37話 災厄
「アルバ!」
レオナルドは黒い騎士に庇われたアルバの肩を掴んだ。
「大丈夫か!怪我は!?」
「大丈夫、こちらの騎士様が助けてくれたから」
「こちらの……フルミネがどうして」
黒い騎士、フルミネは明らかにめんどくさいと言いたげな姿勢をとった。
「答えろフルミネ」
「……お前に応える義務は……」
「あるだろう?目の前にいるのが誰か、分かってるんだから」
そう言いながら歩いてきたのは妖精を連れたゲルフォルトだった。
妖精は泣きながらアルバの頬にすり寄る。
「指輪……気づいてくれたんだね。ありがとう」
「……ね?森の妖精がこんなに懐いてるってことは」
「わかった。分かったからそれ以上何も言うなグーフォ……」
フルミネは大きなため息を一つ漏らしてレオナルドに向き合う。
「ルーラー卿の命令でアルバーツィアを拉致したことへの贖罪と、不本意だが、お前を護るためだ。これでいいか」
「あ、ああ……おい、ちょっと待て、なんでお前がアルバの名前を知ってるんだ」
フルミネはしまった、とでも言うような表情で背を向けた。
グイグイと詰め寄るレオナルドから必死に顔を逸らしている。
「……グーフォ、私どうしてあのフルミネって騎士様を知らないんだろ。私の名前を知ってるなら森の同胞のはずだし、忘れるはずがないのに」
「彼には少し事情があってね。落ち着いたらゆっくり話そう。今は」
「レ オ ナ ル ドォォォ!!」
怒号のごときモルテナウスの声が屋上に響き渡る。
オルソに縫いとめられた服をビリビリと破りながら立ち上がろうとしていた。
「許さない……許さない、許さない許さない許さない許さない!!!なぜお前ばかりが全てを持っていくんだ!」
「……知らねぇよ。お前が手放していった、の間違いじゃないのか」
「とぼけたことを!お前は全て失う側だっただろう!?父親が毒でくたばった日、叔父に家を奪われた日、母親に蔑まれた日!手の内にあったものを一瞬で失ったくせになぜっ」
パァンッと皮膚を叩く破裂音が響く。
左頬を腫らし、口の端から血を流すモルテナウスは自分の状況を理解できず黙り込んだ。
「………っいい加減にして!貴方は自分から失っていってることに、まだ気づかないの!?」
モルテナウスの頬を思い切り叩いたのはアルバだった。
叩いた右手が痛むのだろう、微かに震えている。
「全て失う側だった?冗談じゃないわ!レオは失ったものよりたくさんのものを自分で手繰り寄せたの!それに比べて貴方はなに?選帝侯で奥様と娘さんがいて、皇帝に意見できる地位にいるのに、一般人を手中に収めたいがためにこんな事までして!恥を知りなさい!」
「ア、ルバ……ちが、僕は、」
「貴方が私の名前を呼ばないで。大嫌いよ」
アルバは吐き捨てるように言うと踵を返してレオナルドの横に立つ。
モルテナウスはそれを目で追いかけ、絶望の顔を見せた。
「して、王よ。この者にどのような引導を渡すかお決めになられたか」
ヴィクトリアと共に成り行きを見守っていたオルソが口を開き、レオナルドは真剣な顔で応えた。
「モルテナウス=ルーラーの身柄を拘束、処罰については皇帝陛下のご意見を仰ごう」
「我らの王としての引導は渡さないのか?」
「それだと私的処罰になりかねないからな。仮にもこいつは選帝侯だし、勝手に判断するのは少し気が引ける」
「……承知した。ではここからは…」
突然ボンッとくぐもった爆発音と共に赤黒い火柱が立ち昇る。
全員が火柱の方を向くと、オルソの拘束を無理矢理解いたモルテナウスが火柱の中で立ち、ギロリと睨んでいる。
「まったく往生際が悪いったらありゃしない……ルーラーの坊ちゃん!どう足掻いたって無駄だよ!」
「ダまレ。古代マ術ニシか興味ヲモタない輩ガ、僕ニ指図すルな」
モルテナウスの声は奇妙なノイズと共に聞こえてきた。
炎に包まれた身体は黒い影となり、どんどん大きくなっていく。
「彼女ガテニ入らナイなラ、モうこの世界ハいらナイ。故郷ゴと燃やシて絶望ヲ刻ンでやル」
大きくなった身体は形を変え、見たこともない怪物へと変貌した。
ワニのような頭、長い首、ライオンのような四肢、蝙蝠のような翼、トカゲのような長い尻尾、その全体を鱗が覆っている。
「……っドラゴン…!」
ヴィクトリアが異形の怪物を見上げて搾り出すように呟いた。
いるはずのない架空の怪物が炎を纏って顕現してしまった。
炎の怪物はググッと喉を膨らませ、何かを吐き出そうとしている。
「!やばいやばいやばいやばい!!リチャード!障壁を展開するよ!!手伝いな!」
「分かってるって!」
ヴィクトリアとリッキーが横に並び、魔法陣が刻まれた円盤を掲げた。
直感的にここにいる全員が危険な状況であると判断したレオナルドは、モルテナウスの妻と娘、メイドのナーシャを開拓騎士団の中に呼び入れ防御体勢を取らせる。
「これは二人だけじゃ防ぎきれないね……オルソ、フルミネ!私たちも」
ゲルフォルトはオルソとフルミネと共にヴィクトリアたちに駆け寄ると、二人の肩に手を置いて魔力を流していく。
すでに展開されていた障壁がドンと音を立てて倍以上に大きくなった。
「来るよ!全員構えて!」
ヴィクトリアの合図に全員が身構えた直後、巨大な化け物は口を大きく開き喉の奥から炎の渦を吐き出した。
かなりの熱風と魔力の圧に悲鳴と叫び声があがる。
「耐えろっ!臆するな!」
必死に耐えた。
逃げ出したい衝動を抑えて、身を寄せ合って。
高温で屋敷の壁が溶け、舞った火の粉が屋根を焼く。
惨状を横に見てどれだけの時間が経ったのだろう。
この巨大な化け物は自分たちを焼き殺すまで炎を吐き続けられるのかもしれない。
嫌だ、こんなところで死にたくない。
誰もがそう思ったと同時に炎の渦が止んだ。
どうやら化け物は自身に溜め込んだ炎を吐ききってしまったらしい。
苦々しい表情を浮かべた化け物は背中の大きな翼を羽ばたかせると、ぶわりと浮き上がる。
「あ!コラ!どこ行く気!?」
「言葉の民ガここニイるなら、森ヲ燃やせバいいダロう?」
ニタァと笑った化け物は大きく羽ばたくと、旋回して森へ向かって飛んでいく。
追いかけようとしたフルミネだったが、炎で崩れかけた床に足を取られ断念せざるを得なかった。
このままではここにいる全員が邸の瓦礫に巻き込まれお陀仏だ。
「……竜化の秘術を完全にこの世から消しきれていなかった余の責任だな」
突然ヴィクトリアの肩に止まっていた小鳥が流暢に人語を話し始めた。
魔法道具にしては人が中に入っているかのようなほど人間味に溢れた仕草をしている。
「ちょっとピーちゃん、急に喋ったらみんな困惑する……」
「そんなことを言っている場合か?とにかく全員を後方拠点まで転移させるぞ」
景色がぐにゃりと歪んだかと思うと、身体を浮遊感が襲い内臓がグワッと持ち上がるような感覚と吐き気がした後、景色は魔法騎士団が設営した後方拠点へと変わっていた。
何人もの騎士たちが耐えられず吐いていた。
「………、転移魔法って……うぷっ、……」
「最近の若いもんは弛んでいるな。こんな短距離の転移にも耐えられんとは……さて、愛弟子の友よ。言葉の民とお見受けする」
オレンジ色の小鳥は青い顔のヴィクトリアからパタパタと飛び、アルバとレオナルドの前でホバリングする。
「余はマーリン。かつてウィリティング王国にて宮廷魔法士を担っていた者だ。言葉の民と交流を深めようとしたが、開拓を急いだ者たちに阻まれてしまい願い叶わず、かの戦役を引き起こしてしまった」
「マーリン……?鳥の形をした手紙をくれた王国の魔術師?」
「んん?余をそのように伝えておるのか」
「伝えてというか、受け取った本人……」
「本人だ〜〜〜?戦役は700年も前だぞ、生きておるわけがなかろう!それとも何か?余の成し遂げられなかった不老不死が、かの民にはあったというのか」
「不死なんてない。これは森の呪い、不老ではあるけど病気や怪我で普通に死ぬ。私は病気や怪我で死んでいった同胞を見てきたから。貴方が思うようないいものでもないんだよ」
それよりも、とアルバはドラゴンへと姿を変えたモルテナウスが飛んでいった方を見た。
時折吹く突風に混じって悲鳴のような甲高い音が耳を掠めていく。
「師匠。レオたちだけでも森に転送してあげられないかな」
未だ復活しないヴィクトリアの背を摩りながらリッキーは訊ねた。
「はぁ?愛弟子よ、流石にそれは無理難題だ。さっきの転移魔法でこの小さき体に蓄えていた魔力はすっからかんなのだ。いくら可愛い愛弟子の頼みでも……」
「必要ないよリッキーくん。もとより私たちは、その魔術師の世話になろうとは思っていないからね」
穏やかではあるがどこか怒気を孕んだ声音でゲルフォルトが言う。
横にいたオルソもまた同様だった。
「魔術師マーリンは我らと交流を深めようとした、と言っていたが、我らはそうは思っていない。魔法の研究のためと同胞を連れ去ろうとした経緯、忘れてなどいないぞ」
「それに使わないでって言った火の魔法も普通に使ってたのも忘れてないわ。あれのせいで森が燃えたの……貴方が直接関わっていないとしても、火の森戦役に加担したとこちらは解釈してる」
アルバ救出作戦に同行していた他の言葉の民たちがゾロゾロと集まり、マーリンを取り囲もうとした。
彼らは火の森戦役を経験せずとも伝承として教えこまれる。
故に、マーリンや王国時代の魔術師は敵も同然なのだ。
「………まさかピーちゃんがそんな前科を持ってたなんてねぇ」
ようやく復活したヴィクトリアがマーリンを鷲掴み顔を近づけた。
「いや、違うんだ、トーリー」
「何が違うって言うのぉ?ここにいる人たちは火の森戦役の被害者なんだから、発言には気をつけないとダメじゃない。過去の過ちを贖える訳じゃないけど、責任もってあのドラゴンをどうにかしなさいな」
「この体じゃムリが、あだだだだ!にぎにぎするな!潰れる!」
ヴィクトリアは構わずマーリンを両手で捏ねるようにぎゅむぎゅむと握る。
手の中でピーピー鳴いているが聞こえないふりをしてアルバたちに頭を下げた。
「アタシさんの師匠がとんでもない事を。師匠に代わりお詫び申し上げます」
「魔法騎士団のキミが謝ることじゃない。私たちにはもう過ぎたこと……森の呪いを受けて700年以上生きてしまっているだけの当事者の言葉なんて、もう死んでるものと同じだよ。まぁ許しはしないけどね」
ゲルフォルトはニッコリと微笑んでヴィクトリアの手の中にいるマーリンを見る。
目が笑っていない。
「……とにかく我らは我らの移動手段で森の防衛にあたる。後方支援として騎士団のみなに助力いただけるならばありがたいのだが」
「後方支援じゃなくて前戦で支援させてよ。あのドラゴンはアタシさんたち帝国側の負の遺産、アタシさんたちの罪でもあるんだからね」
「しかし帝国の防衛はどうする。あのドラゴンという化け物が帝国の本陣を狙わない保証はない」
「だぁいじょうぶ。皇帝陛下のいるお城にはこのおバカ師匠設計、アタシさん運営の防御装置があるからね。多少手薄になってもお城ひとつ守りきれる自信はあるよ。という事で、森から火の手が上がり始めたから移動しようね」
全員が森の方を向く。
森の中腹辺りから黒煙が上がり、木々の縁が赤く染っているのが目視できた。
「こんなの……あの時と、同じじゃないか……!」
「ここにいても埒が明かない!王よ、我らは先に戻らせてもらう」
「わかった。でもどうやって」
「それは見てのお楽しみだよ、レオナルドくん」
オルソとゲルフォルトは羽織っていたマントを頭まで被ると、ぶるりと身を震わせた。
すると輪郭がぼやけ始め、人の形から別の形へと変わり、二倍三倍の大きさになる。
ぼやけていた輪郭がはっきりする頃には別の生き物がそこに立っていた。
オルソの所には人間の二回りほど大きいクマが、ゲルフォルトの所には人間の一回り大きいフクロウが。
居合わせた騎士たちの中からヒッと悲鳴が上がる。
「いやはや、この姿になるとどうしても驚かせてしまうのが厄介だね」
「仕方あるまい、もう我らのように化生の術を使えるのは限られているからな……では同胞を連れて先に行く。フルミネ、アル、頼んだぞ」
オルソは背に同行していた言葉の民の何人かを乗せ、ドドッと足音を鳴らしながら走っていく。
ゲルフォルトも足に言葉の民を乗せて静かに羽搏き、森へと音もなく飛んでいく。
「では我々も」
「待て待て、フルミネ、まさかお前も……?アルバもか?」
「残念だが、俺だけだな」
フルミネはチラとアルバを見、悲しそうに目を伏せて身体を震わせた。
黒の洋装はボロボロと崩れ人間の三回りも大きく膨らんだかと思うと、青白い静電気を発しながら巨大なワシが翼を広げるように顕現する。
「名は体を表す……遠い東の国の諺があるらしいが、その通りだな。レオナルド、アルバーツィアと共に乗れ。グーフォたちを追いかける」
「……、あ、あぁ……アルバ、手を。アルバ?」
声をかけられたアルバだったが、フルミネの黄金色の瞳をを見上げたまま動かない。
「アルバーツィア」
「……!貴方、本当にフルミネという名前なの?」
「フルミネでなければなんだというんだ。早く乗れ、また手遅れになる」
「アルバ、手を出してくれ。引き上げる」
アルバはレオナルドに右手を差し出すと、先に乗っていたレオナルドはグッと掴んでそのまま抱き寄せるように引き上げた。
フルミネは二、三度羽ばたいて中空に浮くと、ヴィクトリアを見下ろした。
「ヴィクトリア、お前もあとから来るんだろ」
「もちろんさね」
「なら南西にまっすぐ飛んでこい。寄り道するなよ」
「当たり前じゃないの。アタシさんのことなんだと思って……!あ!コラ!」
フルミネは小さく鼻で笑うと南西の方角に向かって猛スピードで飛んでいく。
数秒も経たないうちに姿は見えなくなった。
「……雷の魔法剣所有者は足が速すぎるのよ、まったく……さぁみんな!移動用の絨毯の準備に取り掛かって!追いかけるよ!」
轟々と風が耳の横をすり抜けていく。
風圧で飛びそうになるあるばの身体をレオナルドはしっかりと抱き寄せた。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫」
「……嘘、吐くなよ」
「嘘じゃ、ない……よ」
「………そういう事にしとく。今は」
レオナルドは何か言いたげた顔をしてそっぽを向く。
煤や怪我で汚れた顔は少し幼く見えた。
「……俺の背でイチャつくなよ。降りるぞ」
呆れた口調でフルミネが言うと、眼前を炎のドラゴンが噛み付くかのように飛び込んできた。
それを避けて森の中へ着陸し、レオナルドとアルバを下ろしてワシの姿から人の姿に戻ったフルミネは魔法剣を抜いて空を見る。
「レオナルド。俺たちの王になったんだろ、腰に提げてるその剣で暴れてくれ」
レオナルドもまた魔法剣を抜いてフルミネの隣に立ち、空に浮かぶドラゴンを見る。
「言われなくとも。お前まで言葉の民だったことには驚いたけどな……背中、任せるぞ」
「任されてやるよ。アルバーツィア!森のみんなを頼む!」
「っはい!」
アルバは二人に背を向けて森の中心へと走り出す。
「燃えロ!全テ燃えてしマエ!アルバも、オ前たちモ!何もカモ!!」
「させない。俺は……俺は!あの日を繰り返さないために!」
「お前を止めるぞモルト!」
魔法剣を構えた二人の騎士は炎のドラゴンに向かって飛び出していく。
「みんな!大丈夫!?」
走って集落の入口にたどり着いたアルバは、肩で呼吸をしながら安全確認をしながら中へ入っていく。
外で火の手を見た言葉の民たちは消火活動の準備をする者と、幼子や老人を避難させようと動いている者とでごった返していた。
「守護者様!一体これはどういうことですか!」
「ごめんなさい私にも分からないの。帝国人が炎の化け物に姿を変える魔法を使ってしまって森を燃やすって」
「森を燃やす!?帝国人はまた過ちを繰り返すつもりなのか?」
「それよりも王は?スィシオゥはどちらに?」
「北東に進んだ先で大きなワシに変化できる騎士様と共に注意を引き付けてくださってるわ。今のうちに子どもたちやお年寄りのみんなを……?どうかした?」
「あっ、いや、なんでもないですよ!さぁ地下の清泉に避難させよう!」
アルバの話を聞いた民たちが一瞬たじろいだように見えたが、何事も無かったかのようにテキパキと行動を始めた。
アルバは慌ただしく動く民たちの中を縫うように、セグルツカがいるであろう根の宮へ急ぐ。
「おば様!」
「アルバーツィア、災難だったね」
「私のことはどうでもいいの!早く、早くみんなと一緒に避難しないと!」
「できぬよ。其方が一番よくわかっているだろうに」
アルバはセグルツカに伸ばした手を止めた。
そう、分かっている。
セグルツカは根の宮からは出られても、集落の外には出られないことを。
集落の外、地下の清泉に行くということは大母樹を見捨てることを意味する。
そうなれば700年前のエルバリタと同じことを繰り返してしまう。
「……いや……嫌だ、嫌だよ……どうして、こんな……」
「そうよなぁ。どうしてこうも不運な巡り合わせなのか……吾も其方も、もう懲り懲りよ」
セグルツカはアルバの頭をポンポンと撫でる。
「其方は問題なく清泉に行けるだろう。ノンナルベラから授かったその指輪が守ってくれる」
「やだ、私もおば様と一緒に」
「馬鹿を言うでない。其方はスィシオゥの守護者、700年前の火の災厄を繰り返すつもりか?」
「!そ、れは……」
「心配要らない。今代のスィシオゥは水に愛されておる。生来の純粋な魔力に清泉の魔力が合わさって種子を蒔く者に相応しき我らの王だ。此度の災厄も見事鎮めてくれるはずだ」
セグルツカはアルバの背中を根の宮の入口まで押していく。
階段を登りきった後、強く背中を押してアルバを外へと押し出した。
「っおば様!」
「其方なら大丈夫。我らの王も大丈夫。自信を持って我らを救ってくれ」
セグルツカが腕を上げると根の宮の入口は木の根で固く封じられてしまった。
アルバは駆け寄りダンダンと根を拳で叩くが、木の根は硬すぎてビクともしない。
叩いた拳が痛み顔を歪めていると、何かが燃える臭いが鼻をくすぐる。
振り向くと炎のドラゴンが容赦なく火を噴き、水と稲妻の斬撃を押し返していた。
その状況に額の傷がズキリと痛み始める。
「………っ何なのよっ……私たちが何をしたって言うのよっ!あの日も、今も!」
アルバは汗で額に張り付いた髪を無造作にかき上げて走り出した。
まずは避難誘導。
次に逃げ遅れがいないか確認。
到着して人間の姿に戻ったゲルフォルトたちをレオナルドの方に誘導して魔法騎士団を待つ。
「もうすぐ魔法騎士団の一行が到着するみたいだ。私たちは先にレオナルドくんの援護に行くから誘導を頼むよ」
「任せて。誘導と共に私も合流するわ」
「……大丈夫なのかい?」
「大丈夫じゃないに決まってるでしょ。でも私がここで挫けている場合じゃないのよ」
ゲルフォルトは思わず眉を顰めた。
アルバの蜂蜜色の瞳が一際輝き、身に纏う空気が一瞬にして変化したことに気づいたからだ。
これはアルバの守護者としての力なのかそれとも。
「わかった。でも無茶はしないように。キミを失いたくはないからね」
「失うだなんて大袈裟ね」
アルバは空を見上げて大きく手を振る。
そこには魔法の絨毯に乗った残りの仲間たちが降りてきている姿があった。
「700年前の戦役と今回の侵略は仲間の数が全然違うでしょ?」
そう言って微笑んだアルバは絨毯に近づき、レオナルドたちが戦闘を繰り広げる方角を指さして先に誘導する。
「グーフォ、この災厄を食い止めましょ」
「……過去を繰り返さない為にも、ね」




