第48話 エピローグ
デイジーたちの未来は続きます。
ルイーズの後日談は、エピローグ後に投稿予定です。
リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。
一つひとつの反応に力をいただいて、ここまで書いてこられました。
正直、苦しいことも多かったのですが、皆様の反応を支えに頑張れました。
読者の皆様、本当にありがとうございます!
「さて、リチャード。王家から褒美を与えたい。何か望むものはあるか?」
狩猟祭の数日後、私たちは王族の謁見室に呼び出された。
王太子は青と白を基調にした正装をして、王族用の席に座っている。セス殿下は隣に立っていた。
側室の子であるセス殿下は、正式な場で王太子と同列には座らない。
玉座は空いたままだ。
回復の兆しが見えないらしく、近々、王太子に王位を譲るのではないか、という話も出回っている。
初めて目にする王妃陛下は、表情を一度も崩さなかった。
冷たい人――ではないのだろう。
セス殿下の母君が亡くなった後も、対等に扱ったという。
やっぱり、セス殿下の言うとおりルイーズがこの地位についたら国が乱れていたかもしれない。
「そなたの活躍に見合ったものを与えねば、私の面目が立たない。皆も英雄の答えを期待しているぞ」
王太子は盛大なパフォーマンスにしたいらしい。
重臣だとわかる貫禄のある男性陣や、落ち着いた気品のある女性たちが立ち並んでいた。
その視線が、リックに集中している。
「この度のご厚意に感謝いたします。……ですが、狩猟祭でも言った通り、私のすべてを妻に捧げると宣言いたしました。妻の望みが私の望みです」
リックが何度も練習したとおりに片膝をついて口上を述べた。
私もそれに続いて頭を下げる。
「なるほど。では聞こう。マーガレット夫人。君は何を望むのかな?」
ごくりと唾を飲み込む。
緊張で喉が詰まったように、声が出しにくい。
駄目だ。
ここが正念場だ。ダメ元で構わないんだから。
「私の望みを申し上げます。私の望みは――」
――そして半年後。
『王家支援施設“マーガレットの学び舎”』
私は、白い建物に掲げられた看板を見上げた。
“マーガレット”は要らないって何度も抗議したのに……!
でも、立派な建物が出来上がった。
◇◇◇
『市民向けの学び舎?それでいいのか?』
王太子は、一瞬拍子抜けしたような声を出し、軽く咳払いをした。
『市民向け、だけではありません。孤児も通えるようにしたいのです』
私は精いっぱい声を張り上げた。
『孤児も、か。だが……市民や貴族から反発が起きるのではないか?』
ここだ。
アピールするなら最大限に、ね。
『英雄リチャードは孤児ですよ。そんな立派な看板があるのに、王太子殿下は見過ごすのでしょうか。そんな心ない言葉や反対を?』
王太子は顎をひと撫でして考え込んだ後、笑った。
『確かに、それを馬鹿にする者は、豪胆か浅慮な者だけだな。随分と立派な看板だ。面白い。……セスは惜しい女性を逃したな』
セス殿下は、一瞬だけ言葉を詰まらせたように見えた。
隣から不穏な空気が流れてくる。
こら、リック!
『……兄上。それは前に申し上げたでしょう……。私も、その提案に賛成します、マーガレット……夫人』
ええ。国を挙げてリックを英雄にしたんだから。
それを蔑むことは国に砂をかけるようなものだ。
貴族も市民も黙るだろう。
◇◇◇
「ってやり取りが格好良かったんだぜ、さすがうちの嫁!」
「もう、やめてよ!ちょっとやりすぎたかも……って反省してるんだから」
私の横で一緒に看板を見あげていたリックが、隣のリジーに経緯を聞かせている。
いやいや、完成までに何回その話をしたのよ??
でも、律儀に毎回相手してくれている周りに感謝だ。
そう。
完成までに半年かかった。
一番緊張したのは、シスターにこの計画を伝えに行った時だった。
久し振りに会ったシスターは、目元を赤くして私たちを迎えてくれた。
学び舎の庭では、シスターが子どもたちに囲まれている。
入り口に立っている私たちに気づいたシスターが手を振って私たちを呼んだ。
「デイジー!リック!やんちゃな子どもたちがあなた達と遊びたいそうよ!」
私とリックは目を合わせて笑った。
シスターにとっては、私たちはずっと「デイジーとリック」なのだ。
それが、なぜか無性に嬉しい。
私がシスターに手を振って、走り寄ろうとすると、リックが私の腕を掴んだ。
「シスター!ちょっとデイジーは借りていくよ!これから男を見せに行くから!」
シスターはきょとんとした顔をしたが、訳知り顔で笑った。
そして、リックに向かって指を立てる。
「ふふふ。三年前の二の舞いにならないようにね?街中で公開告白をしたリックの真似が、子どもたちの間でしばらく流行っていたんだから」
「……んなっ!そんな昔のことを……!」
リックが一瞬で真っ赤になって言い返した。
――三年前?男を見せる?
シスターと同じような顔をして、リジーも私の背中を押した。
「はいはい。私が代わりに子どもの相手をしてるから、あんたたちは早く行ってきなさい。……リチャード、しくじったら爆笑してあげるから安心しなさいよ」
ひらひらと手を振って、私たちを見送ってくれる。
リックはちらりとリジーに目をやって溜め息をついた。
「うるせぇ、リジーこそ早く答えてやれよ。あのバカ、酔うと絡んで泣きやがる。本当にうざいんだぞ」
「……こっちだって計画があるんですぅ!」
リジーの計画は何となく気づいている。
でも、きっとサプライズにしたいのだろう。
私も、お祝いの準備を進めていたりする。
男性陣には内緒だけどね。
「リジー、あまり無理して動いちゃ駄目だよ」
「わかってるわよ。シスターも知ってるみたいだしね」
そう言ってリジーは庭へ向かい、仲良さそうにシスターと会話を始める。
うん、シスターがいるなら大丈夫。
数か月後が本当に楽しみで、口元に笑みが浮かんでしまう。
リジーが大きく手を振ってくれたので、私も同じように振り返した。
「よし、じゃあ行こうか」
「うん。どうしたの?いつもより落ち着かないみたいだけど」
そのまま、リックに手を引かれて付いていく。
なんだかくすぐったい感情に駆られて俯いてしまう。
繋がれた大きな手から、彼の体温が流れ込んでくる。
……昔から変わらずに温かい。
「デイジー、見て」
顔を上げた先。
学び舎から数区画離れた土地に、それなりに大きな家が建っていた。
赤い屋根……?
まさか――。
「白い壁の赤い屋根で、庭付き一戸建て、庭に大きな犬小屋がある家……だろ?実は内緒で用意してたんだ。……この家で、お前に『おかえり』って言ってもらうのが俺の夢だった」
照れくさそうに、耳を赤くして。
それでも、視線をそらさないで私の両手を握った。
「お前が将来、こういう所に住みたいって、孤児院で言っていた頃から。その頃から、俺もそこに住みたいと思ってた。ここに一緒に住んでくれるか?」
リックがずっと覚えていてくれたのは、それが彼の夢にもなっていたからだったんだ。
嬉しいのに。
なぜか上手く答えられない。
「うん、うん……!わ、私も……」
喉が詰まったように、声が出ない。
彼はそんな私を抱きしめて、背中を優しく叩いてくれる。
そして私の髪に顔を埋めて、優しく問いかけてきた。
「……いい男だろ?デイジーに釣り合うかな」
「世界一いい男だよ……!ばかリック!昔から、ずっとずっと……」
涙でぼろぼろの私の目元に口づけてから、リックは悪戯げに笑った。
「それなら、世界一のいい男に、女神からご褒美をもらわなきゃ、だな」
「……ばか」
思わずリックに抱きついて、声を噛み殺した。
そうじゃなければ、思いきり泣き出してしまいそうだった。
もう、やっぱり狡い。
リックは大きな身体で、私を受け止めてくれる。
「愛してる」
「私も……!私もリックだけを愛してるよ……!」
私は、彼の首に腕を回し、その唇にそっと口づけた。
――転生して、孤児院出身だった。
それでも私は、ここまで来られた。
ちょっとテンションが低いのが悩みだけれど。
これからも、この幸せを噛み締めて。
大好きなリックと、大切な人たちと一緒に頑張ります。
裏話です。
孤児院では、名前は割と簡単につけられています。
孤児院を出るとき、儀式のように自分で名前を変える子もいます。
でも、リックは『デイジー』を他の人には呼ばせません。
シスターだけが呼べます。
改めて読むと未熟な部分も多いのですが、本当に完結できるのか……。
政治? ワイバーン? 自分はアホか、異世界恋愛だろ! とツッコミながら、うわ……つらい、難しすぎる……と思いつつ書き上げました。
本当に、読んでくださった皆様のおかげです。
SSもいくつか用意しているので、楽しんでいただけると嬉しいです。




