第二十六話 リーナの行き先
俺たちは、朝起きたらすぐに村を出発し、リーナが通った道を辿り、コンスタンの前まで来た。
そびえ立つ城壁、そして、壁の大きさに似合わず小さな門が開きっぱなしになっている。
リーナの記録通りだ。魔獣を招き入れるために、あえて開けたままの門。
「行くぞ」
俺が声をかけると、二人が頷いた。
とはいっても、声かけただけで俺は先頭じゃないんだけどね。
二人の方が圧倒的に強いんだから仕方ない。
フィルが先頭、フィアが次、そして俺の順でコンスタンに入っていく。
中に入ると、家が立ち並ぶきれいな街並みだった。
俺が知るヨーロッパの古い町並みのような感じだ。
シャンベルの街とも、似たような感じ。
よく見ると、魔獣が体を引きずった跡と思われる傷が見えるが、それもぱっと見だと全然わからない。
ここまでは普通の街なのだが、目を街の中心の方に向けると、一気に普通とは言えなくなる。
高くそびえる塔は、単なる丸い塔ではなく、横に何か飛び出ていたり、ギザギザしていたり、不思議な形をしている。
そして、その塔にまとわりつくように、巨大な魔獣が飛んでいた。
その姿は、まさにドラゴンだった。
緑色で、巨大な翼と鋭い爪を持ち、角の生えた頭がある。
ここからでもそれが分かるくらいの大きさだ。
少なくとも二十メートル、いや、もっと大きいかもしれない。
そんな化け物が、塔の周りを様子を窺うように飛んでいる。
見ていると、塔から激しい雷がドラゴンを貫き、数秒後にバリバリ!と音が鳴った。
直撃したドラゴンはそれでよろめいたが、落ちはせずに塔から離れ、今度は遠くから様子を窺っている。
魔獣の大きさも、魔術の大きさも、俺が知るものとは桁違いだった。
「ほら、何ぼーっと見てるのよ。オルヴァンって人の家を探すわよ」
俺が塔とドラゴンの戦いを眺めていると、横からフィアに声をかけられた。
俺の目的は、あの塔じゃない。あくまでリーナを助けること、そして、できれば触媒も手に入れることだ。
目をまた周りの家に向けた。でも、どの家がそうかなんて、全然わからない。
「オルヴァンさーん!」
俺がどうしていいかわからずに今度は家を眺めていると、普通にフィアが声を出して呼び始めた。
「お、おい!そんな大声出して、魔獣に気づかれたらどうするんだよ!」
「そうは言っても、他に方法がないじゃない!全部の家をノックして確かめろとでも言う気?その方が時間がかかって危ないわよ」
うーん、なんだか納得はいかない。でも、他の方法が思いつかないというのは確かだ。
「オルヴァンさーん!いませんか?リーナさんの知り合いの者です!」
フィルも続けて始めてしまった。ええい、もう仕方ない。
俺も声を出そうとしたら、ガチャ、と少し離れたところの家の扉が開く。
「そんな大声を出すんじゃない。いいから、入りなさい」
この人がオルヴァンという人だろう。老人が扉を開けたまま俺たちの方を見て手招きしている。
俺たちは、頷き合うとオルヴァンさんの招きに応じて、家に入った。
中に入ると、椅子に座るように言ってくれた。
すぐにでも話を聞きたかったが、焦る心を押しとどめて椅子に座った。
「それにしても、昨日に続いて若者の来客とはな。リーナの友達かい?」
俺たちが座ると、オルヴァンさんが口火を切った。
「そうよ。リーナがどこへ向かったか、聞きたいの」
リーナの名前が出て、我慢ができなくなったのかフィアが答える。
「リーナと会ってここに来たわけではないのか?だったらなぜ私の名前を?」
オルヴァンさんは、そう尋ねたが、俺たちが答える前に続けた。
「聞くまでもないか。そういう術式の使い手が居るのだな」
さすがは魔術都市に住む元魔術師だ。
アリシアの思念術式に似たような魔術、もしかしたら思念術式そのものも知っているのかもしれない。
「ええ。その術式でリーナがオルヴァンさんと話したことを知って、探していたの」
「事情は聞くまい。リーナは、中心街にある触媒工場へ向かったよ。ここを出たのは昨日だ。途中で会っていないならその近くにまだいるかもしれない」
「お願い!その工場の場所を教えて!」
「ああ、いいとも。リーナに書いてやったのと同じ地図を書いてやろう」
そう言って、オルヴァンさんは紙を取り出して、そこに地図を書き始めた。
フィアはもう頭がその工場に向かっているみたいだが、もう一日経っていると考えると、本当にそこにいるかどうか、わからない。
それに、昨日から戻っていないということは、途中で魔獣に襲われた可能性が高い。
そう考えると、他に逃げ場のようなところがあれば、そっちに行っているかもしれない。
「あの、オルヴァンさん、その工場の近くに、避難所とか基地みたいな逃げ場になりそうな場所って何かありますか?」
俺が問うと、オルヴァンさんは地図を書く手を動かしながら、少し考えるように頭をかしげた。
「いや、中心街の中央付近にはいくつか拠点はあるのだが、あそこは中心街の端だ。あの近くには、そういうものはないな」
「だったら、何か魔獣から逃げられそうな頑丈な建物とかでも」
「中心街には、特別な結界が張られておる。塔にまとわりついているような大型魔獣に攻撃されたりしない限り、どの建物も壊れたりはせんよ」
「それなら、リーナはまだその工場に取り残されてるかもしれないわ!」
オルヴァンさんの言葉を聞いて、フィアが希望を持ったような、明るい声で口を挟んでくる。
「ああ、きっと無事でいるよ。あの子は、慎重で、無理をするような子には見えなかった」
「そうよ!その通りよ!中で助けを待っているはずだわ!」
「リーナが、わしに友達の話をしてくれてな。君が、その友達かな?」
そのフィアを見て、オルヴァンさんが突然話題を変えた。
「それはわからないけど、リーナとは小さいころからの大切な友達よ」
「そうか。二人とも、お互いにいい友達を持ったな。今日じゃなくてもいい、無事に会えたら、今度は二人でここに遊びに来てくれないか?リーナも、次は友達を連れてくると言ってくれたんだよ」
オルヴァンさんは元々ある皺をさらに深くしながら、笑顔でフィアに向けて言った。
「ええ、必ず」
答えるフィアも、さっきまでは少し緊張気味というか、焦ったような顔をしていたが、笑顔に変わっていた。
オルヴァンさんは、フィアが焦っているのを見て、話題を変えてくれたのかもしれない。
「ほら、できたぞ。ここにある通り、この通りをまっすぐ行って、壁を越えたら中心街だ」
そう言って、オルヴァンさんは紙を手渡してくれた。
フィアがそれを受け取る。
俺も横から見たが、地図は手で即興で書いた簡素なもので、この家から中心街へ向かうまっすぐな道と中心街の壁、それと中心街に入ってから工場までのいくつかの建物が書いてあるだけだ。
中心街に入って、左側に五軒目の建物が、目的の工場だ。
俺たちはオルヴァンさんに礼を言い、早速中心街に向かった。




