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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第36話 私は足手まといじゃない

今回は甘くありません。

リック、お前……という回です。


「……デイジー。なんで来ちゃったんだよ」


 彼の、少しだけ掠れて震えている声に気づかないわけがない。

 バカなリック。

 来るに決まっているでしょう。

 一番大切な、大好きな人のために動けなかったら、意味がない。何のために魔法を覚えたと思ってるのよ。

 冒険者になってから、本当に頑張ったんだから。


「助かったでしょ?」


 いつもの優しい笑顔を期待していたのに、何故か切ない顔をさせてしまった。


「ああ。それがつらい。……やっぱり、こんな無茶なことに巻き込みたくなかった――」


 慌てて、彼の言葉をさえぎる。

 違う。勘違いしないで欲しい。これは私の選択だ。


「私が!……私がリックとケンカをしに来たの。何を勝手に一人で決めちゃってるのよ。これからも、一緒に進むんでしょう?だから、家出した旦那を殴りに来たのよ」

「………そうか。やっぱりデイジーはいい女だ」


 ちょっと困ったように眉を寄せて笑う。

 その言葉も笑顔も、彼が無事だったことも。

 嬉しいはずなのに――


 その表情に、何故か胸が落ち着かない。



「巣の状態を確認して来る」


 そう言って、ローランは岩肌に手をかけて上がっていった。

 凄いな……。

 命綱なしのロッククライミングだ。

 そして、私を一度思いきり抱きしめてから、リックも後に続いていく。


「脳筋は、この崖を素手で登るのか……。やはり頭がおかしい……。僕には一生理解できない………」


 ――うわっ、びっくりした!


 いつの間にか、同じように崖を見上げている人がいた。


 セス殿下が派遣してくれたラスティさん。

 昨日森で会ってから、ずっとボソボソと喋る人だと思っていたけれど、戦闘では性格が変わるようだ。

 戦闘中の鋭い口調は引っ込み、今はまた小声で独り言を呟いている。

 不思議な人だ。

 いや、専門家というのはオタク集団だ。私は理解も耐性もあるし平気だ。

 ……そう考えていたが、彼がじーっと私を見ている。

 なぜ。


「……君は、リチャードの恋人……?」


 突然話を振られ、つい肩が跳ねた。

 驚きのあまり声を上げそうになる。

 てっきりコミュ障……いやいや、人と話すのが嫌いだと思っていた。


「いえ、妻ですが」

「……人妻!?……君、だめだ。そのワードは軽々しく男の前で言うものではない」


 驚かれることはあるが、こんな反応は初めてだ。

 やっぱり変わっている。


「……じゃあ、どこで言えばいいと?」

「女性と子どもの前だけだ」

「……なぜ」


 さらに理由のわからないことを言われる。

 頭に、はてなマークが浮かんでしまう。

 謎だ。


「君は、筋肉マッチョの話題を知らないから……。こんな女性が話のネタにされるのは耐えられん……!あの脳筋どもめ……」


 いや、これでも冒険者なんだから、酒場の話題を聞いていればわかる。

 なるほど、心配していたのか……。

 やっぱり悪い人ではなさそうだ。


 そこに、別の声が交ざる。


「キモいおっさんだな」

「ローラン!」


 彼のあんまりな物言いに、反射的に注意をする。

 いつの間にか、リックとローランが戻ってきていた。


「どうだった?」


 二人に駆け寄って声をかけるが、表情が暗い。

 リックの首元が気になる……。

 やっぱり、もう一体の方も倒すしかないのかもしれない。


「もぬけの殻だったな」

「……そっか。じゃあ……」


 ――“これからどうする?”

 そう聞こうとした時、今まで黙っていたリックが口を開いた。


「パーティを解散する。反論はなしだ」


 一瞬、場が静まり返る。

 頭が追いつかない私は、もう一度聞き返した。


「え……今なんて」

「おいおいおいおい!ちょっと待て!」


 ローランも、目の前で慌てている。

 それに答える声は、聞いたこともないほど冷徹に響いた。


「パーティ解散だと言った。おとなしく帰ってくれ」

「ちょっと待って!」


 すでに背中を向けている彼を止めたくて手を伸ばした。

 だが、それは簡単に払い除けられる。


「え……」


 ジンジンと痛む手の甲を見た。

 信じられない。

 ――リックに手を振り払われた。


「お前が一番足手まといだ、マーガレット」

「でも、魔法使いがいたほうがいいでしょう!?」


「あいつが狙うとしたら、番を殺した俺だ。次は奇襲で来るはずだ。ローランならまだしも、マーガレットはその一発で殺されるだろ。……どうだ、ローラン。お前の意見は?」


 リックの視線がローランを射抜く。

  向けられたのは私じゃない。

 それなのに、思わずたじろいで、視線が下に落ちる。

 言っていることは、わかる。

 わかってしまうのが、余計につらい。


「いや、まあ……そう……。いや、でも言い方!言い方考えろ、お前!」

「事実だろ」


 ……ローランが庇ってくれなくてもわかる。

 上からの襲撃は、多分避けられない。

 毎回彼に庇われることになるって、そんなことくらい理解できる。


「でも……でも……。空中戦なら……こっちも奇襲なら……」

「お前が、奇襲をかけられるって?気配すらまともに読めないのに?」


 嘲るような――そんな言葉に、カッとなって言い返した。


「………馬鹿!バカバカ脳筋!ヘタレな〇〇(ピー)野郎ーー!」


 それ以上は、何も言い返せなかった。

  悔しいのに。

  腹が立つのに。

 リックの言葉が間違っていないと、わかってしまったから。

 彼が追いかけてくる気配はない。


(……きっと、このまま私を置いて行くつもりなんだわ)

 バカ。

 リックの大馬鹿。

 大嫌い……!

 でも、それだけは……口が避けても言えなかった。



 ◇◇◇



 とはいえ、彼らが見えない位置で立ち止まるしかない。

 その場でしゃがみ込んで膝を抱える。

 拗ねて意地を張る子供みたいだ。


「……本当、私ってば情けないわね」

「おい、大丈夫か」


 そんな私に、ローランが気まずそうに話しかけてくる。

 マイペースな彼にも心配されるほどなんて。

 思わず空を仰いだ。

 あ~、ワイバーンも飛んでいない平和な景色だ。

 夏も終わって、秋の涼しい風が木の葉を揺らしている。

 空だって、もうあんなに高い。


(食欲の秋だし……。やけ食いしてやろうかしら。それとも運動?)


 ――ん?


「……なあ、おい。あいつ馬鹿だけど……」


 必死にフォローしようとしているローランの言葉を遮って、頭の中で、さっき考えたことをまとめる。


「ねえ、ローラン。さっきのワイバーンの巣に卵はなかったんだよね?」

「……あ、ああ。だがいきなり何――」


 彼は戸惑った声で、それでも質問には答えてくれる。


「でも番だった。なら、もうこの森には戻れない。あのワイバーンにとって、ここは危険な場所になったのよ」


「だろうな」


 “番”の言葉に、ローランの表情が締まる。

 巣に餌を運び帰る意味。

 卵もない巣。

 そして、私たちを襲わずに飛び去ったワイバーン。


「……きっと出産間際なのよ。だから、まずは逃げた。それなら遠くまでいかない……かも」


 独り言のように、仮定を並べていく。

 でも、あながち間違いじゃない気がする。

 ただ、すべては想像でしかない……。

 だからこそ、当たったときが怖い。


「ねえ、覚えてる?近々ある、王家主催のイベント」

「――狩猟祭か!確かにそう遠くない場所だったな」

「そう。空から見れば、きっともっと近く見えるはずね。逃げ込みたくなるほどに」


 王家所有の森だ。

 地図で見ると広大だった。

 今頃は、狩猟祭のために獲物まで放たれた時期だろう。


「そして、新しい出産場所を見つけて安心した頃に、大勢の人間が森へ入ってくる。自分の鼻先にね」

 六日後。

 狩猟祭の日だ。


 いや、逆か?

 “お腹をすかせた子どものため”かもしれないが。

 どちらにしろ、出産前後は危険だろう。


(役立たずはおとなしく去ってあげる)


「リックにこの情報を伝えて。ちなみに私もこれに参加するってね」

「わかった。……けどお前、このまま……」


 それには答えずに立ち上がる。

 ローランに伝言を託し、王都までの帰りの日数を計算する。


 ギリギリだ。


「……私の居場所はここじゃないみたい。先に王都に戻るね」

 

ここまで読んでくださってありがとうございます。

甘くなりませんでした。 リック、お前……という回です。

でも、デイジーはデイジーで考えて動きます。 終盤までもう少し、お付き合いいただけると嬉しいです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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