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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第34話 舞台の裏側、デイジーの出発


 ――セスの補佐官コンラートの日記から――


 〇月〇日


 最近、殿下の様子がおかしい。

 たまに口元を押さえ、笑いを噛み殺している。

 大抵は、あの冒険者たちが廊下で会話している時だ。


 なんてことだ。


 殿下は“笑い”に飢えていたのだ。



 〇月〇日


 同僚を集めて、食事に誘った。

 会話がない。


 なんてことだ。


 我々には、ユーモアがないらしい。



 〇月〇日


 今日は“例の女性”のデビューだった。

 殿下と並べば見劣りするのでは――。  


 そう考えていた自分を恥じた。

 殿下が選んだのだから、間違いはなかったのだ。


 しかし、夜会から帰った殿下の表情が少し暗い。


 なんてことだ。


 またご自分で泥を被ったらしい。



 〇月〇日


『旦那をS級冒険者にする』とあの女性が出ていった。

 殿下は協力する気らしい。


 確かに、本当に実現するなら安い賭けだ。

 だが、それだけではないのだろう。

 殿下は、彼らを心配している……そんな気がする。


 必死で候補者を挙げる。


 回復役。

 そして、“リーガルの弟子”。


 なんてことだ。


  条件に合うのが、あの人物だけだとは。

 いや。

 きっと大丈夫だ。彼らの“幸運”を祈ることにしよう。



 ◇◇◇


 ――とある賭け好きな貴族――



 公爵家は……かの子息なら潰れないだろう。

 だが、女に溺れた?  

 現公爵夫妻が療養中だという、この時期に?

 そのタイミングで、女で評判を崩す……ねぇ。


 あの灰色の瞳を思いだす。

 ――そんな真似をする男だっただろうか。



 セス殿下はどうだ?

 元から第三王子で臣籍降下が決まっていた身。

 夜会で身分の低い女性を紹介したところで、養子縁組でもすれば形は整う。


 奔放な末王子。

 そう見えなくもない。


 だが……妙だ。

 最近、王室関連の噂が静かすぎる。


 またクラブに出て情報収集するしかないか。

 さて、次の賭けは――。


 おっと。

 クラブでは、王太子の側妃関連の賭けが盛り上がってるな。

 ここ二年以上、御子ができていないからな。

 自分の娘を推したい家も多い。


 一番人気は、公爵家のルイーズ嬢ね。

 確か養子だったはず。

 正妃は難しくても側妃なら大丈夫……か?

 彼女は評判が両極端だ。


 本命に賭けても儲けが少ないな。

 ならば、大穴だ。


「王太子妃が妊娠する、に賭ける。十口貰おうか」



 ◇◇◇


 ――デイジー視点――



 王都のギルドを訪れ、冒険者カードを提示する。

 受付の女性が、にこやかに対応してくれた。


「ここで、旦那が依頼を受けたはずなんだけど」

「いえ、依頼内容や受注情報は……」


 話の内容に、少しだけ顔を曇らせる彼女を、強引に押し切る。


「夫婦だから平気よ。それに、同じ依頼に関わる可能性があるの。緊急よ。なんなら一筆書こうか?」

「あ……あの、わかりましたから……睨むのやめてくださいぃ」


 こら、ローラン。

 背後で威圧しないの。怖がっているじゃない。


「リチャードさんの依頼……。え〜と、これですかね。王都の外れの森に情報収集に向かっていますね。モンスターが出没して人的被害が出ているのですが、種類も何もかも未確認です」


 渡された書類に目を通すが、大した情報は書かれていなかった。


「ここに書いてある目撃情報は本当なの?」 


 大型。飛行。これまでに十人以上が犠牲になっている。

 これが本当なら厄介な相手だ。


「他に依頼を受けているパーティは?」

「ありません。……とある所から受注制限がかかっているらしく、リチャードさんのみです」


 隣のローランと顔を見合わせる。

 これだ。

 制限――どうせ公爵家の圧力だろう。

 行き先は決まった。


「ありがとう。助かったわ」

 私がお礼を言って立ち去ろうとすると、がしり、と袖を掴まれた。

 目の前の女性が、少し涙目で懇願してくる。


「あの!やっぱり、一筆書いてください……!ヤバい匂いがぷんぷんしてますよ!」

「はいはい。なんて書こうかな」


 差し出されたペンを取り、悩んでいると――。


「死んでも自己責任、でお願いします!」

「……ちょっと、ぶっちゃけ過ぎじゃない?」


 結局、拇印まで押させられた。

 別にいいけど。




 着ていたドレスを売って路銀に変えた後で、見ず知らずの男性に呼び止められた。


「き、君がマーガレット……?」

「……あなたは?」


 すっ、とローランが私の前に出る。


「まずは、そっちから名乗れよ。何者だ」


 黒髪の男性だ。

 前髪が長すぎて、目元が見えない。

 警戒して答えあぐねていると、彼は、くたびれたマントの胸元を開けた。


「……!」


 “王家の紋章”が入った徽章が見えた。

 なるほど、早速セス殿下が動いてくれたらしい。

 この人は、王家直属か、王国騎士団の関係者だ。


「……僕は、ラスティ。回復とサポート専門だ……。面倒だけど、上からの命令でね……。よろしく頼むよ」


 ぼそぼそと喋る声は聞き取りにくい……が、助けてくれるらしい。正直、回復役はありがたい。


「マーガレットです。よろしくお願いします。こっちの彼はローランです」


 私が握手をしようと手を差し出すと、彼の肩が跳ねた。

 いや、全身が跳ねた。


「君!女性が簡単に男に触れるものではない……!奴らの餌食になってしまうぞ……」


 ――奴ら?餌食?

 意味のわからない言葉に首を傾げていると、隣のローランが小声で呟いた。


「キモいおっさんだな」 

「こら!失礼でしょ……」


 ひどい言葉を窘めようと、ローランの顔を見上げた瞬間に、ラスティさんが声をあげた。


「この赤髪の脳筋が……!僕はまだ三十代前半だ!断じておっさんではない……!」


 うーん。微妙に年齢を隠しているのがアレだけど。

 おまけに、少し変わっているけれども。

 まあ、王国騎士団の一員なら実力は確かかな。


 こうして、私たちはリックの後を追って王都の外れを目指して出発した。


 飛行系なんて、近接型のリックと相性が悪すぎる。


(気合を入れていかなきゃね)


 左手を、ギュッと握る。

 そこにある蔦模様の指輪が、私に勇気をくれた。


 ――待ってなさいよ。

 無事にリックの首輪を外して、目にもの見せてやるわ。


 ルイーズ。

新キャラ登場です。


ついでに、セスの補佐官コンラート(25)の苦労も少しだけ書いてみました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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