↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/50

32話 激昂と冷静の間で

「あ゛〜〜〜〜昨日飲みすぎた」

「だーからやめとけって言ったんだぞ」

「まったく情けないわね。はい、お水飲んで」

 執務室で二日酔い真っ只中のリッキーがメルダが持ってきた水を一気飲みして大きくため息を吐く。

 あの後相当飲んでいたらしい。

「晩飯も早かったしさ?そんなん飲むしかないでしょ」

「だからって二日酔いになるまで飲んでいい訳じゃないんだぞリッキー。辛いなら帰れ邪魔だ」

「ちょ、当たり強くない?」

「俺は心配してるんだぞ………ん?なぁどっかで誰かノックしてないか」

 書類を捌きながらリッキーをあしらうレオナルドがふと手を止めてキョロキョロと辺りを見渡した。

 メルダが立ち上がって同じように見渡すと、窓の端で何かがキラキラ光りながら揺れているのを発見した。

「何が光って……ちょっと!団長!」

「!どうした!」

「これっ」

 メルダが窓を開けて指さしたのは朝日に照らされて光るピンクゴールドの指輪。

 そしてレオナルドの目にはその指輪を涙目で抱きかかえている一匹の妖精の姿だった。

「おい、これをどうしてお前が」


王さま 導きの子 つれてかれた

朝露の木に これ おとしてた 王さまにとどけてって


「連れてかれたってどこに!?」

「団長?何と話して……?」

「!そうか、お前たちには見えないのか……指輪のところに妖精がいる。そいつが言うにはアルバが連れ去られた……!」

 メルダの顔から血の気が引く。

 机に伸びていたリッキーもガバッと起き上がって窓に駆け寄った。

「連れ去られたって誰に?」


わからない でも むねのとこ じゃらじゃらいっぱい 妖精ちかづけないもの ついてた


「胸にじゃらじゃら……勲章か?なぁ、こういうやつか?」

 レオナルドは妖精に自分の胸の勲章を見せると、妖精はそれだと言わんばかりに指さしてきた。

「勲章をたくさんつけてるってことは、そこそこ階級は上だ。至急帝国に開拓顧問拉致の通達と、ウィルに裏ルートで陛下に直接手紙を届けてもらおう。頼めるか」

「必ず完遂する。先にサンブタックに伝達魔法を送ってくるから手紙の準備をしててくれ」

 ウィルは執務室を飛び出していき、レオナルドは妖精を手に乗せて室内に入れ指輪を回収した。

 傷一つない指輪を握り締めて爆発しそうな感情を必死に抑え込む。

「くそっ……いつだ、俺が送って行ったあとか?だったらなんで潜伏してる奴に気づかなかった!?」


王さま きのう おうちのまえでぎゅーしてた

それ見てた子から ほうこく

導きの子さらったにんげん くらやみのまほう つかってた

すがた みえなくする すごくむずかしいまほう できるの ひももってる子


「紐持ち……?言葉の民に協力者がいるってことか」


もりのこ ちがう

もりのこいれば 妖精すぐわかる

でも妖精 わからなかった だから まほうつかったの もりのそとのこ


 レオナルドに嫌な予感が過ぎる。

 言葉の民ではない、帝国人の紐持ち。

 皇帝の力はアルバのような人心に作用するもの。

 それ以外の魔法はからっきしダメだと本人が言っていた。

 だったら残るはあと一人。

「………っモルト……!」

「レオ!伝達魔法の返事が来た!サンブタックはあんたに協力してくれるから早く手紙を書け!」

 戻ってきたウィルに言われるがまま、レオナルドは妖精を机に降ろしペンを取った。

 猛烈に沸き上がる幼なじみへの怒りにペンがガリガリと悲鳴を上げている。

「落ち着け!陛下への手紙だぞ、ちゃんと書かないと」

「わかってる!」

 苛立つレオナルドの鼻先に妖精がビンタを一発お見舞いした。

「いっった!?なにす」


王さま! れいせいになる!

おこるパワー つよいけど だめ!

導きの子 いつもれいせい だいじっていってた!


 レオナルドはいつか言われた事を思い出す。

『人の怒りのパワーってそのまま魔力に乗ることがあるんです。ほら、うちの館長がレオナルド団長に怒った時。あれ、館長が重力の魔法に怒りを込めてたから威力マシマシだったんですよ。あれは悪い例、もし団長さんが魔法を使う時は冷静に、純粋な魔力の強さでお願いしますね』

 まだ敬語でよそよそしかった頃のアルバが語りかけてくる。

 こういう時ほど冷静に。

 自分にそう言い聞かせて手紙を書き直す。

「……よし。ウィル、この手紙を陛下に」

「分かった」

「リッキーは開拓騎士団全員を集めろ。メルダは巡回に回ってるヤツらに伝達。ガーネットは俺に付いてきてくれて」

「了解」 「承知しました」

 レオナルドは棚の魔法剣を腰に提げ、窓の外を睨みつけた。

「お前はこの指輪を守っててくれないか」


やだ わたしもいっしょにいく

王さまのまほうのおてつだいする

導きの子のゆびわ ここにいれる


 妖精はレオナルドの胸ポケットに指輪をスルリと入れると、肩にしがみついた。

 これはどう言っても離れてはくれないだろう。

「……危なくなったらお前だけでも逃げるんだぞ」

妖精は小さく頷いた。

「レオ、みんな集まった」

「分かった。行くぞ」



 頭が痛い。

 少し身動いで目を開けると、見知らぬ部屋の見知らぬ寝具の上だった。


──ここは、どこ?昨日レオに家の前まで送ってもらって、それから…


 思い出そうとして頭痛に悩まされてていると、扉の向こうからガチャガチャと鍵の音が聞こえ、今一番会いたくない人物が入ってきた。

「お目覚めかな」

「……っモルテナウス、ルーラー…!」

「呼び捨てとはご挨拶だね。僕はキミを保護したっていうのに」

「保護?無理矢理拉致しておいて保護はないんじゃっ!?なにっ」

 右腕を振ろうとしてあまりに重さとジャラッという鎖の音に驚いた。

 見ると右手首と両足首に鎖付きの枷が嵌められている。

 鉄でできているのか、皮膚に触れているところが赤くなってしまっている。

「あまり暴れない方がいい。キミの美しい柔肌を傷つけてしまうからね」

「だったら 外して 」

 アルバは言葉に魔力を乗せようとしたが、モルテナウスは笑うだけだ。

「外すことはできないよ。キミをレオのところに行かせたくないからね」

「……あなたの目的は何」

「それはさっきも言っただろう?キミの保護だよ。愚かな皇帝に開拓顧問に任じられて大変な目に遭っている博物館のガイドさんを元の生活に戻してあげるんだ」

 恍惚とした顔で迫ってくるモルテナウスから離れようとアルバは寝具の端に移動するが、足の枷に繋がった鎖を引っ張られ体勢を崩した。

「言っておくけど、キミはここから出られないよ。妖精との繋がりが深いキミのことだ、この鉄の枷は相当苦痛だろうし、力も制限されている」

 モルテナウスの手がアルバの頬に伸びてきたが、扉がノックされたことで途中で止まった。

「ご報告します、ニコライ=ダンダリオ侯爵子息がいらっしゃいました」

「……チッ、間の悪い…すまないねアルバ、話の続きはまたあとでね」

 モルテナウスは髪に唇を落とすと呼びにきた使用人と共にでていった。

 アルバは布団カバーで髪を拭き、鎖の音を立てながら部屋の隅に這っていき膝を抱えて座り込んだ。

 鉄の枷は冷たいのに接触している部分は熱を持っているかのように熱い。

 よく見ると枷と鎖の接合部に真っ黒な魔法石が埋め込まれている。

 だから身体が重だるく、魔法が使えない。

『汝は700年に及ぶ余の不老長命の祝福と加護により、体内の魔力構造が人間から妖精のへと変わりつつある。つまりは適合だな』

 大母樹に呼ばれて森に出向いた時に言われた、あまりにも衝撃的な言葉。


——大母樹様が森の加護に適合しすぎて妖精化が進んでるって言ってたのがこれね…痛くはないけど鉄は熱いし、言葉に魔力が乗らなかった。多分加護そのものも鉄でシャットアウトされてるはずだから、致命傷を受ければ…


 拉致監禁、そして拘束。

 これらに対する恐怖を払拭するように冷静に頭をフル回転させる。

 こうでもしなければ恐怖でおかしくなってしまいそうだからだ。

 でも湧いてくるのは最悪の事態ばかり。

 モルテナウスの手に落ちてしまうことが怖い。

 レオナルドを危険な目に合わせてしまうかもしれないことが怖い。

「こわい……たすけて、レオ……」

 こんなにも恐怖が勝つなんて。

 抱きかかえた膝に顔を埋め、声を押し殺して助けを求める。

 冷静さを保ち続けることなどできるわけがない。

 誰でもいい、今この状況を打破して。

 皆が狂ってしまう前に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。