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【新章・王都編スタート】転生したら孤児院出身。テンション低いけど頑張ります  作者: しぃ太郎
第三章 ルイーズ、再び現る

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22/24

第22話 嘘から始まるファーストダンス

二話同時更新です。お気をつけください。

「あ、あの……」

「ん?どうしたマーガレット」


 エスコートの為に差し出された腕にしがみつく。

 今日の為に用意された、彼の金色の刺繍が入った青と白を基調にしたドレス。

 セス殿下の方も同じ配色だけれど、胸元には緑のエメラルドが光っている。

 一目で高価な物だとわかる、大振りなブローチ。

 要するに私の瞳の色だ。


「本当に、こんな所から登場するんですか?しかも……一番最初?」

 王族専用の通路から見下ろした会場は眩すぎて目に痛い。

 さすが王宮の大ホールだ。

 想像していた以上に大きい……。


「いや……王太子殿下夫婦がもうすぐいらっしゃるはずだ。私たちはその後だね。……陛下はどうかな。体調次第かな」


 顎に手を当てて考え込む殿下には悪いけれど、王太子にも会いたくないし、陛下に会うなんて、私が死んじゃいそう……。


「緊張しているの?」

「……もちろんですよ。口から何かが出ちゃいそうです……」


 その答えにひとしきり笑った殿下は、私の手に自分の手を添えた。

 ――何か、ぴりっとしたものを感じた気がした。

 静電気?

 不思議に思って首をひねる。


「やっぱり――君は面白いものを抱えてるんだね」

「……え?」

「ヒントを出すと、私もリチャードと同類ってことさ。ただ、種類は全然違う。今、君の断片が色々流れ込んできた」


 ――それを聞いた瞬間。

 ばっ、と手を離し、彼から距離を取った。

『天恵』。彼はそう匂わせている。


「……怖くなった?それとも気持ち悪いかな」

「その、思わせぶりな言い方が気分悪いです。わざわざ私にバラす理由もわかりません」


 軽く肩を竦めたセス殿下は、もう一度私に腕を差し出した。

 ――これは何かを試されているのかしら。


「王太子殿下は、これのせいで私を警戒しているのさ。だから君も同様に扱われると思っていてくれ」


 恐る恐るまた手を乗せる。

 それを見て、殿下は眉を下げて苦笑した。


「そんな便利なものじゃないけどね。他の人よりちょっとだけ情報を多く得られる、それだけだよ」

「十分、便利ですし……。やっぱり内面を勝手に見られるのは、嫌に決まってます」


 普通にプライバシーの侵害だ。

 しかもこのタイミングで言うのが狡い。

 問い詰める時間もない上に、これから王太子夫婦も来る。


「記憶を読み取るわけじゃないから安心して――って無理だよね。実際には、今、君が考えていることすらわからないってのにね」

「じゃあ、何がわかるんですか?」


 ふっ、と笑った。

 その笑顔はいつもと違う……そんな気がした。


「内緒。――ほら、時間切れだよ」

「……!」


 廊下の奥から華やかな一団が近づいてきた。

 赤いサッシュを肩から帯びた、金髪碧眼の美丈夫。

 その隣には、黒髪の背の高い美人が寄り添っていた。

 あれが――。

 さっ、とセス殿下が頭を下げた。

 慌てて私もそれに続く。



「久しぶりだな、セス。……そちらの令嬢が先日話していた人か」

「王太子殿下、妃殿下にご挨拶申し上げます」


 王太子に声を掛けられたセス殿下は、そのまま私を抱き寄せた。

(え……いいの??これ大丈夫?――でも、私はセス殿下に合わせるだけだわ)

 私は、彼に身を預けるように上体を起こす。

 目が合った瞬間に、思ったことはこれだった。

 似ている。面影がそっくりだ。

 やはり二人は兄弟だ。


「はい、今日のパーティで皆に紹介する時間をいただきたいと考えております。是非、兄上からも一言いただけると助かります」


 でも、やはり二人に流れる空気が普通の家族のものじゃない。

 これが王族なのかしら――。

 そして、セス殿下の言葉通りなら王太子殿下は冷たい方なのか……。


「君の名前は?」

「マーガレット・アドリスと申します」


 そこで、王太子は私に笑顔を見せた。

 その綺麗な青い瞳を細めた、優しげな表情を見て少しだけ驚く。

 セス殿下の先程の忠告は一体――。


「セスに振り回されているんだろう?……一目惚れなんて下手な嘘をつくものだ」


 その言葉に、心臓が嫌な音を立てた。

 激しく暴れて鳴り止まない心臓の上に拳を置いて、無理やり笑顔を作る。

 違う。

 王太子殿下は、別に敵じゃない。

 しかしそのプレッシャーは計り知れなかった。


「いえ……。私も望んだことです。騙されているなんて考えるだけでも悲しいですが――」


 そこで、セス殿下の手を取って頬を寄せる。

 笑え。

 無邪気に微笑むのよ、デイジー。


「本来なら、触れることも許されない方の手を取ることができるなんて……夢のようですわ」


 目を合わせる自信はない。

 ただ誤魔化すための演技――その中に一つだけ本音を。


「最初は、なんて高慢で嫌味な方なのかと思ったのは事実ですけれど」

「それは酷いな……。こっちは必死に口説いていたのにね」


 すぐに合わせてくれる、セス殿下。

 彼の独壇場の舞台、そして彼が自分で言っていた得意分野だ。

 フォローしてくれないとこっちが困る。


「なるほど、仲がいい様子で安心した。セスの本性にも気付いているなら尚更だ」

「まあ、王太子殿下。セス殿下はただちょっと捻くれた所があるだけです。」


 ほっとしたのもつかの間で、彼らはすぐに本題に入っていった。


「セス。ルイーズ嬢はどうするつもりだ?」

「……兄上。女性の前です。……ですが、ただ一つ言えるなら、何としても諦めてもらう、としか伝えようがありせん」


 セス殿下が妃殿下の方に視線をやった。

 ちらり、と私も彼女の顔を窺う。

 艷やかな黒髪に、しっとりとした色気がある彼女は、目が合った瞬間に、にこやかに微笑んだ。

 ――この笑顔を信じてもいいのやら。

 王族の表情って分かりにくいわ……。


「頭が痛い問題だな……。何故か私にも、クラウディアにも距離が近い。エーデルシュタイン家の令嬢だ。無下にできないのが困りものだ」


 うわー……。本来のヒーローからも迷惑がられてるじゃない、ルイーズ。

 私はそっと溜め息をついた。

 これから、その彼女を煽るのが私の役目か……。

 気が重い。

 でも……。


 もしかしたら、リックと少しでも話せるかもしれない、そんなことを考えて自分を奮い立たせる。


 目の前を通り過ぎていく王太子夫婦。

 その瞬間に、会場が静まり返った。

 しばらくすると、ゆったりとした音楽が流れ出した。

 王族のファーストダンスから、夜会は始まる。


 セス殿下が私の耳元で囁いた。

 ――もう演技が始まっている。


「さあ、私たちも行こうか」

「ええ、殿下」


 その手を取り、私たちも明るく照らされた会場に一歩踏み出した。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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