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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第45話 リックのところへ

ようやく……!

ようやく甘々が書けましたー!!


リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。


 森を駆けていた。

 まずい、息が切れてきた。


「走りにくいっ……!」


 可愛らしい薄緑のドレスを、隠し持っていたナイフで切り裂く。

 裾が軽くなったぶん、足が前に出る。

 泥濘み、木の根が張り出した足場の悪い場所を必死に走る。

 髪が汗で張り付いて、邪魔だった。


 何分走ったのか。

 森のどの辺りまで来たのかよくわからない。

 無謀だったのかもしれない。


 入り口付近ですれ違った騎士たちの姿も、見えなくなった。

 ふと、走る自分の目の前に、明るい日差しが飛び込んできた。


(眩しい……)

 不意に、視界が開けた場所に出た。

 鬱蒼としていた森で、ぽっかりとそこだけ抜け落ちたような不思議な空間。


 ――そこに、リックがいた。

 治療を受けているらしく、ボロボロの騎士服で、上半身をはだけさせている。

 生きている。

 生きていてくれた。


「リック!」


 私は、倒木に座り込んだ彼の胸に飛び込んだ。

 瞬時に抱きとめられる……が、うめき声が聞こえた気がする。 

 ……ごめん。

 でも、不安で胸が潰れそうだったんだ……。


 彼は、目を丸くして私の名前を呼んだ。


「デイジー!?」

「……リック!無事でよかった……!」


 彼がそっと私を抱きしめた。

 数秒後には、頭と身体をかき抱かれて、苦しいほどだった。


「よかった……俺のデイジーだ……。ああ、癒し。これ、夢じゃないの?まさか筋肉に振り回されすぎた幻?」


 ぶつぶつと呟かれるリックの独り言に反論する。

 崖から落ちたと聞いて、彼が心配でここまで走ってきた。

 それが私だ。


「ばか。幻だったら、もっと綺麗な姿で会いたかったわよ……!こんなに、みっともない姿でここまで来たんだからね」


 泥臭い冒険者、デイジー。

 お上品で可愛らしいご令嬢とは正反対だ。

 これからも、そんな私にしかきっとなれない。

 それでも、絶対に駆けつける。


「こんな幻なんて見ないでよ。汗臭くて、泥だらけで、リックの隣に行くことしか考えられない馬鹿女なんだから」


 そんな私の自虐に、彼は満面の笑みで答えた。

 全身の緊張が抜けているようだ。

 ようやくいつもの彼が戻ってきた。

 そう思った。


「どんなデイジーも、全部俺のものだろ」


 足手まといでも。

 リックを失うかもしれないなら、最後まで隣にいたい。

 そんな私のわがままを許してほしい。


「こいつは無駄な体力馬鹿だから、治療は後回しでもいいだろう。……いくぞ、ザクソン」


 咳払いとともに、ラスティさんがその場にいた大柄な騎士に声をかけて、気を利かせてくれる。


「あ、ああ……。俺も久し振りに、馴染みの店のジェリーちゃんに会いたいな……。席、取れるかな」


 ザクソンという騎士の言葉に、ラスティさんが噛み付いていく。

 いや、本当に彼は紳士なんだよな。

 そういうところが。


「この脳筋が!女性にそういう単語を聞かせるんじゃない……!こういうところが、お前らの駄目で阿呆で脳細胞が死んでいると言っている……!」


 首を傾げて、本気で意味のわかっていないらしいザクソンさんに、ラスティさんがさらに詰め寄ろうとした、その時。

 リックが苛々とした声で叫んだ。


「いいからーー!!空気読め、おっさんども!!」


 それがなんだか……ほっとして。

 無性に笑いたくなってしまった。


「あはは……!みんな馬鹿。もー、リックってば、また変な人たちと馬鹿やってる」


 空気が緩んで、ぽろりと涙が落ちた。

 安心しすぎてしまったみたいだ。


「……デイジーの涙を見た奴います?早く消えないと暴れますよ」

「僕は断じて見ていない……!」

「おいおい、物騒な坊主だな。そんなんじゃ……」


 リックの発言に、ラスティさんは慌てて首を振り、ザクソンさんが溜め息をついた。

 直後に、それを絶望的な眼差しで見るラスティさん。

 目の光が消えているように思える。


「この筋肉マッチョ……!すべての意味で終わってる……。僕は先に戻る。……馬に蹴られて空に跳んでいけ、脳筋め」


 やれやれ、といった風情で太い首をひとつ振り、ザクソンさんはリックの肩に手を置いた。


「嘘だよ。……そこまで野暮じゃねぇ。報告はこっちに任せて、しばらく休憩してろ。ただし、野外だからな。や、が、い。節度を守るように」


 二人が、私たちを残して背中を向けて歩き去っていく。

 途端に、なぜか恥ずかしくなった。

 気まずい。


「あのさ……この間は、悪かった。あの言葉は、本心じゃない。……泣かせてごめん。また俺と一緒にいてくれるか?」

「……うん。わかってる。あの時のリックは正しかった。だから謝らないでいいよ。それに……」


 リックは一人で解決できてしまう。

 でも、彼の隣に立ちたかった。

 そんな感情が滲んでくる。


「一緒にいるに決まってる。……もう離れる理由もなくなったわ」


 リックの首元を見て、涙がさらに溢れた。


 そこには、もう何もなかった。

 本当に自由になったんだ。


「リック……。よかった。首輪……なくなってよかった」

「……うん、デイジー。本当によかった。もう我慢したくない。もう一回抱きしめていい?……節度は守る」


 彼の首元にそっと触れると、リックの手がゆっくりと私を引き寄せた。

 本当は、もっと色々と言いたいことがあったはずだ。

 傷ついたし、心配だったし、さっきは胸が張り裂けるほどの絶望も味わった。


 ――でも、いいや。リックがここにいるだけでいい。


「うん。私も……リックに触れたい」


 そう答えた瞬間、彼の手が私の髪に差し入れられ、顔がゆっくりと近づいてくる。


 あと数センチで唇が触れる――そう思った瞬間に、私とリックの右手が光った。

 それは、くるくると絡み合うように踊って、空へ消えていった。

 私は驚いて、その光を見上げた。

 美しい光景に少しだけ魅入ってしまう。


「……あ」


 ――セス殿下の誓約魔法が、今終わった。


 瞬時に、なぜか理解できた。

 魔法契約というのは、そういうものなのかもしれない。


「リック……!終わったよ。依頼も、契約も、全部!」


 喜びのあまり、彼の胸にしがみついた。

 彼の首輪も消え、王族との専属契約も終わった。

 ようやくだ。

 ようやくすべてが終わった。


「……ああ。このタイミング……。嫌がらせだよな……。あのくそ王子が……」


 なぜか、喜んでいないリックに手を添える。

 一瞬険しくなった顔が、それで少し緩んだ。


「どうしたの?」

「野外だしな。俺って、一番の好物は後に取っておくタイプだから。うん、平気だ。……少し、殴りたいヤツの顔が浮かんだだけだ」


 なんだか物騒だけれど、それってセス殿下のことよね?

 王族を殴る発言はやばいのでは――。

 でも、誰にも聞かれていないからいいか。

 私たちはきっと、こうやって笑ってしまうのだ。

 くすりと笑って、彼の身体を抱きしめた。


「節度ねぇ?でも、私からなら……これくらい平気でしょ?」


 背伸びをして、ちょん、と唇に触れる。

 本当に、それだけのキスだった。

 それなのに、リックは深刻そうな顔で固まった後、胸を押さえて片膝をついた。


「……ぐっ!俺の嫁が小悪魔過ぎてかわいい」

「大袈裟」

「馬鹿。俺はずっと、デイジーが好きなんだよ。毎日が大袈裟でもいいくらいに」


 そうして私たちは、もう一度だけ、少し長いキスをした。

リックは英雄になってしまうのか……。

次回答えが出ます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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