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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第32話 リジーの保険と役割、そして懐妊の噂


「なるほどねぇ。あの狂犬に首輪を付けるなんて、やるわね。公爵家――いえ、ヴァルターは厄介な物まで持ち出してきたわけね」

「マーガレットは腹を括ってリチャードに付いていくつもりだ。俺も行く。――放っておけないからな。リジーは……」


 素早くメモを取る。この場で二枚は必要だ。

 あまり時間をかけると、メイド長に怪しまれるかもしれない。

 カリカリとペンが動く音が響く。

 書き終わったものをローランに押し付けて、二枚目に移る。


「これをセス殿下に渡して。……ローラン。こんな事は今さらだけど。私たちはどうやって生き延びてきた?常に疑って、保険を掛けてきたでしょう」

「……そうだな」

「今回は、私が保険になるわ。人質みたいなものだけどね。それに――」


 リジーは一度言葉を切って、ローランの襟首を引き寄せた。

 いつもとは違う、きっちりと着込んだ騎士服。

 セス殿下の用意した物だろうそれは、随分と仕立てがいい。

 ほら。

 私たちとは、こんなにも生きる世界が違う。


「動くときは、周りを巻き込みなさい。損得勘定は相手に任せるのよ。……上手くいけば手柄、失うものは相手が勝手に想像する」


 頭のいい人間ほど、想像力が働くものだ。

 尻馬に乗りたい者。損をしたくない者。傍観を決める者。


 ただ、私たちは最初から賭け金が低い。

 見捨てられる可能性も捨てきれない。


 ならば――?


「証拠は一つじゃ足りないわね。首輪、茶葉、ハーブの効能……。決め手がないわ。……これじゃあ王族は動かない」


 写し終わったメモを懐に入れて、リジーは薄く笑った。


「まあ、まずは私たちが潰されたら困るから、今後も使えるって思わせなくちゃ。このメモ。もっと数が必要かな……。そうね……。ルイーズに罠も仕掛けたいわね」

「罠?どうやって?」


 どう説明しようかしら?

 少しだけ考えてから、ローランの手を掴む。

 リジーはローランの手を握り込み、そして力を込めた。


「マーガレットの『お仕置きー!』のビリビリよ!」


 ローランは、ぽかんとした顔で首を傾げる。

 こら。

 何気に私の手をさわさわするな。

 真面目な話だ。


「なんだよ??」

「もう……!伝わらないかなぁ。マーガレットの得意技を使いましょうってこと!」

「電撃か?」


 うん。確かにそれが印象深い。

 マーガレットが言うには、『お仕置き』には電撃が定番らしい。

 本当に、よくわからない子だ。


「馬鹿ねぇ。そこじゃないわ。あの子、まずは水を撒くでしょう?」

「……ああ。濡らしてから痺れさせるやつか」

「そう。しかも、どれだけ痺れるか、どのくらいの人が巻き込まれるか怖がってくれたら最高ね」


 一点だけを刺しても、権力者は握り潰せる。

 だから“疑心”という水を撒く。

 じわじわ染み込んでいくように――立場のある人間だからこそ足場を守る。

 噂や評判、そんなものでも、実際に崩れるものもある。

 それ自体は確証にならない。

 でも、証拠を探させるきっかけにはなる。


「第三王子まで脅したら、敵に回すぞ」

「そこは気をつけるわ。まだまだ役に立たなくちゃ。うーん、全部終わった時が危ないわねぇ」

「だな……。あ~あ、だから権力者絡みの依頼は勘弁なんだよな」 


 ――そう。本来なら逃げるべきだった。

 関わらないのが賢明で正しかったけれど、ローランも私も賢くないからね。

 冒険者にとって、信頼が一番大事なんだから。

 これまで何度もリチャードに命を預けてきた。

 そして彼も、それに応え続けてくれた。

 そんな仲間にはそう巡り会えるものでもないから、私たち二人は今ここにいる。

 それなのに、何を一人でカッコつけて背負っちゃってんのかしら、うちのリーダーは。


「何かあっても、逃げ切れるだけの時間を作らなきゃ。何とかしてみるわ。脅すのは最終手段にしたいわね、危険だもの」


 ルイーズの顔を思い出すと、苛立ちが多い毎日だったが。

 あの我儘娘の頭の中はどうなっているのか、本当に気になる。無茶振りが凄い。


「……それにしてもS級ね。ここが突破口かも。ルイーズも面白いことやるわ。そのお陰で生き延びる可能性が増えた」


 私の言葉に、ローランがニヤリと口角をあげる。

 よくもまあ。

 こんなに悪ガキみたいな笑顔を作れるものだ。


「ああ。リチャードならS級は夢物語じゃない。俺もいるしな。規格外のマーガレットもいる」


 マーガレットはあまり意識していないようだけど、彼女も大概凄い。

 四種類も属性魔法を使えるだけでも驚くが、魔力量が桁違いだ。


「まあ、リチャードの方は任せろ。それより公爵家のお坊ちゃんは?」

「……読めない」


 隠しても意味がないから、正直に答える。

 脅すとやばい、それだけはわかる。

 するとローランが、勢いよく私の肩を掴んできた。


「リジー!やっぱり一緒に行こう。いや、嫌がっても連れて行く」

「だから〜。これから“特別扱い”する王子様が、私たちの保険でもあるのよ。裏切ったとは思われたくないんだってば」


 リチャードが、マーガレットの命については心配をしていない。

 そこが大きい。きっと信用できるんだろう。

 でも、所詮は権力者だ。


「ったく、うちのリーダーが『天恵』を上手く使えればねぇ〜!男はメンタル弱すぎなのよ。ねぇ、ローラン?」

「……おう!当然だ。だが隷属の首輪なんて――」


 一瞬だけ間を空けて、コクコクと頷くローランを睨みつける。

 すると彼は、言葉の途中で口を閉ざした。

 ちょっと嫌味だったかしら。

 でも、文句くらいはいいじゃない。こっちも命懸けだ。


「そんなの、敵地に残る私も同じでしょうが」

「だから一緒に来いって言ってんだよ」

「はいはい!こっちは任せて、行ってきなさい。三人でちゃんと帰ってくるのよ」


 不貞腐れた顔で口を曲げる彼の頬に、ちょんと唇を寄せた。

 日に焼けて浅黒い彼の肌とその温かさに、少し名残り惜しさを感じてしまう。

 見送る時に、お互いに湿っぽさは要らない。

 だから、このくらいでいい――はずなんだけどな。


「ローラン、男を見せなさいね。……任せた」

「当たり前だろ。なんせお前に選ばれた実績持ちだ」 

「ふふ。確かに。じゃ、ローランが選んだ女のことも信じなさいよね」


 グッと眉を寄せたローランは、最後に強く私を抱きしめて窓の外へ消えていった。


 無音になった部屋の中で、数秒だけその窓を見つめた。

 窓の外からは、微かに葉擦れの音が聞こえてくる。


「さて、お仕事お仕事〜」


 グッと腕を伸ばし、頭の中を切り替える。

 そして、ソファで寝息を立て始めたダニエルを置いて、部屋を後にした。



 ――後日。


「なにこれ……!?ハーブティーじゃない!」

「あ……王太子妃殿下が飲んでいるものが混じってしまったようです……」


 ルイーズが声を荒げるのに合わせて即座に謝罪する。

 頭を下げるリジーの言葉を聞いて、彼女はさらに怒鳴りつける。


「何やってるの……!そんな物を私に飲ませるなんて……」


 お茶を淹れたメイド――リジーを激しく叱る。

 そんな場面を見たお茶会の参加者たちは困惑した様子だ。


「……ルイーズ様?」

「……なんでもないの。あまり数もないのに、メイドが勝手に出したから慌てたのよ」


 ルイーズが慌てて取り繕うが……。

 もう遅い。

 ローランに教えた通りに、すでに水は撒かれた後だ。

 これで周りが勝手に憶測してくれるだろう。


「これが、王室に献上しているお茶なんですね……。妃殿下も体調に気を遣っていらっしゃるのかしら。そういえば、まだ噂ですが、妃殿下がご懐妊なさったとか」


 場の空気を変えようとしたのか、歳若い女性が無邪気な声を上げた。


「……へえ。おめでたいわ。どこからの情報なの?」

「うちの親戚が、妃殿下付きの侍女をしていまして。毎日それはもう幸せそうだと――」


 ルイーズの表情にも気づかずに話を続ける女性を、別の女性が制する。


「……マリア嬢!あまり高貴な方の噂をしては駄目よ、ね?」


 ルイーズの隣の席の女性が、戸惑いながらカップの取っ手に触れる。


「それが本当なら、次の狩猟祭は参加なさるのかしら」

「王太子殿下主催のイベントですから。でも、それが本当なら……」


 噂話に花を咲かせる女性たち。

 その彼女たちの会話を中断させるように、ルイーズが声をかけた。

 その声はわずかに震えている気がする。

 ――面白くなってきたわ。

 リジーは、隅の方でそのやり取りをじっと聞いていた。


「皆さま、せっかくのお茶が冷めてしまうわ。貴重なハーブが入っているから、味の感想を聞かせてちょうだい。せっかく淹れたんだもの」


 勧められても、誰もお茶に手をつけようとはしない。

 当然だ。

 もう、疑心が染み込んでいるのだから。


「……ルイーズ様は?飲まれないのですか?」

「……私は、このハーブが少し苦手なのよ」


 ――その日のお茶会は、まるで盛り上がらずにすぐに終わりを告げた。


 この日からルイーズの当たりがきつくなり、リジーがさらに苛立つことになるが。

 命懸けなのだから、我慢できるまでは耐えよう、と決意する。

 まだローランたちは帰ってきていない。

 向こうのほうが、もっと大変だ。


 でも、これだけの成果を出せば、まあ第三王子も満足――してくれるかしら?



 

リジー、かなり頑張っています。

なお、ローランは褒めると伸びるタイプです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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