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  作者: 東郷十三
34/46

34、強さ

「仲の良い夫婦に見えるのに、色々あったんだな。ま、こっちもそう見えてるんだろうけど。」

こちらの問いかけに返事をする代わりに湯呑にお茶を注ぎ足し、続けた。

「冷静に話す彼女を見てると、誰か他の人の事じゃないかって思ったわ。なんか怖ささえ感じたもの。」

「よっぽど今の自分に自信があるんだろうな。」

「うーん、わかんないけど、懐の広さとか、強さとかが伝わってきた。」

両肘をつき、両手で顎を支えた。視線はテーブルに落としたままだ。

「今はこうしてあなたといろんなことを話して、あちこち遊びに行ってとても楽しい。でもこの楽しさは、これから先ずっと続くものじゃないことも分かっている。何かのきっかけで言葉を交わさなくなって、それが寂しさに、そして憎しみに変わっていくかもしれない。そんな時、感情を抑え込んで、何事もなかったかのようにふるまうなんて出来るかしら…。ううん、きっと私にはできないわね。」

大きく息を吸い込むと両手をテーブルに戻し、顔をあげた。


「ねえ、あなたが女性とそんな関係になったとして、私にちゃんと話してくれる?」

「え?ああ、そうだな。話…せないかな、正直言って。いや、うーん。」

「ふっ、あなたらしい言い方ね。」

やわらかな微笑みを浮かべた後、いつもの表情。

「でも私、やさしい嘘はいらないからね。」

「いや、決してやさしさとかじゃなくて、ただ、その、話したところで真意が伝わるとは限らないんだから、だったらいっそのこと…」

「はい、もうおしまい。」

湯呑をテーブルに置くと穏やかな表情でこちらを見つめ、2度かぶりを振った。

「ほんとにあなたって…」

緋乃の右頬に、西陽が当たり始めた。気が付くと、壁の時計は4時になろうとしている。

「そろそろ出発しようか。胃袋も少し落ち着いたことだし。」

「あ、そうね。後の予定もあるから、出ましょう。」

「後の予定?」


枯れ残ったススキが金色に輝いて風に揺れ、長い影を白いキャンバスの上に落としている。しかしその下に茶色に変色した落ち葉や朽ちた草があることに、誰が思い及ぶだろう。



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