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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第37話 反撃への一手、リックとローランの答え

今回は再起するリック回です。

あれ……リックが主人公の少年漫画だったかな……?


「マーガレットは足手まといだ」


 目の前でハッと息を呑む気配がした。

 先程、手を振り払った時の、傷ついた顔が脳裏に焼き付いている。

 デイジーの顔を見るのが怖い――。

 そんな恐怖を振り払って、無理矢理に視線を合わせる。

 目尻に涙が溜まっている。


 ――言ってしまった。俺が泣かせてしまった。


 腹の奥が、石を飲み込んだように重くなる。

 取り返しがつかない。

 けれど、連れて行くわけにはいかない。

 守り切れる保証なんて、どこにもない。



 彼女は下手な捨て台詞を吐いて、そのまま走り出した。

 足音が遠ざかっていく。


 冒険者ならもっと下品で口汚いぞ。

 その辺の子どもの方が、まだ汚い言葉を知っていそうだ。


 また会えた時に、もっと悪い言葉を教えてやろう。

 今の俺の気分にぴったりなやつが何個もある。

 最低で最悪なこの状況への文句だ。

 そんな意味のないことを考えて、頭を振る。

 ぐだぐだ言ってても死ぬだけだ。


 そう。

 ――また会えた時?違うだろう、誤魔化すなよ。

 生きて帰れたら、だ。

 隷属の首輪のせいで、もう、あのワイバーンを追い続けるしかない。


「……馬鹿なやつだな」

 ローランが溜め息をついてから、デイジーを追いかけていった。

 呆れたような視線を感じる。

 けれど、皮肉げに口元を歪ませるしかできなかった。


 ――仕方がないだろう。


 デイジーを。

 ……惚れた女を、死なせたくないんだから。


 まだ近くに彼女の気配が残っている。

 それを意識する自分を強引に押し殺し、淡々とワイバーンの死体から爪をもぎ取る。

 メキッと嫌な音を立てて剥がれていく。

 ふと違和感を覚えて指先を見ると、自分の爪まで割れていた。


「……追いかけないのか」


 ローランではない。

 その場に残ったラスティが、こちらを見ていた。


「追いかけて……余計傷つけろって?どっちにしろ連れて行く気はない」


 不躾な質問に苛ついて、つい口調がキツくなってしまった。

 けれど、ラスティは少しも動じなかった。

 その冷静さに当てられて、無性に気まずくなる。


「……なるほど。ただの暴走熱血脳筋馬鹿ではないらしい……」


 馬鹿にしているのか。

 一瞬、ムキになって言い返そうとしてしまった。

 グッと歯を食いしばって堪える。


 ――いや、助けられたのは事実だ。彼に当たっても意味はない。

 くそ、みっともない。


「さっきは助かった」

「ああ……まあ……あそこで助けようと飛び出していたからな。気に入っただけだ……」


 助けようと飛び出した?

 ……あの怪我人のことか。


 そんなところまで見られていたのか。  

 それに気づかないほど、本当に余裕がなかったらしい。


「彼のケガの具合は?」


 離れた場所で横になっているその男性は、一見すると、ただ静かに眠っているように見える。

 ラスティは、治療箇所を律儀に書き留めていたらしい。

 彼はそのメモに視線を落とす。


「身体の欠損はなし……。命は取り留めたな……。裂傷も骨折も酷い箇所が多かった。後は目覚めてからの治療になるだろう……」

「そうか……。じゃあ、俺はギルドへ報告に行くから後を任せてもいいか?」


 彼の仕事ぶりなら大丈夫だろう。

 できれば、こちらの討伐に付いて来てもらいたいほどだ。

 そこに、戻ってきたローランが口を挟んだ。


「ちょ〜っと待て、お前ら!マーガレットから伝言だ。六日後に――」

「伝言?おい、一人で帰らせたのかよ!」

「うるせぇ、リチャードが追い払ったんだろ。俺のせいじゃねえ」


 その言葉には押し黙るしかなかったが、それとこれとは話が別だ。

 いや。大丈夫だ。

 自棄になって暴走――そんなことをするタイプじゃなかっただろう。

 子どもの頃からずっと。

 冷静で、大人びていて、ずっと俺に何かを隠していた。


「……悪い。六日後になんだって?」

「あ〜、そっちのおっさんの方が詳しいだろうけどな。六日後に、王子サマやお貴族サマが盛大にやる狩猟祭がある。マーガレットはそこに出席するってさ」


 ローランがラスティを見やると、ハッとしたように目を見開いた。


「この近くだ……!狩猟祭の会場になる王家の所有地はこの森からそう離れていない……。しかも、すでに危険なモンスターは排除済みだ……」

「天敵もいない、絶好の住処ってわけか」

「しかも、無防備な人間が、わんさか自分の皿に乗りにくるってやつだ」


 ローランの例えが絶妙すぎる。


 ワイバーン討伐を報告すると、この森には冒険者やギルド員が押し寄せる。

 貴重な素材だらけだからだ。

 そんな中で、やつが戻ってくることはないだろう。

 これから産卵するとなると、静かな場所を選ぶはずだ。


 しかし……。

 報告しないのも問題だな……。

 行方知れずの番が、まだ残っていることを伝えなければ被害が止まらない。


「王家の森に勝手に侵入するのはお勧めしない……。即、騎士団に捕まるだろう……。ああいう脳筋どもに、僕の言葉など通じない……」

「おっさんが、ぶつぶつと聞こえにくい声で喋るからじゃねぇのか?」


 煽るなローラン。

 コンプレックスみたいだから、触れてやるなよ……。


「僕は、断じて『おっさん』ではない……!この、頭の悪そうな赤髪がーー!」


 あ、そっちもか。


「それに、リチャードはさっきのやつに“マーキング”されている……。それだけの執着心だ……。まるで呪いのように魔力が絡んでいるぞ。そんな奴が巣に近づけば我を忘れて襲いかかってくるかもしれん」


 呪い……か。

 なるほど、さっきの嫌な予感はこれか。


「呪い!?おっさんは解けないのかよ」

「無茶言うな……。僕は専門家でもない……。それに、今はこいつの問題どころじゃない」


 ラスティのその言葉に、俺も頷く。


「俺が狙われたほうがいいだろ。しかし、狩猟祭はまずいんじゃないか?まだ未確認だったが、ワイバーンが出るかもってギルドが情報を出していただろう」


 だから、俺がクソったれなヴァルターに、こんな所へ狩りに来させられたっていうのに。


「貴族相手に常識は通じないしな……。危機感がないんだろう。そんな曖昧な噂だけでは中止できない。王太子殿下も警備には騎士団を投入するだろうが……。どうすれば……」


「でも、実際に二匹もいただろうが。呑気なもんだな。ラスティが報告したら正確な情報扱いじゃないのか?騎士団員なんだから」


 彼は俺の質問に頭を振る。

 黒髪の隙間から、さらに青白くなってしまった顔色が覗いた。

 想像以上にマズい状況らしい。


「時間がなさすぎる……。この森を出て、報告して、判断を仰いで、伝令を飛ばす。移動も考えると、実質四日程度しか残っていない。その頃にはもう移動している遠方の貴族も多いだろう。王族も現地入りしているかもしれん」


「……タイミングが悪すぎるな。中止しても、のこのこ集まってくるのか」


 頭が痛い問題だ。

 貴族の事情はわからないが、知ってしまった以上放っておけない。

 しかし、王家の森には入れない。


「リジーが言ってたぜ。動くときは、周りを巻き込め、損得勘定は勝手にさせろ?ってやつ。で、今回は誰にするよ、このおっさんか?」

「赤髪!こいつも話が通じない……!僕ではどうにもならないと言っている……!」


 ラスティを無視して、ローランが彼の肩に手を回した。

 相変わらずガラが悪い……が、その通りだ。

 そして、きっとデイジーもその結論を出したから、急いで王都に戻ったんだろう。

 頼る相手が、そこにいるんだから。


 だが――。

 なるほど、その手があった。


(そうはさせないぞ、デイジー。今回はあの王子を頼らせない)


「……ははっ、その通りだな。このままじゃ、一番損をするヤツがいるじゃないか。しかも、その“話の通じない奴ら”を自由に動かせる人間が」


 第三王子じゃ、まだ危うい。

 国王は療養中だ。

 どうせなら確実な所を突かなくては……。

 俺とローランだけでは無理だったが、ここに王国騎士団員がいる。


 つい、ニヤけてしまう。

 デイジー。

 俺は、第三王子には絶対に借りを作らないからな。

 どうせ作るなら、でっかい貸しのほうがいいだろう?


「うわ……。悪い顔してんぞお前」

「お前だけには言われたくない」


 ローランにわかりやすく説明するにはどうすればいいか。

 一瞬悩んでから口を開く。


「例えば俺たちが仕事をミスったら困るのは誰だ?……おっと依頼人は無しな。ギルマスだ。責任を取るのは、トップだって決まってんだよ。だから、この件のトップに当たるぞ」


 俺の言葉に、ローランが首をひねる。


「ああ?ギルマスのおっさんの責任か?王都のギルドまでは知らねぇぞ」

「頭悪すぎだろ!違うって、このバカ!」

「はぁ!?ぐだぐだ回りくどいお前が悪いだろ!」


 俺は溜め息をついて、ラスティの服に付いた紋章を指差す。

 王国騎士団の服に刻まれた『それ』。


「――まさかぁぁ……!」


 ラスティが絶望的な声をあげた。


「おお!わかったぞ!」


 ローランと目を合わせる。――よし、通じた。


「「王太子だ!」」

 

リックとローランの悪友っぽい雰囲気が好きです。

ラスティから見ると、たぶん二人とも話が通じないタイプ。 でも、なんだかんだで動き出しました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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