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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第40話 リジーとデイジーの決戦前夜

ラストスパートに入ってきました。

リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。



 ――リジー視点――



 日が落ちて暗くなった部屋に、甲高い女の声が響く。

 耳障りだわ。

 またルイーズがヒステリーを起こしている。

 私は、そっと溜め息をついた。


「王太子妃が……あの女が妊娠ですって……。ねぇ、ヴァルター。許せない……!」


 彼女はヴァルターの胸を何度も叩いて、怒りを露わにしている。毎度のことだ。

 私は壁際に立って、二人のやり取りを眺めた。


(王太子妃の妊娠……ね。やっぱり狙いはそっちだったわけだ)


 第三王子は予備か、足掛かりだったんだろう。

 王太子の側妃。

 さすがだわ、ルイーズ。

 こちらの想像以上に、随分と大物狙いだった。


「……いいのですか?これを使ったら――」

「普通の検査では証拠は残らない薬なんでしょう?ヴァルターが言うなら間違いないわ」


 テーブルに置いてある瓶の中には、よくわからない液体が入っている。

 これは絶対にヤバいやつだ。


「ええ。ではそのようにしましょう。私の女神」

「どうやって仕込めばいいかしら……」

「茶葉に仕込んでもいいかと。一晩、浸けておきましょう。味も香りも変化するところが、ブレンドやハーブティーの魅力ですからね」


 一瞬、ヴァルターがこちらに目をやった。

 ぎくり、と身体がこわばる。

 その視線の意味って、まさか……。


「……今度こそ取り戻せるかしら」


 ルイーズは先程の癇癪が嘘のように、弱々しい声で呟いた。

 沈黙がおりる。

 ヴァルターが、そっとルイーズの顔を上向かせた。


「『原作』を失うのが怖いのですか? それとも、本来なら与えられるはずだったものが欲しい?」

「もう……わからないわ。だって……奪われて奪われて……。ねぇ、私って本当にヒロインなのかしら。本当は私のほうが――」


 王太子妃の懐妊は、相当なダメージだったようだ。

 そして、薬。

 ハーブティー。

 嫌な予感が、背筋を凍らせる。


「ルイーズ、貴女は間違いなく“ヒロイン”です。……大丈夫です」


 ヴァルターが、ルイーズを抱き寄せてから数分後。

 彼はその液体を、隣に置いてある茶葉にかけ始めた。

 茶葉は、ゆっくりと何かを吸い込むように色を濃くしていく。


 ――逃げたい。

 私の前でこんなことをする理由は一つしかない。


 しばらくすると、いつもの様子に戻ったルイーズが私を呼び寄せた。


「リジー。お願いがあるんだけど。見て、これ。新しい茶葉よ。ヴァルターが用意してくれたわ。明日の狩猟祭には、これを使いましょう」


 瓶を手に取り、私の方へ預けてくる。

 内心の動揺を必死に隠して、それを受け取った。

 ずっしりと重く感じる。


「……ですが、王室ですでに用意しているかと思いま――」

「黙りなさい!そんなのわかっているわ。だから、私が話題にして興味を引くから。あなたはいつも通りにお茶を淹れなさい」


 私の言葉は、ルイーズの鋭い声で遮られた。


 一介のメイドが、王族に出すお茶を淹れる?

 無茶苦茶だ。

 そんなことが、できるはずもない……けれどヴァルターがいる。

 王族も無下にはできない、公爵家の人間だ。

 これは、詰んだかしら……。


「……新しいハーブティーですか?」

「ただ香りを強くしただけよ。あなたは言われたとおりにすればいいだけ。わかった?」

「……わかりました」


(絶対にヤバいじゃないの、これ……)


 茶葉を抱えて、ルイーズの前から逃げるように部屋をあとにする。

 手元に目をやる。

 駄目だ。こんなことに巻き込まれたくない。


 ――その時、肩を軽く叩かれた。

 驚きのあまり、身体が大きく震えた。


 いつの間に!?


 すぐ背後にヴァルターが立って、こちらを見下ろしている。

 慌てて頭を下げると、ヴァルターが顔を寄せて耳元で囁いた。


「彼女の言うとおりにしなさい。……これは、私が預かっておく。中身をすり替えられると困るからね。明日、彼女から改めて君に渡させるよ」


 まずい。逃げられない。

 ヴァルターが、私から茶葉の瓶を取り上げて、それを掲げた。

 この場から逃げ出したい気持ちを必死に抑える。

 まだ駄目だ。

 逃げるなら、深夜にしないと――。


「ああ……逃げないようにね。君の本当のご主人様も今は忙しそうだよ。だから、これを君にあげよう」


 ぐいっと腕を強く引かれた。

 その瞬間に首元でカチリ、と音を立てて何かを嵌められる。

 まさか――!


「新しい首輪をあげよう。命令は一つだけだ。“明日の狩猟祭で王太子妃にこのお茶を淹れるように”。簡単だろう?」


(……最悪だ!この、頭のおかしい変態野郎!!)


 ヴァルターが命令を口にした、その瞬間。

 首元が光ったのがわかった。

 それを絶望的な気分で見るしかない。


 リチャードと同じように、隷属の首輪が私にもつけられてしまった。

 ローラン!

 しくじったわ……。


 ◇◇◇


「……殿下。動きにくいです。これじゃあ、いざという時に戦えません」


(私は前世の女児向けアニメの主人公じゃないんですよ!)


 試着させられた、明日の狩猟祭の衣装。

 それ自体はいいんだけれど……。

 薄い緑色の、たいへん可愛らしいドレスだった。

 レースやアクセサリー、さらにはリボンまで添えられていて、動きやすさとは無縁に見える。


「うん、ぴったりだ。若々しくていい。新緑のような色合いが、君の瑞々しく輝く瞳を引き立てている」


 うわ……。

 また歯の浮くようなことを。


「気障ったらしいです……。そういうところが……多分、そこが駄目……」


 後ろで補佐官が拳を振り上げて私を殴るジェスチャーをしているけれど。

 でも、誰かが言ってあげたほうがいいんじゃないかな……。


「……え!」


 セス殿下が目を丸くして驚いている。

 気づいていなかったのか。

 ほら、誰かが教えてあげないからだ。


「殿下!大丈夫です……!顔で全部持っていけます!その顔さえあれば大丈夫!」

「コンラート。君、前から思ってたけど失礼だよね?」


 補佐官が慌てて、全身でフォローしてくれている。

 あ、コンラートさんって名前なのか。

 初めて知った。


「……なるほど。もういいよ、コンラート。そうだな……うーん。今日から君は、ずっと『補佐官』だ。君の名前は忘れたことにするよ」


「殿下ーー!そんな記号みたいなのはさすがに嫌です……!」


(……不憫だ)


 そんなやり取りを見て、くすりと笑った。

 明日が本番だ。

 セス殿下が言っていた、王太子妃の動きも気になるけれど。


 ――リック。

 王太子を動かしたんだってね。

 本当に無茶をする。


 私、足手まといにならない。

 精いっぱい頑張るから。

 だから……また、貴方の隣に立ちたい。


 

リジー、しくじりました。でも、彼女には頼れる……はずのヒーローがいます。

ローラン、頑張れ。次回、狩猟祭です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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