第二十四話 別の雷
俺たちが街に着くころには、雨は弱くなってきていたが、別の雷が落ちていた。
「黙って一人で行っちゃうなんて、そんなに私のことが信用ならなかったの?」
「いや、そういうわけじゃ……。ただ、止められるんじゃないかって」
「当然こんな無茶は止めるわよ。大体、食料も何も持たずに行くなんて、もし合流できたとして、どうするつもりだったの。助けに行くどころか、リーナさんに助けてもらわないといけないじゃない」
「それは、その……。ごめんなさい」
アリシアの前で、フィアがたじたじになって謝っている。アリシアの口調は柔らかいが、この調子で正論を並べられると、逆に怖い。
俺たちは、街に着くと、まずはベルナールさんのところに報告に行った。
ベルナールさんは、色々言うのはテオルドに任せよう、とりあえず無事でよかった、とだけ言っていた。
テオルドというのは、フィアとフィルの父親の名、つまりラガルド家現当主の名だ。
前の討伐隊の時に負傷して、今は前線には出ていないらしいが、それでも夜はベルナールさんに代わって警備の総指揮をとっているらしい。
そのせいで俺はあまり会ったことはないが、名実ともにベルナールさんの右腕だ。
ラガルド家の次期当主があれだったことを考えると、恐ろしくなる。フィアは何も言われなかったのに、逆にひきつっていた。
そしてその後が、今の雷だ。
珍しくフィアは、あれからずっとしょげている。まあ、今の状況でいつも通りだったら、それはそれで問題だが。
しばらく雷が落ちた後、
「とにかく、今日はもう休みましょう。明日また、リーナさんをどう助けるか考えましょう」
とアリシアが俺たち全員に向けて言った。それに対して、フィアが顔を上げた。
「え?」
「何? フィア、私をまた除け者にするつもり?」
「だって、止めるって……」
「まだ分からないの。フィアが危ないところに行くって言ったら、それは止めるわよ。でも、それでもどうしても行きたいって言うなら、その時は協力して、どうすれば一番うまくいくか考えるわ。それなのに、ちょっと止められそうになったくらいで、相談もせずに一人で行っちゃったのが、私は一番許せないの」
まずい、せっかく収まったと思った雷が再発した。
俺とフィルで怒るはずだった部分は、全部アリシアにとられてしまったようだ。
まあ、一番怖い気がするから、これでいいか。
しばらくして雷が収まった後、翌日にまた集まることにして、解散になった。
その前に、リーナの記録をどう読むかをフィアに聞いた。
「気持ちが書いてあるところは、覗き見してるみたいだから、見たくない」
フィアは、少し目を伏せてそう言った。
いつもはアリシアが、魔具が出したものをそのまま書き写していたが、今回はフィアにはその部分を削って見せることになった。
翌朝の明け方から、さっそく俺たちは集まって話をしていた。
この日に新しいリーナの記録が得られていて、リーナはコンスタンに無事着いたようだ。
オルヴァンという老人から得られたコンスタンの情報も気になることだらけだが、今はリーナの動向を追う。
「リーナは、コンスタンに着くまでに三日かけたみたいだな。二回途中の村で休んでる」
「急がないと。追いつけなくなっちゃうわ」
「フィア、落ち着いて。昨日は、雨が降ったころには村で休み始めたみたいですね。お昼は回ってましたが、それほど遅くない時間に降り始めたと思います」
ということは、一泊して、次の日の昼すぎにはコンスタンの近くの村に着いていたということだ。
「だったら、急げば今日中に着けるか?」
「夜になったら危険です。三日はかからないと思いますが、二日はかけたほうが良いと思います」
「リーナさんなら、きっと大丈夫ですよ。姉さんと違って慎重ですから」
フィルの切れ味が増している。いつもだったら拳骨を食らってそうだが、今回はフィアも反論の余地がなさそうだ。
「こっちは三人なんだし、二日なら大丈夫だろう」
「え?三人ってどういうこと?」
「は?俺と、フィアと、フィルだろ。お前、まさかまだ一人で行く気だったのか!?」
図星だったらしく、ちょっと間が開いたが、
「ち、違うわよ!なんか足手まといが一人混ざってるから気になっただけよ」
言い訳に反撃してきた。いつもの調子が少し戻ってきたようだ。
「足手まとい?ああ、一人で突っ走っちゃう誰かさんのことか」
「ぐっ……!」
「よーく反省したまえ」
「でも、あんたに言われるとムカつく!」
それを見ていたアリシアが、ふふっと笑う。
「ラクト様、今度は突っ走らないように、よく見ておいてくださいね」
止めるかと思ったらまさかの追撃だった。
「アリシアまで! 悪かったからもう許してよぉ」
皆でひとしきりフィアをいじった後、アリシアが真面目な表情に戻る。
「休むなら、リーナさんの一泊目と同じ村。森から逸れたところの村がいいでしょう。ここが一番安全そうです」
俺たちもそれに頷く。
「そこからコンスタンに向かえば、二日目は明るいうちにコンスタンに着けるはずです。その後は、このオルヴァンさんという方を探さないといけませんね」
「どうやって探すかが問題だな。リーナはたまたま向こうから声をかけてくれたが、同じことしてたら、危ないみたいだし」
「門を入ってすぐの所みたいだから、普通に名前を呼んで探したらいいじゃない」
「うーん。確かに、それしか方法はないか」
こうして、方針は大体決まった。あまり時間をかけていると、今日中にあまり進めなくなってしまう。
話し合いは早めに切り上げて、さっそくリーナを追う旅に出発した。




