など、さまざまな形で出現した。
それぞれが、自分の想像しやすい形で魔術を使ったようだ。
そして、その炎が一斉に一か所をめがけて飛んでいった。
「ウォォォォォォォォ!」
地響きが起きたかと思うような振動とともに、魔獣の大きな叫び声が響いた。
続いて、ズルズルと何かを引きずるような音がした。
当然のように、今の魔術だけでは仕留められず、巨大魔獣が立ち上がったようだ。
まだ魔獣の姿は見えないが、現れる場所を想像し、火、水、雷、風を表す、赤、青、黄色、緑の光が渦巻くところを思い浮かべる。
今度は銃ではなく、もっと大きな、レーザービームを撃ち出す大砲のようなものに渦を集めていく。
これが十分にたまったら、ここからビームのように渦巻いた光を飛ばす。
その準備を、ずっと頭の中で続けていた。




