第22話 嘘から始まるファーストダンス
二話同時更新です。お気をつけください。
「あ、あの……」
「ん?どうしたマーガレット」
エスコートの為に差し出された腕にしがみつく。
今日の為に用意された、彼の金色の刺繍が入った青と白を基調にしたドレス。
セス殿下の方も同じ配色だけれど、胸元には緑のエメラルドが光っている。
一目で高価な物だとわかる、大振りなブローチ。
要するに私の瞳の色だ。
「本当に、こんな所から登場するんですか?しかも……一番最初?」
王族専用の通路から見下ろした会場は眩すぎて目に痛い。
さすが王宮の大ホールだ。
想像していた以上に大きい……。
「いや……王太子殿下夫婦がもうすぐいらっしゃるはずだ。私たちはその後だね。……陛下はどうかな。体調次第かな」
顎に手を当てて考え込む殿下には悪いけれど、王太子にも会いたくないし、陛下に会うなんて、私が死んじゃいそう……。
「緊張しているの?」
「……もちろんですよ。口から何かが出ちゃいそうです……」
その答えにひとしきり笑った殿下は、私の手に自分の手を添えた。
――何か、ぴりっとしたものを感じた気がした。
静電気?
不思議に思って首をひねる。
「やっぱり――君は面白いものを抱えてるんだね」
「……え?」
「ヒントを出すと、私もリチャードと同類ってことさ。ただ、種類は全然違う。今、君の断片が色々流れ込んできた」
――それを聞いた瞬間。
ばっ、と手を離し、彼から距離を取った。
『天恵』。彼はそう匂わせている。
「……怖くなった?それとも気持ち悪いかな」
「その、思わせぶりな言い方が気分悪いです。わざわざ私にバラす理由もわかりません」
軽く肩を竦めたセス殿下は、もう一度私に腕を差し出した。
――これは何かを試されているのかしら。
「王太子殿下は、これのせいで私を警戒しているのさ。だから君も同様に扱われると思っていてくれ」
恐る恐るまた手を乗せる。
それを見て、殿下は眉を下げて苦笑した。
「そんな便利なものじゃないけどね。他の人よりちょっとだけ情報を多く得られる、それだけだよ」
「十分、便利ですし……。やっぱり内面を勝手に見られるのは、嫌に決まってます」
普通にプライバシーの侵害だ。
しかもこのタイミングで言うのが狡い。
問い詰める時間もない上に、これから王太子夫婦も来る。
「記憶を読み取るわけじゃないから安心して――って無理だよね。実際には、今、君が考えていることすらわからないってのにね」
「じゃあ、何がわかるんですか?」
ふっ、と笑った。
その笑顔はいつもと違う……そんな気がした。
「内緒。――ほら、時間切れだよ」
「……!」
廊下の奥から華やかな一団が近づいてきた。
赤いサッシュを肩から帯びた、金髪碧眼の美丈夫。
その隣には、黒髪の背の高い美人が寄り添っていた。
あれが――。
さっ、とセス殿下が頭を下げた。
慌てて私もそれに続く。
「久しぶりだな、セス。……そちらの令嬢が先日話していた人か」
「王太子殿下、妃殿下にご挨拶申し上げます」
王太子に声を掛けられたセス殿下は、そのまま私を抱き寄せた。
(え……いいの??これ大丈夫?――でも、私はセス殿下に合わせるだけだわ)
私は、彼に身を預けるように上体を起こす。
目が合った瞬間に、思ったことはこれだった。
似ている。面影がそっくりだ。
やはり二人は兄弟だ。
「はい、今日のパーティで皆に紹介する時間をいただきたいと考えております。是非、兄上からも一言いただけると助かります」
でも、やはり二人に流れる空気が普通の家族のものじゃない。
これが王族なのかしら――。
そして、セス殿下の言葉通りなら王太子殿下は冷たい方なのか……。
「君の名前は?」
「マーガレット・アドリスと申します」
そこで、王太子は私に笑顔を見せた。
その綺麗な青い瞳を細めた、優しげな表情を見て少しだけ驚く。
セス殿下の先程の忠告は一体――。
「セスに振り回されているんだろう?……一目惚れなんて下手な嘘をつくものだ」
その言葉に、心臓が嫌な音を立てた。
激しく暴れて鳴り止まない心臓の上に拳を置いて、無理やり笑顔を作る。
違う。
王太子殿下は、別に敵じゃない。
しかしそのプレッシャーは計り知れなかった。
「いえ……。私も望んだことです。騙されているなんて考えるだけでも悲しいですが――」
そこで、セス殿下の手を取って頬を寄せる。
笑え。
無邪気に微笑むのよ、デイジー。
「本来なら、触れることも許されない方の手を取ることができるなんて……夢のようですわ」
目を合わせる自信はない。
ただ誤魔化すための演技――その中に一つだけ本音を。
「最初は、なんて高慢で嫌味な方なのかと思ったのは事実ですけれど」
「それは酷いな……。こっちは必死に口説いていたのにね」
すぐに合わせてくれる、セス殿下。
彼の独壇場の舞台、そして彼が自分で言っていた得意分野だ。
フォローしてくれないとこっちが困る。
「なるほど、仲がいい様子で安心した。セスの本性にも気付いているなら尚更だ」
「まあ、王太子殿下。セス殿下はただちょっと捻くれた所があるだけです。」
ほっとしたのもつかの間で、彼らはすぐに本題に入っていった。
「セス。ルイーズ嬢はどうするつもりだ?」
「……兄上。女性の前です。……ですが、ただ一つ言えるなら、何としても諦めてもらう、としか伝えようがありせん」
セス殿下が妃殿下の方に視線をやった。
ちらり、と私も彼女の顔を窺う。
艷やかな黒髪に、しっとりとした色気がある彼女は、目が合った瞬間に、にこやかに微笑んだ。
――この笑顔を信じてもいいのやら。
王族の表情って分かりにくいわ……。
「頭が痛い問題だな……。何故か私にも、クラウディアにも距離が近い。エーデルシュタイン家の令嬢だ。無下にできないのが困りものだ」
うわー……。本来のヒーローからも迷惑がられてるじゃない、ルイーズ。
私はそっと溜め息をついた。
これから、その彼女を煽るのが私の役目か……。
気が重い。
でも……。
もしかしたら、リックと少しでも話せるかもしれない、そんなことを考えて自分を奮い立たせる。
目の前を通り過ぎていく王太子夫婦。
その瞬間に、会場が静まり返った。
しばらくすると、ゆったりとした音楽が流れ出した。
王族のファーストダンスから、夜会は始まる。
セス殿下が私の耳元で囁いた。
――もう演技が始まっている。
「さあ、私たちも行こうか」
「ええ、殿下」
その手を取り、私たちも明るく照らされた会場に一歩踏み出した。
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