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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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第26話 “隷属”の首輪――リック

作者、ヤバい趣味ないです多分(笑)



「いいわ、リチャード。貴方はあの子を手に入れなさい」


 ルイーズが俺の喉元に指を突きつける。

 その整った爪が肌に食い込んで、チクリとした痛みとともに血が伝う感触がした。


(全部お前のせいなのに、くそ……。デイジーが見初められた?嘘だろ。いや……あの王子の性格を考えろよ……。演技に決まってる)


 わかっているはずなのに……あの時見上げたバルコニーの距離が遠すぎる。


 ……あともう少しだった。

 でも、それすらも錯覚かもしれない。

 所詮はお膳立てされた舞台だったのだから。

 デイジーが第三王子に抱き寄せられた瞬間、二度と手が届かないように感じた。

 あの無力感が、どうしようもなく胸の奥を傷つけていく。


「――それで、どうします?第三王子は諦めますか?」


 今までずっと黙っていたヴァルターが静かな声で、ルイーズに質問する。

 その口調はあまりにも自然で、二人の関係をよく表しているようだった。

 ルイーズは、それに反発するように彼に噛み付いた。


「そんなこと許せないわ!あんな気弱そうな女に負けてたまるものですか!」

「ならばどうします?第三王子と彼女は、我が公爵家に泥を塗ってくれたんです。――私の可愛い義妹をコケにされました。ぜひとも協力しますよ」


 机を叩こうとしたルイーズの腕をそっと包み、ヴァルターが穏やかな声で落ち着かせていた。

 政治絡みのゾッとする内容なのに、彼が言うと甘く聞こえるのはなぜか。

 そしてさらに言葉を重ねた。


「今までのやり方でいいんじゃないでしょうか。……気弱そうな女性なら特に効果がありますし」

「そうね……。すぐに泣いて逃げそうだわ」


 ヴァルターはルイーズを後ろから抱き込んだ。

 そのまま、彼女の視線をこちらへ向けさせる。


「理不尽と現実に泣かされる可哀想な女性。そして、彼女は直後に慰めてくれる、懐かしい男性に再会するんです。簡単な演出と場面を与えてあげればいい」


 ヴァルターは部屋に飾られていた花に、上から酒をかけていった。

 何故か目が離せない。

 流れ落ちる液体が、ゆっくりと花の色を変えていく。

 俺は、それを黙って見つめていた。


「蕩けるような甘い恋を、彼女に与えてあげるんです。そして……」


 美しく小振りな白い花が、琥珀色に染められていく。


「――王族に相応しくない女性になってしまえばいい」


 その言葉に、ルイーズがぱっと目を見開く。次の瞬間には興奮した様子で話し始めた。


「そうね。それなら、こっちは悪者にもならない。勝手に向こうが浮気するんだもの。――で、その役がリチャードなの?ヴァルターはやらないの?」

「……さすがに私は目立ちますから。お気に入りの彼を渡すのは惜しいですか?」


 ルイーズとヴァルターの視線が自分に向けられる。


「正直、惜しいわ……」

「ですが……」


 迷うように、ルイーズが爪を噛む。

 この会話を聞いているだけで気分が悪くなった。

 こいつの愛人なんて絶対に御免だ。


「ふふ。あまり私を嫉妬させないでください」


 ヴァルターがルイーズの顎を掴んだ。

 このタイミングで声を上げる。

 ここでルイーズを落胆させよう。

 自分には無理だ。


「俺は……女性が得意じゃありません」

「あら?そっかぁ、リチャードって本当に一途なキャラなのね……。やっぱり手放すのは惜しいわ」


 しかし、逆にルイーズの興味を煽ってしまった。

 ――くそ。


「ルイーズ。その男で満足ですか?それならば、すべてを諦めましょうか」

「――わかってるわ。冗談よ。私のものに手を出すなんて、あの女を許すわけないでしょう?リチャードの元サヤなら、まだ我慢できるもの……」


 意味のわからないことを言うルイーズに、理由のわからない執着を見せるヴァルター。

 おかしい。

 狂っている……。

 そう思うのに、ヴァルターの提案に惹かれてしまう。


「それに……」


 ルイーズが、おかしそうに笑った。

 いやらしく口元が歪み、醜悪な本性が顔に表れる。


「まともな嫁ぎ先もなくしてやるから。そうなったら悲惨よね。あら、いいこと思いついた。リチャードが要らないなら、私が相手を探してあげてもいいわね」


「――やめてくれ……!」


 思わず声を荒げてルイーズの言葉を遮った。

 聞いていられない。

 が、彼女の思う壺だったらしい。


「ならリチャード。貴方が奪って、大切に大切に閉じ込めないと。そうでしょう?」


 返事はできなかった。

 ただ、否定もできずに拳を握る。

 知らずに、自分の喉が上下していた――それだけはわかった。


「でも、そうね……。貴方、まだA級なんだっけ。そこがそもそもの間違いかもしれないわ」


 A級?いきなり冒険者ギルドの階級を持ち出されて思考が止まる。

 毎回、話が飛びすぎてついていけない。

 例の“予言”もどきか?


「そうよ!そこから間違えていたんだわ」


 ルイーズは自分で納得したように頷いてから、急に笑顔になって手を叩いた。


「だって、結婚を強制されたマーガレットは、S級になったリチャードが迎えに来てくれるってエンドなんだもの。これから、他の男のものになりそうな彼女を攫っていくんだわ」

「何か思いつきましたか。今度はどうする気です?」


 ヴァルターの視線は、面白いものでも見ているようだ。

 イヤな予感がひしひしと背中を覆っていく。


「リチャードをすぐにS級にしましょう!出来れば一発でS級になる方がいいわ。ここからが彼の英雄譚の始まりよ」


 狂ってやがる。

 一発でS級クラスの依頼?

 パーティメンバーが揃っていてもそんな危険は冒さない。


「じゃあ……これをプレゼントしましょう。簡単な命令しかできませんから、討伐に特化したものだけに絞りましょうか」


 黒くて細い革製の物を取り出したヴァルターはルイーズに笑いかけた。

 あれは――。

 それを目に入れた瞬間に、思わず喉が鳴る。


「何よ、これ?」

「いわゆる、隷属の首輪ですよ」


 ――そう。

 裏社会でよく見かけるものだ。

 貴族や裕福層が、秘密裏に人間を道具にしやがる魔道具――!

(……ヴァルターの野郎。準備万端だな、おい)


「まあ、なんて便利なの……!じゃあ、S級になるまで帰ってきちゃ駄目、とか?」

「もう少し単純な命令しかできません。“討伐目標を探し続けること”。“遭遇したら逃げることは許さない”このくらいが限度でしょう」

「いいわね、そうしましょう!」


 デイジー。

 避けようとしたその一瞬、彼女の顔が過ぎった。

 何のためにここに来た。全部彼女の為だ。


 ――そうして、俺の首に黒い首輪がかけられた。


 

反撃ターンまだー!?って回ですね。

もうしばらくお付き合いして下さると嬉しいです……。

ローラン、君が癒しだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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