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第四話 最初の狩場

 フィアが出て行った後、部屋に残された俺は一人考え込んでいた。


 アリシアは貴族として、領主の娘として、いろいろ思い悩んだ末に、トマの結末も想定したうえで俺の案に乗っていた。


 この世界における知識、常識、覚悟、そして力。

 どれを取っても、俺がフィアやアリシアに敵うはずがない。


 俺はやはり、異世界の知識に頼るしかない。

 ゲームでも、アニメでも、何でもいい。

 そこから何か糸口を見つけるしかない。


 アリシアもフィアも言っていたように、いきなり一人で魔獣退治をして解決、というのは無理だ。

 ゲームで言えば、いきなり魔王と戦うようなものだろう。

 今の状況は、最初の街の周りに弱い魔物も強い魔物も出てくるようなもの。しかも、現実には時間制限がある。

 その代わり、こちらには強い魔物にも対処できる騎士がいる。

 なら、最初から強い敵とぶつからない仕組みを作れないか。




 ガチャリ。

 さっきとは違い、静かにドアを開けて、フィアが戻ってきた。


「取り乱してすみません。また落ち着いたら話を聞かせてください、だってさ」


 アリシアが座っていた席にドサッと座りながら、フィアが言う。


「あんたのせいでアリシアが泣いちゃったじゃない」


「いや、お前だろ!」


 アリシアに対してなら心の中で突っ込むところだが、フィアの前では普通に声に出してしまった。


「そうだよね……言い過ぎた……」


 さっきまでの勢いがどこへ行ったのか、フィアは机に突っ伏して落ち込んでいる。


「まあ、確かに俺が言い出した案のせいで、さっきの話になったわけだから」


「そう。だから、あんたも半分悪い!」


 ちょっと慰めようとしたら、顔だけ上げたフィアにそう言われ、共犯にされてしまった。

 俺の案のせいでアリシアが悲しむことになったのは事実だから、仕方ないか。


「ところで、さっき討伐隊って話をしていたよな。前に一回やったことがあるのか?」


「ん? ああ、魔獣が増え始めてしばらくしたころに、ベルナールおじさまが指揮を執ってね。南の森が特に異常だって突き止めて、大半の騎士を引き連れて行ったんだけど、うまくいかなくて」


 体を起こし、少し思い返すようにフィアが答える。


「大人の騎士たちの多くが、そこでやられちゃった。それからは、あたしも警備に出るようになったんだ」


 ベルナールは、確かシャンベル家の当主――要するに、アリシアの父親で、この地の領主の名前だ。

 つまり、領主自ら指揮を執った主力の討伐隊でも駄目だったということか。


「それなのに、また討伐隊を組んだ方がいいって言ってるのは?」


 俺がそう言うと、フィアは痛いところを突かれたというように、少し不満そうな顔をした。


「ついつい、ああいう議論になると言っちゃうんだけど、あたしだって厳しいっていうのは分かってる。前回は入らなかったあたしたちを入れても、前回より人数は少ない」


「でも、あの時よりも一人一人は強くなったんだ。あの時は魔獣なんて相手にする経験はみんな無かったけど、今は街を守りながら経験してる。普通の訓練と違って、魔獣を倒す経験は特別なんだ」


 ゲームでいう経験値を稼いでレベルアップ、みたいなことが起こるってことかな。

 訓練も魔獣退治もしているフィアが特別だと言う以上、魔獣と戦うことには何かしらの効果があると考えておくべきだろう。


「ちなみに、前の討伐の時は何人で、今度行くとしたら何人なんだ?」


「えっと……前回は確か五十人くらいで、今は」


 そう言いながら、フィアは指を折って数を数えていく。


「全員行って、十五人かな」


「少なっ! 無理があるだろ!」


「農民一人で行かせたあんたに言われたくない!」


 そう言われると、何も反論できない。


「前回の討伐もそうだし、領内の農村からの避難とか、いろいろあったんだ」


 フィアの声色が、少し感傷的に聞こえた。


 前回は全員で行ったわけではないのに五十人。

 今は全員で十五人。

 それまでに、多くの仲間たちを失ってきたのだ。


「そもそも、全員で十五人って、よくこの街全体を守れてるな」


「ベノナ草っていう、魔獣が嫌う草があるんだ。それを使って、できるだけ魔獣が近づかないようにしてる」


「魔獣が嫌う草?」


「うん。農地の周りに植えておくと、魔獣があまり寄ってこないんだ。だから街の近くには、ほとんど来ない」


「便利だな」


「でも、直接見つかると追ってこられちゃう。だから周縁部の農民は、場所を交代しながら作業させて、その周りをあたしたちが警備してる。農民には、もし見つかったら、とにかく街の城壁の中に逃げ込むように言ってある」


 フィアの説明を聞きながら、頭の中では別のことを考えていた。

 魔獣を遠ざけられる。

 つまり、魔獣の動きをある程度は制限できるということだ。


「そのベノナ草ってやつを使うと、魔獣が寄ってこなくなるんだよな」


「うん。それを植えて、魔獣の来ない場所を作ってる」


 魔獣の来ない場所を作れる。

 魔獣の生息範囲を、ある程度は制御できる。


 それだ!


 街の周りにいきなり強敵が出るのが問題なら、強敵が出ない、雑魚敵だけの場所を作ればいい。


「なぁ、フィア」


 俺が突然、少し興奮気味に名前を呼んだせいか、フィアが驚いたようにこちらを見る。


「さっき言ってた、お前一人で魔獣退治。採用だ」


「な……」


 さらに驚いたのか、さすがのフィアも体が固まっている。


「南の森に一人で行けって話じゃない。いつもの警備に、ちょっと追加するだけさ」


「は? どういうこと?」


「ベノナ草とフィアの力で、狩場を作るのさ」


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