幕間7
おまたせいたしました。
次より最終章開幕となります。
オルソ、クチオーロ、ピッキオの三人がダンダリオ伯爵領に招待されていた日の夜、仕事を終えて帰宅したアルバの元に言葉の民が訪ねてきた。
アルバは言葉の民を家に招き入れようとしたが、言葉の民はやんわりと断り預かった伝言を伝える。
「樹聖が貴方様に早急に来て欲しいと」
「おば様が?」
「はい。自分はそれだけをお伝えしろとしか」
「そう……分かった、明朝そちらに向かうとお伝えして」
「御意に」
言葉の民は深々と頭を下げると、暗くなった夜道に溶け込んでいった。
アルバは扉を閉め二階へ上がると、明日の仕事を休む旨の手紙をしたため、丁寧に封筒に入れた。
それをアルバの肩越しに見ていた妖精に渡す。
「この手紙を、レオに届けて来てくれる?まだ起きてらっしゃると思うから」
妖精はコクリと頷いて、開けた窓から飛び出して行った。
これくらいなら魔力は使わないから、昼間のレオナルドのように魔力切れによる体調不良は起こさないが、ふとした瞬間の魔力消費をどうコントロールすべきかを今の一瞬で思考を巡らせた。
王としての自覚ができた以上、何もかもが今までと変わってくるはず。
今の彼にとって伯爵領の経営と言葉の民の王の二足のわらじは心身共に苦しいものだろう。
そこに魔法の扱いともなると尚更。
「……彼のことだし、弱ってる所はリッキーたちには見せないのよね、たぶん」
そう、彼は見せたがらない。
おそらく魔法を上手く扱えない事すらも、アルバに見せたくないだろう。
彼は『できない自分』が嫌いだから。
「不器用なところも魅力の一つだと思うんだけどなぁ…」
そう独り言ちると、アルバはうんと伸びをして夕食の準備に取り掛かった。
明日の朝は早い。
早く食べてシャワーを浴びて寝よう。
早朝、まだほんのり薄暗い中でアルバは森へと入っていった。
妖精たちが案内するおかげで足元は明るく、あっという間に集落まで戻ってきた。
夜の番をしていた者たちと朝から番をする者たちとがちょうど入れ替わる頃で、何人かに挨拶されながら根の宮に向かう。
相変わらず根の宮の入口はひんやりとしていて入るのに戸惑ってしまう。
「……ん?早かったなアルバーツィア」
背後からセグルツカが声をかけた。
彼女も今自宅から出てきたらしい。
「おば様」
「急に呼び立ててすまない。中で話そう」
根の宮に二人が降りていくと、妖精たちがティーセットを準備していた。
「みなありがとう。あとはこちらでやる故、朝露をもらっておいで」
妖精たちが機嫌よさそうに飛んでいくのを見送ったセグルツカは、アルバを椅子に座るよう促す。
「アルバーツィア……其方を呼んだのは吾ではないのだ」
「え?じゃあ誰が」
「……ノンナルベラだよ」
「ノンナルベラって……大母樹様じゃない」
「そうだよ。其方にどうしても伝えたいことがあるんだとさ」
セグルツカは苦笑いすると何かを呟き始めた。
キラキラと光の粒がセグルツカに集まると、雰囲気がガラッと変わる。
「……お、おば様?」
「………導きの子、汝の大叔母を少し借りているぞ」
「だっ大、母樹様!」
アルバは椅子から降り、床にひれ伏した。
セグルツカの肉体を借りた大母樹はアルバを立たせて微笑んだ。
「セグルツカに頼んで汝を呼んだのは余だ。どうしても伝えたいことがあったのでな、無理を言った」
「いえ、私は…」
「時間がない、単刀直入に伝えよう。導きの子よ…汝は」
大母樹の言葉にアルバは目を見開く。
口元に持っていった手は震え、声も出ないほどに動揺している。
「気をつけよ。汝の力を欲する者がすぐそこまで来ている。スィ・シ・オゥの傍を離れるでないぞ。それが汝自身を守る手段だ」
震えたまま何も言わないアルバをそっと抱きしめた大母樹は優しく頭を撫でた。
母親が我が子をあやす様に。
「すまぬ。余が不老長命の祝福を与えた事が、汝をここまで苦しめるものになろうとは」
大母樹は身体を離し、胸の前で手を組んで祈りを捧げると、掌の中に木製の指輪が二つ転がった。
「汝と新たなスィ・シ・オゥに、余からの最大限の祝福を込めた魔具だ。互いに決めた指に嵌めるが良かろう」
大母樹は木製の指輪をアルバに握らせると、もう一度優しく抱きしめた。
「どうか、自らを犠牲にすることだけはしないと約束しておくれ」
アルバは少し間があったものの小さく縦に首を振る。
それを見届けた大母樹がセグルツカの身体を離れたらしい。
頼むよ、とセグルツカは呟いてアルバを抱きしめたのだった。




