第14話 デイジー包囲網と王族からの接触
リック視点多くなります。
「デイジー。疲れたぁ……!なんだ、あいつら。顔合わせれば喧嘩ばっかりしやがって。猛犬かよ!――あ〜癒し。俺の癒しだわ」
扉を開けた途端にリックが抱きついてきた。
ぐりぐりと首元に頭を埋めてくる。
うちのリックは猛犬ではないかな。
ちゃんと愛犬だわ。
「お疲れさま。はいはい、とりあえず座って」
「いやだ」
最近のリックは、他のパーティとの共同時に、リーダーや最前衛を任されている。
それだけ実力が認められている、ということだけれど。
私が追いついていない。
A級のローランの方が、ほぼ相棒状態だ。
「だいぶ窶れてるけど。大丈夫?」
「……デイジー。俺、お前が居ないと駄目だ」
確かにリックは凄い。
けれど、こうして弱音も吐くし甘えてくる。
『天恵』持ちだからって、別に万能でもない。
「何かあった?」
「………。」
私を抱きしめる力が、ぐっと強くなった。
その腕をポンポンと叩いてあげる。
なかなか離れてくれないけれど、疲れてるならすぐに休ませなければ。
「とにかく重いわよ。ほら、早く――」
私が促した瞬間に、リックが顔を上げて真剣な瞳で私を見つめた。
何かを躊躇うように一度目を伏せた彼は、コツンと額を合わせて、大きな手で私の頬を包みこんだ。
リック。
そのままキスをするのかと思って、目を閉じた私に、思いがけない言葉がかけられる。
「……デイジー。一緒に王都へ来てくれるか?」
「……はい?」
王都。さすがに予想外の流れだった。
「お願いだ。そうしないとお前を守れない。デイジー……お前は今、情報屋や賞金稼ぎに狙われている」
――は?
◇◇◇
――数日前(リック視点)――
三日がかりでようやく終えた依頼。
その報告のためギルドへ向かった俺は、そのまま応接室まで連行された。
目前に座るギルドマスターから、座るように促される。
はぁ……。
思わず出た溜め息を無難に誤魔化した。
別にこのおっさんが嫌いな訳じゃない。
目の前にある、大仰な模様入りの手紙を見てしまったからだ。
「お前にだ、リチャード」
「また勧誘ですか?え~と、なんとかって公爵家」
ここからかなり離れた領地だ。
王都にしても遠いはずなのに、なぜ俺が――そう思うのが普通だろう。
「別に俺じゃなくてもいい気がしますけど」
「そりゃ、何度も伝えたがな……」
そう言ってサッと差し出された書類に目が釘付けになった。
これは――。
「ついでに、マーガレットを情報ギルドが探してる。お前の連れだろ?」
思わず息を詰める。髪色、瞳の色、年齢。
簡単な情報しか載っていない。
先ほどから暴れ回る心臓を、無理やり落ち着かせる。
まだ大丈夫だ。
「その公爵家がマーガレットとデイジーって女を探してるんだと。……お前ら何やらかした」
今さら?
最初の一年は多少警戒していたものの、もう三年にもなる。
それに、確かあの件は大ごとにもならずに終わったと聞いた。
なら、これは別件か?
理解できない事態に混乱する。
デイジー、マーガレット。そしてリチャード。
(俺はともかく、何故“デイジー”の名前を?)
きな臭い。
「とにかく、そろそろ自分で何とかしてくれ。お前も、マーガレットも、もう足がついてるだろ。これ以上の揉め事は御免だ。そんなお偉方に目を付けられてるなら尚更な」
「――わかりました」
次はない――マスターからの忠告だ。
(……逃げても無駄だろうな)
今後の事を真剣に考えなければ……。
大人しくデイジーを差し出すなんて論外だ。
そんな事は許さない。
「おい、リチャード耳貸せ」
「はい?」
「更に上からな、お前に依頼が入った」
「上って……それはもう――」
王族。
「え、マジ……」
頭の中が真っ白になった俺を見て、ギルマスが何度も首を縦に振った。
深く頷いている。
「だよなぁ。俺も同じ言葉しか出なかったわ」
「個人……しかも、俺に依頼……」
明らかに、さっきの話と関連があるとしか思えなかった。
公爵家の包囲網と突然の王族からの依頼。
「なんで、先に公爵家の話を出したんですか?普通逆ですよね」
「お前のそういう所が気に入ってる。……まあ、トンズラされたら困るってのもあるが。正直、公爵家の遣り口がヤバすぎる。後から聞いた方に縋りたくなるのが人間だろ?」
「汚え」
「おい、交渉手段だと言え。とにかく王族と公爵家、必ずどちらかに泥を塗る事になる」
マスターは難しい顔をして腕組みしているが――。
「なるほど。王族なんですね?王家、ではなく」
「――ははっ!この野郎。そうだ、第三王子だ。しかも内密の依頼だ」
内密、ねぇ。
ならば向こうも公に出来ない事情があるわけだ。
「普段のあんたなら、公爵家を選ぶよな。王族でも“個人”だ。……それでも勧めるってことは、損はしないってことか」
「それは俺の口から言えないな。自分で確かめてこい、小僧」
なるほど、否定しないな。
すでに内容を聞いてるから、この余裕か。
しかも、“自分で確かめろ”――。
顔合わせの場まで用意されている。
(……悪い話じゃなさそうだな)
「――じゃあ、お相手に連絡をよろしくお願いします。まずはお話を、と」
「おう。任せとけ。……リチャード、まぁあれだ」
マスターにしては珍しく歯切れが悪い。
「次は酒でも持ってこい。上手くやりゃ、がっぽりだ」
「あんたは安酒のが似合ってますよ」
「ったく生意気な小僧だ」
どうせ、どちらも普通の相手じゃない。
まだ交渉できる方がマシだ。
とにかく、情報ギルドまで使われている状況だ。
もう後がないなら、踏み込む方向くらいはこちらが決めてやる。
少し成長した彼らを感じてもらえたら幸せです。
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