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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第46話 英雄のお披露目

後書きに、王太子のSSを載せております。

よければぜひ読んでくださいませ。


リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。


 狩猟祭は終わり、優勝者は王太子に決まった。

 もちろん出来レースだ。

 その辺は、どの貴族も織り込み済みだけれど、そんな空気は微塵もださない。


「皆の者、聞いてくれ!」


 王太子は、周囲から溢れる拍手と称賛の声を、いったん区切らせた。

 それに合わせ、貴族たちの表情にわずかな緊張が走る。


「今回の狩猟祭は、突発的な問題が起きた。それを目撃したものも多いだろう」


 王太子の突然の公表に、会場が一瞬で静まり返った。

 しかしその数秒後、周囲がざわめきに包まれる。


 お茶会の参加者や、狩りのために森へ入っていた男性たちが、互いに囁きあう声がこちらにも届いてきた。


『……騎士が異常に多かったな』

『そう言えば、お茶会の騒動はどうなったのかしら……』


 やっぱり隠しきれるものじゃないわよね。

 なるほど。

 先にバラしちゃう作戦か。


 会場に並べられた獲物を一瞥し、そして待機していた騎士に命じた。


「よし、そこに並べろ。皆、これを見てほしい!」


 王太子のその言葉で、数人の騎士がワイバーンの爪と牙、切り落とされた首、そして翼の一部を並べ出した。


 いやいやいや。

 冒険者の私たちならまだしも……血なんて見たこともないご令嬢は……。

 絹を裂くような悲鳴が上がる。

 それすら、王太子は織り込み済みのようだった。

 阿鼻叫喚だった。

 ふらりと気絶する女性もいる。

 だよね~。

 私が見ても生首はエグい。


「今日の狩猟祭に突然侵入してきたワイバーンだ。これが皆の命を狙っていた。騎士たちはこれの討伐に駆り出していたのだ」


 その言葉を聞いて、数人の男性が腑に落ちたのだろう。

 お互いに、頷きあったり顔を青くしている。


「我が騎士団でも苦戦を強いられた。そこで突然風のように現れ、見事ワイバーンを退治した者が現れた!しかも、すでに番を合わせるとワイバーンを二匹も倒したという!」


 おおおぉ!

 誰かの興奮したような声が引き水になり、会場が沸き返る。

 喝采が鳴り止まない。


 え……この流れって、まさか。

 隣に立っているリックに視線を送ると、彼の顔色も悪い。

 人垣の一番後ろにいた私たちは、距離を取ろうとじりじりと下がっていく。


「待て待て。ここからが本番なんだよなぁ、英雄さん」

「ザクソンさん!」

「いや、聞いてない!」


 リックが抗議の声をあげ、背後の彼に掴みかかる。

 すると、ザクソンさんが観衆のふりをして大声を出した。


「王太子殿下!その英雄の名前は!?」


 その言葉に王太子は一つ頷くと、大仰な仕草でリックの方へ手を伸ばした。

 周囲の視線が、自然とこちらに向いてくる。


「よくぞ聞いてくれた。今回の功労者――冒険者リチャードだ!彼は、S級になってこの国で偉業を為すだろう!」


 隣で必死に首を振っているリックだけれど――。

 これは、明らかな権力者による囲い込みだ……。

 どう見ても逃げられそうにない。

 それならば。


「精いっぱい格好つけてきなさいよ。誰も貴方を利用できないように。一発、堂々とドヤってやればいいのよ!」

「デイジー……」


 情けない顔をした彼の背中を叩く。


「舞台に立つときは、背筋を伸ばしてね。どうせ、シナリオは出来上がってるんだから、身を任せて大丈夫よ!」

「大した嫁さんだよなぁ〜」


 一つ深呼吸してから、リックは顔を上げた。

 その顔は精悍で、さっきまで愚痴を言っていたようには見えない。

「リチャード、こちらへ!」


 王太子がこちらを見て、命じた。

 観衆の視線がこの場に集まり、人垣がざっと横に分かれた。

 リックの前に道ができる。

 彼は、王太子が立っている壇上までの道を、真っ直ぐに進んでいく。


 それを拍手で見送る人々。

 私は、その逞しい背中を見つめていた。


 ――孤児院のリックが本当に『英雄』になってしまった。


 出会ったときは、ただのやんちゃな男の子で。

 でも、ずっと引っ張っていてくれた。

 ルイーズに嫌がらせされている時も、誰よりも早く駆けつけてくれて庇ってくれた。


 本当に、凄い人になった。

 会場にいるかもしれない、ローランとリジーを探す。


(ふふふ!ローランの方が嬉しそうじゃん。リジーは、よかった。罪には問われないんだ……!)


 端のほうで、なにやら興奮した様子で、隣のリジーに話しかけているローラン。

 リジーは、それをあしらって拍手している。


 セス殿下の計らいか、隷属の首輪のおかげか。

 どっちにしろ、私たちはやり遂げたらしい。

 もう、“デイジー”が公爵家に狙われる心配もない。


「今回の狩猟祭の優勝をリチャードにしようと思う!――さて、己の女神に獲物を捧げるのが、慣例なんだが。誰かいるかな?」


 ばちり、とリックと目が合う。

 あれ……これはまさか。

 ざっと今の格好を見てみる。先程、セス殿下のおかげで着替えている。

 しかも……。

 よく見れば、緑色の小さな花に、茶色の葉。それがいくつも刺繍されている。


 狙ってた?

 知っていたのかしら、あの腹黒い王子様は。


「マーガレット――いや、デイジー!やっぱり、俺には“デイジー”だ。俺の女神、なんて柄じゃないが……。あの寒い冬、暖炉の前で俺だけの小さな花を見つけた。そんな気がする」


 きっと会場の人たちは、意味がわからなくて困惑しているだろう。

 でも、私たちの出会いはあの冬だった。

 子どもたちが一つの暖炉で温まりあっていた。

 リックがチラリとワイバーンの生首を見て嫌そうな顔をした。

 ――けれど。


「俺が手に入れたものはすべて、デイジーに捧げます」


 その直後、会場中で拍手が上がった。

 王太子とセス殿下が率先して祝福しているからだろう。

 意味がわからなくても、便乗するのが貴族だ。


 それよりも、私の心の中がぐちゃぐちゃだ。

 リックも、そんな昔のことを覚えていてくれたんだ。

 まったく。格好つけろって言ったのに。

 でも、リックらしい。


 思わず笑みが浮かぶ。


 私はザクソンさんにエスコートされて、彼の前へ歩き出した。

 ザクソンさんが、小声で私に話しかける。


「褒美はキスでいいぞ!ここは見せつけるくらいがいいだろう。……たぶん」

「信用なりませんね。せ、つ、ど。ですね。心に刻んでおきます」


 そうして、リックの前に出た私は、その節度をどこかへ放り投げた彼に強く抱き締められ、みんなの前で口づけられたのだった。


 ――もう!

 とろけるような藍色の瞳で見つめられたら、許すしかない。

 そのまま、彼の頬に唇を寄せた。


「ズルい旦那」

「ぜひ、俺たちの仲の良さを見せつけときたい奴がそこにいるからな」


 ちらりと王族側へ視線を向ける。

 おいおい。

 不敬?いや、公衆の面前??

 どこに突っ込めばいいかわからない。

 王太子殿下は満面の笑みだ。

 何気に、セス殿下の口元が引きつっている気がする。

 端のほうで、補佐官のコンラートさんが怒っている気がする……。


「……年下の王子様よ?しかも意外と純情そうな」

「なら、尚更だ。遅い初恋ほど厄介なものはない」

「想像力働かせすぎ」


 リックはふっと笑顔で答えた。

 瞳が楽しそうな輝きを放っている。気障なことでも言うつもりかしら?

 クスクスと、笑い声交じりでそれを待つ。


「俺の春の女神は、どんな男も引きつけるからな。……つけ込んででも俺に縛り付けておかないと」

「……リックになら、騙されてここを追われてもいいわよ。英雄さん」


 そうして、皆の祝福を受けて英雄リチャードとその妻デイジーがお披露目されたのだった。


 ――ちなみに、セス殿下は盛大に振られたと噂されることになった。


 

実は裏話です。

「あらあらあら。何を考えて、あんなものを並べたのかしら?」

 王太子妃クラウディアが、扇子の先で軽く王太子をつついた。

「いや、あれは騎士団の覚悟と努力をだな……」

「そう。では気絶したご令嬢方への対応も、殿下が責任を持ってくださるのですね?」

「うっ……」

「実は若い淑女から、騎士団との交流会も提案されていたのですが……」

「なに!?」

「これが原因で流れたら……独身騎士の皆様から恨まれるかもしれませんね」

「すまなかったーー!!」

 後日、その話を聞いた騎士たちは口々に言った。

「大丈夫です殿下!下手をすれば、我々の首があそこに並んでいたんですよ!」

「そうです!謝らないでください!」

「お前たち……!」

 王太子と騎士団の間に妙な感動が広がっていく。

 少し離れた場所で、ラスティは呟いた。

「脳筋は救えないな……」

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