第三十二話 騎士達の実力
隊列は、静かに、整然と街を出て、森が見えるところまで進んだ。
「こちらからは入らず、迂回して背面から突入する」
「はっ」
それだけの言葉を交わすと、森から一定の距離を保ちながら、回り込むように進んだ。
街に近い側は、魔獣が多いため、回り込んで向こう側から入った方が良い。
勇者たちがもたらした情報からわかったことだ。
最終的には、小型の魔獣も退治する必要はあるが、今日の目的は巨大魔獣の討伐。
巨大魔獣にたどり着くまでは、できるだけ余計な戦闘を避け、体力を温存したい。
それで、ガレンが通った道と同じところを辿る手筈になっていた。
街の反対側まで回り込むと、今度は少し森に近づき、そこで俺たちは一旦足を止めた。
「展開」
ベルナールさんが一言だけ言うと、前にいた騎士たちが、二列で縦に並んでいた隊列から、俺たちを守る傘を広げるように、斜めに展開した。
陣形などの細かい戦術は、あらかじめ共有されているらしい。
何の打ち合わせもなく、静かに、素早く全員が動く。
俺たち四人は、出発時からの配置を崩さないまま、傘の中央へ移動した。
前にフィル、斜め後ろにフィアとクロード。俺を囲む三角形の外側に、さらに騎士たちの守りが敷かれた形だ。
騎士たちは位置に着くと、各々剣を抜いたり、兜を被ったりして、最終準備を整えた。
集まっていた時も感じたことだが、騎士たちの格好や武器は各々違う。
俺の勝手なイメージだと、全員が鎧兜に身を包み、同じ装備を持って戦うものと思っていたが、この街の騎士たちはそうではないらしい。
それに、さっきのクロードの言葉を聞いた後だと、単に隊列が戦略的な意味だけで構成されていないようにも感じた。
どの騎士がどの家の騎士かは聞いていないが、今残っている騎士家は四つだけだ。
そして、それぞれ髪色に血筋の特徴が出るらしく、それを見ると大体どの家かはわかる。
ベルナールさんの左にいるのは、大柄で、がっしりとした男性で、大きな盾を構えている。
重そうな鎧兜を身につけているが、さっき兜を着ける前に見えた髪は、茶髪だった。
そして、右側に立つ男性は、対照的に細身で、何も防具のようなものは身につけておらず、動きやすそうな服を着ている。
武器は、細剣というのだろうか、細くて、鋭い剣を持っている。
この人は、少し青みがかった濃紺の髪色だ。
この作戦の要は、大魔術を使う俺と、それを守る小隊だ。
そこに含まれる三人は、フィアとフィルのラガルド家、そしてクロードの家。
この隊に含まれていない二家が、ベルナールさんの左右の、最も重要な位置に配置されている。
そうやって、四つの家のどこかが重要な位置を占めすぎないように、そういった配慮がされているように感じる。
戦闘上の合理性と、政治的な合理性、その両方を満たした陣形を組むなんて、俺にはとてもできそうにない。
特に、四つの家のバランスなんて、今まで全く考えたこともなかった。
「入るぞ。中に入ったら、コレットは上へ」
「はっ!」
ベルナールさんに、弓を持った女性が答えた。
それを合図にして、ゆっくりと隊列全体が前へ進む。
森へ入ると、コレットは素早く木を登った。そのまま枝から枝へ移り、俺の上方を進んでいく。
この人は、弓で遠距離から援護する役のようだ。
中に入った後は、日中なのに薄暗く、前を歩く騎士たちと木々しか見えない。
そう思っていると、
「マルセル、レオン」
と静かな口調なのに響くベルナールさんの声が聞こえ、それに返事をした騎士の方を向くと、隊列のすぐ近くまで三メートルほどの大きさの人型魔獣が迫っていた。
ヒュッ!と上から音がしたと思ったら、魔獣の顔に矢が突き刺さり、悲鳴を上げながら魔獣が顔を抑えた。
その魔獣に近づいた騎士が、長い柄の先に、棘の生えた鉄球がついた武器を魔獣の足の付け根に叩きつける。
片足が崩されて一気に体勢を崩した魔獣に、もう一人の騎士が剣を振り下ろし、首を斬り落とした。
その後、何事もなかったかのように、隊列に二人が戻ってきて、隊列も進み始めた。
「おい、後ろに下がるんじゃない」
クロードの声がする。
別に動いたつもりは無かったが、いつの間にかクロードの方に寄っていたようだ。
「悪い、勝手に体が動いて」
「貴様が逃げ惑うと、かえって危険だ。戦闘が始まったら、何があっても動くな」
「俺が動いたらまずいのはわかるけど、何があってもって……」
「そいつなりに、絶対に守るって言ってるのよ。悔しいけど、実力ならあたしたちよりそいつの方が上だから、安心して」
俺が言葉に詰まっていると、横からフィアの声がかかる。
あのフィアやフィルより強いってマジかよ。
二人だけでも頼もしすぎたのに。
それに、さっきの騎士たちも、あのデカい魔獣を何事もなく作業のように倒していった。
言葉も発していないのに、連携も抜群。
騎士たちの実力は、本当にすごい。
でも、その騎士が五十人でかかってもやられたことを思うと、頼もしさと同時に、この先への恐怖も少し湧いてきてしまう。
「ふん、珍しく殊勝なことだな」
「あんたの方が、年上なんだから、仕方ないでしょ!絶対にそのうち抜かすんだから!」
「目標を高く持つことだけは、感心だな。達成できるかはともかくとして」
またクロードがフィアを挑発するようなことを言う。
最初に会ったときもそうだったが、これはクロードの性格というより、二人の間柄がこうなのかもしれない。
この前は本気で怒っているようだったが、今回は特にそんな様子はなく、フィアがからかわれているような感じだ。
何だか、普段見ていたとは違う、新たなフィアの一面を見たような気がする。
「バスティアン、マノン」
またベルナールさんの声がした。今度はそれに槍を持った男女が応じる。
そちらを見ると、また魔獣が迫っていたが、また矢が飛び、怯んだところに長い槍を下から胴体を突き破るように二人の騎士が突き刺す。
それだけで魔獣は動かなくなり、また二人の騎士は隊列に戻ってきた。
魔獣を見たら、また俺の足が動きそうになったが、今度は意識して地面に踏みとどまった。




