第十九話 魔術都市コンスタン
魔術特訓を終えた俺とフィアは、シャンベル家の館に戻り、アリシアのところへ寄った。
「アリシア、コイツ、魔術だけは意外と向いてそうよ」
だけってなんだよ、だけって。
「そう、よかったわ」
フィアの言葉に、アリシアはつぶやくように答えた。
いつもの笑みはなく、明らかに元気がない。
「ちょっと、どうしたのよ」
「ごめんなさい。これを見て」
そう言って、アリシアは俺とフィアの方に紙を差し出した。
思念記録のようだ。
今は、触媒が手に入って、次の作戦を考えている段階だから、勇者募集は一時停止中のはずだ。
以前の、帰らなかった勇者の記録だろうか。
その記録は、何度見ても心が重くなる。
アリシアから受け取った紙を見ると、そこには触媒を持って帰ってきたダリオが、故郷の村で果ててしまった記録が残されていた。
俺たちにとっては次への希望だった触媒が、ダリオから見たら、村の最後の価値だった。
「お父様は、彼には、休むようにではなくて、触媒を使った次の役割を与えなければならなかったとおっしゃってました。私も、何かできることがあったんじゃないかって」
アリシアが肩を落とす。
ダリオは、ちゃんと触媒を持って帰ってきたんだ。
アリシアやベルナールさんの言う通り、何かが違えば、こんなことにはならずに済んだかもしれない。
「いや、まだできることはある」
「え?」
「触媒は、村の価値は、確かに村の工場にはもうない。でも、この街にはあるんだ。だったら、それを精一杯役立てるのが、ダリオに対して俺たちができることじゃないか?」
気休めなのはわかってる。
でも、そう思うしかない。
ダリオとダリオの村が残した触媒で、魔獣退治をやり遂げる。
「そう……ですね。私たちが、前を向かないと、いけませんよね」
アリシアはそう答えて、少し笑った。
無理をしているような笑い方だったけれど。
「今日は、もう、休みましょ」
黙っていたフィアの一声で、俺たちは解散した。
次の日、俺の部屋にアリシアが訪ねてきた。
いつも以上に真剣な表情だ。
「あの、今後の作戦のことなのですが」
俺の前に座ると、アリシアが切り出した。
次の作戦。
火の触媒を手に入れて、確かに戦力は高まった。
だが、火の魔術を使っても、南の森の魔獣を討伐するのは難しいだろう、というのが今のところの結論だった。
何か手を考えなければと思っていたが、何も浮かばず、手詰まりの状況だった。
「これをラクト様に話すと、次が決まってしまうのではないかと、ずっと言い出せなかったのですが……」
アリシアは何か考えがあったようだ。
「何か、討伐の方法があるのか?」
「確実に、というわけではありませんが、一つ、あります」
アリシアは言い出しにくそうにしている。
俺は、ゆっくりとアリシアが口を開くのを待つ。
「属性魔術を使った、大魔術があるのです。火、水、風、雷、四大属性の触媒を全て使う魔術です」
「おお!普通の火の魔術よりも強力な魔術ってことだろ。だったら、それでさらに戦力が高まる」
何も悪くない、とてもいい話じゃないか。
何をそんなに躊躇していたのだろう。
「残りの三つの触媒がどこにあるかはわかっています。特に、領内にない風と雷については」
「場所もわかってるなら、なおさらいいじゃないか」
「はい。悪い話ではないと思います。風と雷の触媒は、クレール領へ向かう街道を途中で右に曲がったところにある魔術都市、コンスタンにあるはずです。以前の状況なら、あそこに行けるとは思えませんでした。でも、今なら……」
アリシアの懸念がわかってしまった。
触媒は、コンスタンという都市にある。
他の街との交流が途絶えている今、そこがどうなっているのか、そこへの道が安全なのか、何もわからない。
そういう時に、俺たちがずっと使ってきた方法。
貴重な戦力は使わずに、目的を達成する方法。
しかも、その方法も徐々に進歩してきている。
狩場もあり、回復薬も整い、魔術の触媒も手に入った。
今なら、それでコンスタンにも行けるかもしれない。
アリシアはそう判断したようだ。
アリシアの懸念は的中だ。
俺に言ったら、作戦は決まる。
でも、その作戦はアリシアに言わせるわけにはいかない。
「勇者募集を再開する。次の目的は、魔術都市、コンスタンだ」




