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思念記録 十五 その3

 仮宿に着くと、ダリオは疲れ切っていた。

 でも、ただ辛いだけではない、重い仕事が終わった後特有の爽快感も滲む疲れだった。


 そうだ、まずは一旦休んで、また続きをやらないと。

 横になってそう考えた後、ふと気づく。


 もう、村には、触媒はほとんど残っていない。

 この仕事は、もう続きがない。

 ダリオには、もうやることが残っていないのではないか。


 そう考えたが、頭を振って考えを追い出す。

 そうだ、疲れているからこんな考えになるんだ。

 ゆっくり休まないといけない。

 ゆっくり休んで、疲れを癒すには、家に帰って休むのが一番だ。

 明るくなったら、この仮宿を出て、村に帰ろう。


 あまり寝付けなかったが、横になっていたので、体の疲れは少しは癒えた。

 村へ帰る準備として、食料と薬と短剣を持ち、仮宿を出た。


 もう、村へ帰るのも三度目だ。

 だいぶ道にも慣れてきた。

 家が崩れた村を通り、途中の魔獣を避けながら、村へたどり着いた。


 村に着くと、心地よい疲労感に包まれていた。

 家に入り、そのまま横になって休んだ。

 途中、腹が空いて目が覚めたが、少し持ってきた食料を食べると寝る、を繰り返した。

 ずいぶん疲れがたまっていたのだろう。

 やっと目が覚めた時、辺りは暗く、着いた日の夜なのか、次の日の夜なのかもわからなかった。


 そうだ、触媒。

 ダリオは工場に向かった。

 工場に入ると、暗く、ところどころに残された触媒が、微かな赤い光を放っていた。

 ダリオが好きだった、あの、光に満ちた工場は、もう残っていなかった。

 ダリオ自身が、ここから運び出してしまったのだから。

 村の価値が、徐々に積み上げられていくように感じたあの光が、もう一度ここに満ちることはない。

 もうこの村には、荷台に乗りきらなかったわずかな価値しか残っていない。


 ダリオは、残っていた価値を拾い集めると、工場を出た。


 家の近くに戻ると、ガサガサと音がする。


「誰かいるのか?」


 期待を込めて問いかける。


「グルルルルル」


 魔獣の唸り声が返ってきた。


「クソッ!この村には、お前の居場所はないんだよ!」


 ダリオは、炎の球が空中に浮かび、魔獣に向かって飛んでいくところを強く思い浮かべた。

 ダリオが持つ触媒が強く光り、炎の球が一気に魔獣に向かって飛んでいく。


 炎の球のうち、いくつかが魔獣に当たり、そのまま魔獣は苦しみながら倒れていった。

 外れた球が、後ろにあったダリオの家に直撃する。


 ボワッと家に火がつき、一気に燃え広がる。

 それを見て、ダリオは村で火事が起きた時のことを思い出した。


 火の触媒を扱うこの村では、火事が多い。

 その分だけ、村人はみな、火事の恐ろしさをわかっていた。

 小火でも大騒ぎになったし、誰かの家に火がついたときは、騎士様自ら指揮を執り、村全体で消火をした。


 今は、ダリオの家に火がついていても、村は静かなままだった。

 火事だ!と叫ぶ声も、大慌てで水を取りに行く人も、何もない。

 静かに、パチパチと音を立てて、家が燃えている。


 ダリオは、ただそれを眺めているだけだった。

 もう、この村には、家が燃えても消す人もいない。

 必要とされる触媒も残っていない。

 もう、ただの抜け殻だ。


 強くなっていく火を見て、今度は祭りの時を思い出した。

 火の触媒を扱う村だから、祭りも火を使って盛大に行う。

 ダリオも、ほかの皆も、その激しさが好きだった。


 最期に、盛大な祭りをしてやろう。

 そう思い、ダリオは燃え盛る家の中から、急いで薬を取り出した。


 薬を一気に二本飲み干した。

 ぼやけかけていた頭の奥が、少しだけ冴える。

 指先から抜けていた力が戻り、炎の形をまた思い浮かべられるようになった。


 自分の家がより強く燃え盛るところを思い浮かべる。

 手の中の触媒が光り、パキッと音を立てて崩れると同時に、家の炎がさらに強くなった。


 別の触媒を取り出しながら隣の家の前に行き、そこに住んでいた奴の顔を思い出し、家が炎に包まれるところを想像する。

 光とともに、パキッと音がし、またボワッと家に火がつく。


 また薬を飲み干し、残っていた触媒を砕きながら、家に火をつけて回る。

 途中からは、ダリオがつけなくてもどんどん隣の家から燃え広がっていった。

 辺りには、焼けて崩れる柱や屋根の音が大きく響いた。


 最後に、一番大きなこの村の騎士の家に向かう。

 家に掲げられたシャンベル家の旗と、騎士家の旗が、炎に照らされて揺れている。

 もう、役目を終えたんだ。


 手の中でパキッと音を立てながら触媒が崩れ、強く光った後、旗が激しく燃え上がった。

 旗から家に火が燃え移り、音を立てて燃え広がる。


 ダリオの辺り一面が、赤い火で包まれ、パチパチと燃える音、何かがボンとはじけるような音、崩れるような音、いろんな音で包まれた。


「最後は、賑やかな祭りになったな」


 そうつぶやくと、ズン、と鈍い足音のような音が聞こえた。

 そちらを見ると、強い火の明かりに誘われたのか、巨大な魔獣が立っていた。

 一体だけじゃない。

 何体もいるようだ。


 ダリオは、最後に残っていた薬を飲み干し、ぼやける意識を無理やり引き戻して、触媒を取り出す。


「かかってこいよ!魔獣共!俺がいくらでも相手してやるよ!!」


 声の限り叫び、炎が、魔獣を包むところを思い浮かべる。


 辺り一面の炎から、一部が魔獣に向けて襲いかかる。

 魔獣は火に焼かれて苦しみながらも、ダリオに向かって拳を振るってきた。


 まともに食らい、ダリオは地面を転がる。

 それでも、炎を思い浮かべる。

 周りを見ても、炎だらけだ。


 旗が、家が、工場が、村が、炎に包まれていた。


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