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22話 ダンダリオ伯爵領

お待たせ致しました。

日曜日更新です。

甘酸っぱい何かしらで皆さんの心をムズムズさせられたらいいなぁ

 ウィルト市を守る城壁を抜け、惑わせの森に近づくと見えてくるのが、新たに創設されたダンダリオ伯爵領。

 つまり、レオナルドが領主を任されている土地である。

 100ヴィンケル(東京23区程の大きさ)ともなれば、統治するのはかなり難しそうではあるが、ここにいる領民のほとんどは元々レオナルドの故郷から移り住んできた者たちであるため、何だかんだで統治はできていた。

 レオナルドの故郷から移り住んできた者たちは口々に言う。


「レオ坊ちゃんが侯爵領を継がれると思って生きてきたけど、伯爵になられてご自身の領地を持たれるならそっち行くでしょ、普通」


 このように信頼度MAXである。

 もちろん、全員が全員ではないため温度差はあれど、暴徒が突然暴れ出すようなことはなかった。

 そんな領民たちだからこそ、レオナルドは忙しい合間を縫って整備中の街に顔を出す。

「レオ坊ちゃん!今日はいい野菜が並んでるよ!」

「おぉ!あとでうちのに買わせに行くからいいのを取っておいてくれ!」

「レオ坊ちゃん!ここの区画、資材がちょっと足らなくなるかもしれないぞ!」

「それはまずいな。騎士団から何人か派遣するから調整してくれ。それでも足らないなら王都に報告させる」

「レオ坊ちゃん!」

「レオナルド様!」

「領主さま〜!」

 どこかで見たような光景。

 それをふと考えて、レオナルドの口角が少し上がる。

 背後からガラガラと馬車が走ってくる音が聞こえた。

 待ち焦がれた、新たな住民を運んできた馬車はレオナルドの横を通り過ぎ、馬車の待合所へと入っていく。

 先に降りてきたメルダに手を引かれて、女性が1人降りてきた。

 ベージュの大きなキャスケット帽に大きな丸メガネ、動きやすそうなパンツスタイルの彼女。

 地面に足をつけ眩しそうに手をかざしながら顔を上げた彼女と目が合う。

 深々と頭を下げた彼女にレオナルドは駆け寄る。

 思わず抱きしめたい衝動を必死に抑えて、領主然として声を掛けた。

「ようこそアルバ」

「ダンダリオ伯爵様、お招きいただきありがとうございます」

「よしてくれ。そんな堅苦しいのはナシだ。いつも通りで頼むよ」

「……公人と私人の境目が分からなくなりそうですが」

「公人私人の前に、俺とキミは同僚だからな。多少の無礼講も許されるはずだ」

「などと仰られていますが……今の発言は?」

 アルバが隣にいたメルダに話を振ると、当のメルダは小さくサムズアップしただけだった。

 今のはセーフ判定らしい。

「セーフなんだから、もう少し気楽にしてもいいんだぞ」

「さすがに公衆の面前では無理がありましょう。ただでさえ大人気のレオナルド坊ちゃんですからね?」

「大人気帽子のガイドさんも同じだろう?」

 言い合って2人して吹き出す。

 誰も悪態を付き合う2人に割って入ることはなく、ただ微笑んで見守っているだけ。

「これからよろしくお願いいたします」

「あぁ。こちらこそよろしく頼む」

 互いに右手を差し出し握手する。

 固く交わされた握手が2人の信頼を表しているかのようだった。



「この後荷物を置いたら俺の邸でお茶でもしないか?」

「え、それ巷で言うナンパってやつですか?怒られますよ」

「そんな訳ないだろ!開拓騎士団長と開拓顧問としてお茶でも飲みながら今後の作戦会議をだな……」

「そういう大義名分があるのでしたら仕方ありませんね」

「!よし!すぐ行こう!アルバの家はこっちだ」



 アルバの家は領地の中心地であるダンダリオ邸のひとブロック裏にある、庭付きの一軒家タイプの家だった。

 既に庭師も手配され草木が整えられた可愛らしい庭と、白の漆喰壁に赤茶のレンガ屋根が乗った二階建て。

「アルバのことだから開拓で見つけたものを修復したり保管したりすると思って1階はそのスペース、2階が生活スペースになるように設計してある」

「そこまで……いいんですか?」

「いいんだ、俺がやりたいって思っただけだ。ここの領民には不自由なく生活をしてもらいたいからな」

「そのご好意はありがたく頂戴させていただきますね」

 そう言ってアルバは我が家となる家の中に入る。

 造りたての真新しい匂いがする。

 生活必需品も揃えてくれているため、2階に服が入ったトランクと愛用品が入ったトランクを持って上がり、荷解きは戻ってきてからにしようと再び1階に戻ってきた。

「ん?荷解きしてこないのか?」

「えぇ、そこまで大荷物でもありませんから。作戦会議のあとでも問題ないかと」

「そうか。もし人手が必要ならいつでも言ってくれ。メルダやガーネットを送るから」

「必要になったら、お願いします」

 こうしてアルバは家を出てレオナルドの邸に向かうことにした。

 ウキウキのレオナルドに連れられて白い壁に濃紺の屋根の大きな邸に足を踏み入れる。

 ルーラー邸よりはかなり規模は小さいが、天井が高く開放感に溢れており、大きめの窓が至る所にはめ込まれていて邸全体が明るく感じた。

「エントランスが暗いとなんか嫌だろう?せっかく来てくれた客人にもいい気分で入ってほしいし帰って欲しいからな」

「なるほど……たしかに明るいと気分も上がりますね」

「そうだろう?」

 フフンと得意げなレオナルドだったが、スっと真剣な仕事モードの顔になる。

「明るい話はここまでだ。あとは執務室で話そう。うちはまだ使用人を雇っていないからお茶の準備は自分たちでやるんだが……」

「でしたら私が」

「何言ってんの。アルバさんは今日はお客様なんだから」

 エントランスの奥からエプロンを着けたガーネットが出てきた。

 焼き菓子か何かを焼いていたのか、手には大きなミトンがはめられている。

「団長はさっさとアルバさんを執務室に連れてって。メルダはアタシを手伝って。もうすぐシフォンケーキが焼けるから、紅茶を淹れてほしいの」

「まったく、一丁前に指示してくれちゃって。アルバさん、団長が余計な事をしたら容赦なく殴ってので、その後こちらに逃げてきてくださいね」

「はっはっはっ、冗談がキツイぞメルダ」

「は?」

 氷点下の眼差しでメルダは牽制し、レオナルドは震え上がらせた。

 アルバは3人のやり取りを見て思わず吹き出す。

 やはりレオナルドの扱いが雑になってきている気がする。

「……とりあえずアルバ、執務室に案内するから着いてきてくれ」

「ふふっ…はい、団長」

 アルバはレオナルドの後ろについて2階に上がる階段を上っていく。

 2階の廊下もエントランスと同じで窓が多く明るい。

 2階の奥の角部屋にレオナルドの執務室があった。

 ドアを開けて中に入ると、机や棚、休憩用のミニテーブルセットが宿舎の隊長室と同じ配置になっていた。

「この配置は…」

「宿舎と同じだな。長い間あの宿舎だったからな、違うと落ち着かないんだ……アルバ、」

 呼びかけられて振り向いたアルバの右手をスっと取ったレオナルドは優しく包む。

「レオナルド団長……?」

「……すまない。こればかりは本当に抑えられそうにない」

 見上げた先、レオナルドの蜂蜜色の髪がキラキラと光っている。

 アルバの胸がザワつく。

 嫌な予感ではなくやっと出逢えたような、待ち焦がれたような、そんなざわつき。

 握られた手から感じる魔力の流れに心地良ささえ感じる。

「キミを迎え入れるまでの月日の中で、キミに対する気持ちが何なのかを考えていた。モルトのように囲ってしまいたいというのはないが、そばに居て欲しいと思う。横にキミがいないと部屋が冷たく感じるんだ」

「そ、れは……」

 握られた手に力が入る。

 ダメだ、自惚れてはいけない。

 レオナルドのそれは孤独感と同じものだ。

 彼の胸の穴の最後のピースに、今はなるべきではない。

「レオナルド団長、今はそんな事を言っている場合ではありませんよ。お部屋が冷たく感じるというのであれば、今日のように何か口実を作ってお呼びください。そうすれば私も公的に団長に会いに来れますから」

「違うアルバ。俺は」

「私は今、開拓顧問としてここに来ています。私人であればあなたのお気持ちにお答え出来たかもしれませんが、公人である以上はお答えできません」

 アルバは困ったように眉尻を下げた。

 今は、仕方ない。

 それはそれ、これはこれなのだから。

 レオナルドもつられて眉尻を下げ、自分に何か言い聞かせたのかアルバの手を離しソファへと案内した。

「アルバ、いつかまた先程の話の続きをさせてくれ」

「えぇ、それはもちろん」

 アルバが返答をしたのと同時にドアがノックされて、ティーセットと美味しそうなシフォンケーキを携えたガーネットとメルダ、リッキーが続々と入ってきた。

 3人はアルバとレオナルドの空気に何か察しつつも何も言わずお茶の準備をせっせと済ませていく。

「わぁ…美味しそう……」

「ガーネットお手製ふわふわシフォンケーキだよ。生クリームをたっぷり乗っけて食べてね」

 アルバは言われた通り、小皿に盛られた生クリームを掬い小さく切ったシフォンケーキの上に乗せてひとくち。

 口の中でシフォンケーキの香ばしさと生クリームの甘すぎなさがダンスを踊っている。

「んん〜〜〜っおいしい!」

「よかったぁ……お城でお食事をいただいた時にさ、あんまり甘いの好きじゃないのかなってメニューを見て思ってたの」

「そうだったんですね。甘すぎるのが少し苦手なだけで、ケーキは何でも好きですよ」

「じゃあ定期的にケーキ焼いて、アルバさん家でお茶会しちゃおっかな」

「それは楽しみですね」

 小さく笑いながら紅茶に口をつけたアルバは口に手を当てた。

「これ紅茶、ですよね?」

「驚きました?あたしの実家、貿易商館を任されてて外国で流行っているらしいリンゴって言う果実を使った紅茶を仕入れたので、是非皆さんにと送ってきてくれたものです」

「メルダさんのご実家が貿易をされているのも驚きですが、海の向こうは果実でさえも飲み物にしてしまう技術があるんですね……素晴らしいです」

「んふっなんかアルバさんに褒められると照れる……」

 穏やかな女子トークに蚊帳の外だったレオナルドに笑いを堪えていたリッキーは背中を向けてプルプルと震えている。

 少し寂しそうな顔をしたレオナルドだったが、すぐに穏やかな笑顔に戻る。


───今ならわかる。父さんが昔、俺に言ったことが。"大切な人たちの笑顔を守る事こそ、良き領主なのだ"……父さん、俺はみんなの笑顔を守ってみせるよ。

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