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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第33話 旦那をS級冒険者にしてきます

(ローラン、上手くいったかなぁ……)


 馬車の中で、やきもきして彼を待つ。

 庶民には、公爵家の中を歩き回るような機会は少ないし……。

 いやいや。

 そんな機会はないのが普通か。

 大きな屋敷で迷子になっていないかな。

 うーん。そこはかとなく不安だ……。

 リジーと会って、ちゃんと情報交換はできただろうか。


 ――どっちにしても、そろそろ……かな。


 彼なら、確実に逃げやすい『今』を選ぶはずだ。

 なら、何らかの方法で必ず迎えに来てくれる。

 それを待つ。

 でも、雑なローランだからな……。

 結構派手にやらかしてくれるかもしれない。

 落ちるタイミングが分からないジェットコースターに乗っているみたいだ……。


 そんなことを考えていると、突然ガクン、と体が揺さぶられる。

(来た……!あまり激しいのは勘弁だからね……!頼むよーー!)

 祈るように、馬車の手すりにしがみつく。

 馬のいななきと、不快な金属音、そして御者の叫び声が耳朶を打つ。


 しばらく揺さぶられた後、馬車が止まった。


 ――よし。思ったよりは平和だ。

 馬車の横転をシミュレーションしておいてよかった。


「お嬢様、大丈夫ですか!?馬車が脱輪して……」


 御者が慌ててドアを開け、私の無事を確認する――その瞬間に、ローランが後ろから御者を座席に押しつけた。

 後ろ手に、的確に拘束している。

 伸し掛かられて身動きが取れない彼は、必死に振り返ろうと暴れた。


「ローラン!待ってたわ」

「……貴様!さっきのナイフはお前の仕業か……!」


 なるほど。

 投げナイフはローランの得意技だから、それを使ったのか。

 しかし、走ってる馬車によく当てられるな。

 路銀が無くなったら、頭の上にリンゴを乗せる芸でも稼げそうだ。

 あー……でも、ナイフを投げられるのは怖いから無理かな……。


「おいおい、あんまり興奮するなって。ちょっと急ぎの用ができただけだから。俺たちはそっちに向かう……。けど、なんか忘れてんな」


 軽い調子で、ローランが御者を宥める。

 本気か。

 リジーでしょうが。

 情報交換でしょうが。

 それ、忘れちゃいけない案件なんだよなぁ、ローラン!


「……リジーは?忘れたら怒られるよ」

「ああー!それだ。……ほい。これ、大事なもんだ。お前の雇い主が欲しがってるやつ」


 懐から、小さな紙を取り出して御者の前に差し出す。

 彼がそれに手を伸ばそうともがいた瞬間に、ぱっ、とそれを上に持ち上げる。


「危ない橋を渡って、あいつが手に入れてくれたものだからな。確実に届けろよ」


 コクコクと無言で頷く彼に、ようやくローランが渡そうとするが、私がさらに取り上げる。

 ざっとそれに目を通す。

 リジーの筆跡だ。

 ハーブと薬草、そして効能が書かれたメモ。


 ――なるほどね。これはやり方が巧妙だわ、ルイーズ。

 目の前で青褪める男性に、まずは謝罪する。


「色々とごめんなさい。……それから、謝るついでにもう一つだけ。ペンとか持ってます?ちょっと伝言もあるので」


 もう観念したのか、とても素直になった御者は、ペンの在り処を叫んだ。


「胸ポケットに入ってる!ったく滅茶苦茶だな、お前ら……!」

「……そうですか?うーん。まあ、当然かな。だって――」


 いったん言葉を切り、抜き取ったペンを持つ。


「これから、旦那をS級ヒーローにしてくるんですもの。それも命懸けでね。このくらい暴れられないと、仲間を名乗れないでしょ?」


 御者は、何を言っているのかわからないという顔をした。

 うん。

 私も少しだけ、何を言っているのかわからない。

 でも、やるしかないんだよね。


 ――これも、内助の功ってやつなのかもしれない。

 よく知らないけど。


「とにかく!旦那がピンチなら支えてあげるしかないじゃない?……ということで、これ。渡しておいてね」


 ◇◇◇


『旦那をS級冒険者にしてきます。狩猟祭までには戻るので適当にお願いします』


「これを彼女が?」


 目の前の御者兼護衛は、こちらの反応を窺って小さくなっていた。


「……はい」

「あははははは!予想外な動きを次々にしてくれるね」


 セスは心底おかしそうに笑った。

 それを見た御者の顔色がどんどん悪くなっていく。

 おっと、部下を恐怖で縛るのは効率が悪い。


 何故なのかはわからないが、どうにも私は怖がられやすいらしい。

 私の笑い声は怖いと思われているようだ。

 真顔も怖いと言われる。

 さらには、笑顔は不気味だと聞いたことがある。


 どれも普通にしているだけなんだけれど。

 ……私は、どうすればいいんだろうね?


「ああ、大丈夫。叱ってないよ。このメモだけでもありがたい。そろそろ私も動いてみようかな。――証拠隠滅される前にね」

「……殿下。申し訳ございませんでした」


 少しだけ血色を取り戻した彼に、追加で指示を出してあげよう。今回は向こうが一枚上手だった、それだけのことだ。


「挽回の機会をあげる。回復が得意な人材のリストを持ってきてくれ。大至急だ。後は、ギルドの依頼書も入手してくるように」

「わかりました。……では、彼らを手助けするのですか?」


 部下に質問をされて、手元のメモにもう一度目を落とした。

 そこの部分に指を這わせる。


「私もその、S級ヒーローの誕生に一枚噛んでおこうかな、と思ってね。見た所、回復役がいないみたいだし。しかし――」


 突然現れて、“予言”と称した能力で公爵家に入り込んだ女性。

 我々も知らない知識を披露し注目を浴び、そして無遠慮な言動で社交界を荒らすルイーズ。


「……ルイーズ嬢はわかっているのかな?これが実現すると、リチャードは、王族も一目置く存在になる。たかが貴族令嬢なんて目じゃないくらいに……ね。本当に不思議だなぁ、彼女」


 ――自分が何を作り出そうとしているのか。

 それも知らずに行動しているのなら、愚かすぎる。

 彼女の目的とその動機が理解できないが、またしても“予言”絡みか。


 だが、流れとしては悪くない。

 私には損がない、理想的な構図になってきた。

 むしろ、自ら袋小路に踏み込んでいくのだから。


 しかし。


 ――ヴァルター。

 何を考えている?彼はわざわざ国を揺るがす人物ではない。

 これだけは、ずっと考えても答えが出なかった。

 本当に愛に溺れた?

 あの男が?


「面倒だけど、揺さぶりに行くかな……。もー、この男は厄介!望むものがわからないから、本当に厄介なんだよなぁ。経歴も評判も非の打ち所がない。まったく胡散臭い奴だ」


 目を閉じて溜め息をつく。

 ここしばらくは、あの賑やかな会話が聞こえないわけか。

 貴族の相手ばかりしていると、あの粗野なやり取りが新鮮でつい聞き耳を立ててしまっていた。


「……その点、君たちはわかりやすくていいね」


 引き出しからリチャードの調査書を取り出し、それを指で弾くと、音を立てて紙が揺れた。

 まさに“幸運”。

 こんなにハイペースでS級冒険者へ行ける人間はいないと言ってもいい。

 稀に、神が気まぐれに与えるといわれる『天恵』。

 しかし、所詮は人間が使うものだ。だから、全能なんてことは絶対にない。

 普通なら、無謀だとしか思えないが――。


 そこまで考えて、ふと思い出した。

 駆け出しの時のリチャードの師匠、『リーガル』。

 彼は多くの人材を発見した人物だ。王国騎士団にも、彼に引き立てられた人物が数人在籍している。


「ああ、人選について、もう一つ条件を付け加えよう。『リーガルの弟子』これが絶対条件だ」

「……わかりました。ただ、確か……問題児ばかりだったと思います」

「ふふ。信頼しやすい人間ってのはさ。同じ経験をしてること――これも大きいんだよね。問題児同士、気が合うんじゃない?」

「……女性の方が向いているのでは?」


 後ろで補佐官のコンラートが口を挟む。

 優秀だが、小言が多いのが難点な堅物だ。


「せっかく盛り上がってるのに、再会した二人に水を差すのは野暮ってものだよ。……君、女性の気持ちがわからないの?」

「殿下……。その物言いは、まるで経験豊富みたいですよ」


 目の前の部下は慌てて首を振り、後ろの補佐官は呆れたように息をついた。


「不満そうだね?私は17歳の王族だよ。まだまだ未熟な若造だ。気軽に女性関係を築くわけないだろう」


 彼は、一瞬だけ窓の外へ視線を逸らしてから、部屋から出ていった。

 私の年齢は公表されているのに、知らなかったのか?

 部下の態度がおかしい。

 珍しく、退出の挨拶も棒読みだ。


「おかしなことを言ったかな?」


 部屋に残った補佐官がボソリと告げた。


「17歳発言がおかしいです」

「事実なのに」

「ええ……。本当に不思議なことに」

 

デイジーはローランを信じています。

ただし、彼の適当さもよく知っています。

つまり、信頼はしているけれど安心はできない。

そんな気持ちで待っていました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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