第六十五話 「父のもとへ」
天女学院を離れた雪音は、走っていた。
長い白髪が風に揺れる。
右手には、袖に隠していた短刀。
しかし。
その手は、既に血で赤く染まっていた。
「……父上。」
雪音は足を止めない。
五条会本家。
そこでは今も、一ノ瀬組による襲撃が続いている。
自分が止めなければならない。
それが、自分の役目だった。
「俺が……終わらせる。」
その頃。
五条会本家。
屋敷の周囲には、一ノ瀬組の兵達が展開していた。
「五条家は完全に包囲した!」
「逃げ道はない!」
兵達が次々と屋敷へ向かっていく。
だが。
「……遅い。」
屋敷の中。
五条真人は、静かに座っていた。
周囲には誰もいない。
いや。
正確には。
既に家の者達を全員、外へ逃がしていた。
「これでいい。」
真人は立ち上がる。
「後は俺一人で十分だ。」
外から足音が近づいてくる。
「五条真人を探せ!」
「屋敷の中を全部調べろ!」
兵達が次々と侵入する。
その瞬間。
――ドンッ!
屋敷の中から、凄まじい衝撃音が響いた。
「なっ……!」
一人目が倒れる。
二人目。
三人目。
次々と兵達が倒れていく。
「な、何だこいつ……!」
真人は無言だった。
ただ。
目の前にいる敵を、一人ずつ確実に倒していく。
そして。
最後の一人が倒れた。
屋敷に静寂が戻る。
真人は血の付いた手を見下ろす。
「……一ノ瀬。」
その名を呟く。
「とうとう動いたか。」
その頃。
屋敷へ向かっていた雪音が、遠くから異様な気配を感じ取った。
「……。」
立ち止まる。
静かすぎる。
先ほどまで戦闘が起きていたはずなのに。
「まさか……。」
雪音は再び走り出す。
そして。
五条会本家へ到着した。
目の前に広がっていたのは。
大量に倒れている一ノ瀬組の兵達。
「……!」
雪音は息を呑む。
誰がやったのか。
考えるまでもない。
「……五条真人。」
雪音は屋敷を見上げる。
そして。
ゆっくりと中へ入っていく。
「父上……。」
雪音が向かう先には。
一ノ瀬雪影がいる。
そして。
その前に立つ五条真人がいる。
雪音は知らない。
ここから先。
自分の人生を大きく変えることになることを。
「……行くか。」
雪音は短刀を握り直した。
父親との最後の対峙へ。
一歩。
また一歩。
雪音は屋敷の奥へ進んでいった。




