第38話 王太子と一蓮托生――リック
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ラスティが先に現地へ行き、現状を説明してくれるということで話がまとまった。
俺とローランは、怪我人を近くの村まで運び、医者に引き渡すことになった。
そのお陰で多少は休息が取れた。
そして、王家の所有地に着いたのは翌日の夜だった。
狩猟祭まで四日と少し。
騎士団員はすでに現地入りしていて、会場の設営や、警備配置や安全確認などの最終確認をする段階だったらしい。
「お前がリチャードか?……なるほど、リーガルが気に入りそうだ。まさに素直なクソガキっぽい所とかな」
「……それはどうも。もうそんな歳じゃないんですが。で、あんたは?」
いきなり低い声が降ってきた。
褒められているのかも微妙な言葉をかけられ、相手を見上げる。
デカい。俺やローランより頭二つ分は高く見える。
それ以上に、肩幅と腕の太さが人間のものじゃない。
今は軽装だが、鎧でも着込んだら、あれはもう歩く城壁だ。
しかし、筋肉だるまだ。冒険者でも中々このサイズ感はいない。
羨まし――くはないな。
デイジーに引かれそうだ。
「うわ、おっさんガタイすげぇな!獲物は何使ってんだ?」
案の定、ローランが食いついた。
こいつは結構、武器マニアだったりする。
「おっさん呼びは気に食わねぇが、見る目はあるな。投げ槍と戦斧だ。ちまちま剣で戦うのが苦手でな」
「……おお!俺もナイフ投げは得意だが、槍は投げたことないわ」
「待て待て待て!ローラン、ステイ!話が混乱するっての」
目の前の男は、豪快に笑った。
声もデカい。
「俺はリーガルの昔なじみだ。後でお前の兄弟子たちも紹介してやる。自己紹介はその時にな」
その男は一度言葉を切り、直後にぴりりとした緊張感を漂わせた。
ここからが本題か。
夜風に乗って騎士たちの声が聞こえてくる。
少し離れた所に見える、あの暗い森。
その中にヤツがいるかもしれない。
なんとか話をつけられるといいんだが。
「で、早速、王太子殿下がお待ちだ」
その言葉に、思わず喉が鳴った。
もう大物と対面か。
こっちは礼儀も知らない庶民だっての……。
「ローランはここで待機な」
「ふん。堅苦しいのは苦手だからありがたいぜ」
「……でも、もう少し“交渉”にも慣れてくれると助かるんだけどな」
俺が少しだけ愚痴をこぼして溜め息をつくと、ローランは笑った。
「お前らがいるから平気だろ?」
「……まあな。俺たちがやるから、お前はそのままでいいか」
いつも通りのやりとりだ。
きっと、またこんなふうに馬鹿なことを言い合える。
そう思わせようとしているのかもしれない。
こいつなりの、不器用な励ましだった。
礼儀知らずのローランをその場に残し、俺はデカい騎士について行った。
案内されたのは、一番立派な天幕の中だった。
中に入った途端に、松明に照らされた華やかな金髪が目に入った。
――あれが王太子か。第三王子と似ているな。
椅子に座る姿は、優雅で品がある。
しかし、セスよりも話が通じそうだ。
こちらの腹を探っている感じがしない。
背後には、ずらりと騎士が並び立っている。
かなりの圧迫感だ。
そして王太子の目の前には、先日狩ったワイバーンの爪が置いてあった。
証拠としてラスティに渡したものだ。
「さて、リチャード。ワイバーン討伐の報告は受けている。今回の情報提供も助かる。しかし……セスの所に行かなかったのはなぜだ?」
とりあえず一礼する。
セスのことまで掴んでいるなら、説明も早い。
「育ちが良くないので、無作法は大目に見てください。責任者の王太子殿下に、まずは話を通すのが筋だと思いました。色々な所に尻尾を振る人間は信用ならない――これが俺たちの常識です。……それに時間がない」
信じてもらうしかない。
しかし、正直に第三王子が気に食わないとは言えないしな。
「お前は俺が手柄を持っていくとは思わないわけか」
意外な質問に、虚を突かれる。
そんな細かいことまで気にしている状況だろうか。
「まあ、あなたが冒険者なら別ですが……。でも、王族の方がそんな目先のことで動くとは思っていません。逆にリスクまで負いますしね……。番を逃がした証拠ですよ」
まさに、俺の失態の証拠でもある……。
あそこで逃がした責任を取らされるってことか?
「はははは!確かに。ちゃんと状況把握も出来ているし、強欲でもない。――それに」
王太子は、コン、とワイバーンの爪を小突いた。
「実力も確かだ。ラスティから報告も来ているしな。討伐に協力してくれるか?なんでも、ワイバーンの的になってくれるつもりで来てくれたとか?」
「的は確かにそうなんですが……。簡単に死ぬ気はありません」
作戦によっては囮や餌として放り込まれるかもしれない。
そんな警戒心が、つい表情に出ていたらしい。
「まあ、そう警戒するな。正直、ここにいる全員がもう一蓮托生だ。被害が出れば、騎士たちの首が飛ぶ。実は、王族も信用が大切でね――それが貴族たちの常識だ」
王太子は、困ったように少しだけ苦笑した。
そして、数秒後。
周囲の騎士に告げる。
「作戦会議といこう」
「さて、出来れば事前に終わらせたいな。騎士団総出で捜索するべきか?」
王太子が口火を切る。
それは誰もが考えていることだろう。
「番を失ったばかりのワイバーンです。隠れて出てこない可能性が高いですね。……巣を作る時間もないでしょうから、森の奥に潜んでいるかもしれません」
一番近くにいた騎士がそれに言葉を返すと、それをきっかけに様々な声が上がる。
やはり意見が分かれていく――が、ここで王太子が舵を切った。
「とりあえず時間がない。まずは痕跡を探しに行くぞ」
そして、食い散らかされた鹿や猪などの死体がいくつも見つかった。
それからは、森の奥へ進んでいく捜索隊に加わることになった。
少数精鋭で組まれたメンバーには、あの大男――ザクソンも、顔見知りのラスティもいる。
痕跡は新しい。いるのは間違いない。
なのに、肝心の姿だけが見えなかった。
探せば探すほど、不気味さだけが増していく。
どこかでこちらを見ているのではないか。
そんな気配だけが、森の中に残っている。
ついには、ワイバーンは狩猟祭が始まるまで姿を現さなかった。
そして俺たちは狩猟祭の朝を迎えることになる。
◇◇◇
――セス視点――
「兄上が動いた。……かなり危機的状況だね」
狩猟祭まであと四日。
すべてが不利な状況だ。
もし被害が出れば、王家全体の失態になり、各貴族家の追求も免れない。
民からの信頼も落ちるだろう。
二番目の兄はすでに、外国へ出て、王配になる準備を始めている。一年の半分以上この国にいない。
王太子が失脚すると――。
「私に回ってくるんだよねぇ……」
報告書を読んで、私は思わず溜め息を漏らした。
そんな私を見て、部下のコンラートが呆れたように首を振った。
こいつ。
前から思っていたが、事態の深刻さがわかっていない。
だから、満面の笑みで彼に告げる。
「私が王になってしまったら、お前は宰相職だぞ」
書類を纏めていたコンラートが、ぎくりと身体を強張らせた。
「……無茶振りですね」
「今の私の気持ちがわかったか?」
「……ええ。深刻です。宰相職なんて、もっと忙しくなるだけですから……。余計、婚期が延びてしまう……」
なんの心配をしているのだか。
いや、本人にとっては深刻なのだろう。
まあ、いいか。
ギルドから、ワイバーンの番情報が流され、それと共に冒険者が次々と送り出されている。
しかし王家所有の森には呼び込めない。
無意味な古臭い慣例だ。
しかも危機的な状況には足枷でしかない。
時期も悪い。
もう狩猟祭の直前で動かせる駒が間に合わない。
騎士団員が総出で捜索と討伐に当たるだろうが――。
つい、馬鹿馬鹿しい戯れ言が口をつく。
「私もルイーズ嬢の予言を信じたくなるなんてね……。是非、その英雄譚を見せてくれ――リチャード」
王太子殿下は「男にモテる男」というイメージです。 たぶん、騎士団からの信頼が厚いタイプ。
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