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16話 謁見と思惑

本日は幕間と16話更新です。

 控え室に運ばれた食事は野菜中心ではあるが、アルバの好物が食器を彩っていた。

 美味しくいただいたが、ふと疑問に思った。


──どうして私の好きな物を国側が知ってるんだろう?


 まぁ、分からなくもない。

 おそらくモルテナウスがヘッドドレスの件と一緒に伝えていたのだろう。

 そうだとしても、少し薄気味悪いが。

「これ美味しかったね。いいなぁお城の人たちはこんな美味しい料理を毎食食べられるんだよね〜」

「そうかもしれませんが、毒味だ何だで冷めたものを召し上がられる事の方が多いと聞きますよ」

「ホント?あ、だからアタシたちの料理も冷たい系が多いんだ?」

「可能性はありますね。美味しいからいいですけど」

「大変だね〜お城の人達も」

 実際毒が入っていようものなら大問題だ。

 一般人とはいえ、皇帝の招聘に応じて登城した者を暗殺するようなことなどあってはならない。

 全く、国のトップに近いほど人間の恐ろしさは増すものだ。

 デザートまで食べた頃に、ウィルト城のメイドが食器を下げに入室してきた。

「お口に合いましたでしょうか?」

「はい、すごく美味しかったです」

「それはようございました。別の者がノービレ様をお迎えに参りますまでの間、ごゆるりとお過ごし下さいませ」

 深々と頭を下げてメイドたちが退室していった。

 お城でメイドとして働くには何は必要なのだろう。

 知性?品性?口の硬さも必要だろうか。

「お城のメイドさんはわからないけど、郊外に住む貴族の邸のメイドは人員募集とかがあるんだよ」

「……ガーネットさんはサイコメトラーかなにか何ですか?」

「なにそれ?アタシはアルバさんがメイドさんたちのことをジーッと見てたから気になったんだろなぁと思っただけだよ」

 見抜かれていたことに驚いたアルバは笑うしかなかった。

「その観察眼、博物館で働きませんか?」

「あはっありがたいお誘いだけど、アタシはレオ坊ちゃんの下で働き続けるって誓っちゃった身だから怒られちゃう」

「レオナルド団長なら許してくれそうですけど?」

「うーんこればっかりは許してくれないかも…ちょっと複雑な事情があるからね」

 内緒だけど、とガーネットは困ったように笑って誤魔化した。

 複雑な事情ならば仕方ない。

 ヘッドハンティングは失敗だ。

 アルバが気分転換に立ち上がったと同時に再びドアがノックされた。

 短く返事を返すと、控えの間に案内してくれたグレーヘアの執事がドアを開け深々を頭を下げた。

「ノービレ様、謁見の間へご案内いたします」

 アルバとガーネットは顔を見合わせた。

 予定時間よりもかなり早いお迎えだったからだ。

「あの、失礼ですが、お時間を間違えていらっしゃいませんか?私たちは…」

「いいえ、皇帝陛下より皆様をお迎えするよう仰せつかっております。どうぞご準備を」

 どうやら何かしらの伝達ミスがあったらしい。

 アルバとガーネットは小さく頷きあって執事の前まで歩み寄る。

「ダンダリオ様はすでに謁見の間の前までご案内済みですのでご安心ください」

「分かりました。よろしくお願いします」

 グレーヘアの執事はにっこりと微笑みアルバたちを先導する。

 謁見の間までの廊下はひどく遠く感じた。

 歩いても歩いてもたどり着かない。

 やっと謁見の間が近づいてきた頃、壁に飾られた皇帝一族であろう肖像画がたくさん飾られていることに気がついた。

 1人だけのもの、複数人で描かれているもの、父と子のみが描かれているもの。

 ただ一箇所だけ、四角く日焼けしていない壁が気になったが、執事が先へ進むのに必死に追いつくしかなく気づかなかったふりをした。

「こちらが謁見の間でございます」

 指し示された先を見ると、焦げ茶色の大きな扉が鎮座していた。

 その手前に待っていたレオナルドと目が合う。

「まもなく内側より扉が開かれますので、開き切ったタイミングで中へお入りください」

「分かりました。ありがとうございます」

 お礼を言うと執事はまた深々と一礼し、扉を軽くノックした。

 すると扉がゴンという音を立てて開き始めた。

 一気に緊張が増し、体を強張らせたアルバの肩にレオナルドはそっと手を掛けた。

「大丈夫、俺がいる。ガーネットもいる。心配はいらない」

「……はい」

 扉が開き切った。

 皇帝と対面である。



 執事に言われた通り、扉が開き切ったタイミングで2人は歩き出した。

 少し遅れてガーネットもついてくる。

 小股すぎず、大股すぎず、早すぎず、遅すぎず。

 マナー講座で頭に叩き込んだことを思い出しながら、一歩一歩皇帝の前へと歩いていく。

 謁見の間の中央に来たぐらいでレオナルドが足を止めた為、アルバも一緒に立ち止まり最敬礼とカーテシーで挨拶する。

「開拓騎士団団長、レオナルド=ダンダリオ殿。帝国立歴史博物館学芸員、アルバ=ノービレ殿。両名罷り越してございます」

 頭の上でモルテナウスの声が響いた。

 彼が司会進行役らしい。

「うむ。両名楽にし、表を上げよ」

 低く柔らかな声が降ってきた。

 レオナルドとアルバはゆっくりと顔をあげ、真っ直ぐに室内の奥を見つめる。

 大きく荘厳な玉座に威厳溢れる男が座っていた。

「此度の招聘に対し早急の参上、快く思う。我、ゲラルト=ウィルトアートの名に於いてそなたたちの功績を称え勲章を授ける」

 皇帝・ゲラルトの言に2人は深々と頭を下げた。

「ではまずダンダリオ団長、前へ」

「はっ」

 呼ばれて2歩、歩み出たレオナルドの前に勲章を置いた盆を持った兵士とモルテナウスが立つ。

「貴殿には正式に伯爵位を認め、惑わせの森に面した100ヴィンケル(およそ東京23区ぐらいの大きさ)の土地を与える。今後の一層の森への開拓を期待している」

 モルテナウスの口上に謁見の間がざわついた。

 臨席していた貴族の面々にとって、予想の遥か上をいったのかもしれない。

 胸に勲章を付けられ、2歩戻ってきたらレオナルドはどこか誇らしそうだった。

「尚領民に関しては、現ダンダリオ侯爵領より移住の希望を示した者を中心に与えるものとする。これは皇帝陛下の決定である」

 これにはレオナルドも驚いたらしく、小さくえっ、と声が出ていた。

 臨席の貴族の中から怒号が飛んだかのように聞こえたが、皇帝が右手を挙げたことで静まり返った。

「次にアルバ=ノービレ殿、前へ」

「はい」

 アルバもレオナルドのように2歩歩み出た。

 兵士が持つ盆の中には羅針盤を模した勲章と目録が置かれている。

「貴殿には惑わせの森開拓に於いて歴史的観点から開拓騎士団に貢献した事を称え、特別勲章として名誉学芸員の称号を授与する。尚、今後も開拓騎士団に従軍し、惑わせの森の開拓に貢献すると同時に、新発見については貴殿の名で公表する事を許可する」

 アルバは思わず顔を上げてしまった。

 無礼を行なっているのは分かっているが、あまりにも酷な賞与だった。


──また森で同胞と闘わせる気なの…?この人たちは私をどうしたいのっ


 1歩後ずさろうとするアルバの前で、動かないで、とモルテナウスが小さく警告した。

 ハッとしてアルバが顔を下げると胸元のリボンに勲章を持ったモルテナウスの指先が触れる。

 金で縁取られた羅針盤と白亜の文字盤、その中心には方位磁針の代わりに蜂蜜色の宝石があしらわれている勲章がプツリと小さく音を立ててリボンにつけられた。

 モルテナウスの指が愛おしそうに勲章を撫でて離れていく。

「こちらの目録は形だけものだから気にせずに受け取って。後で改めて中の話はするから」

 コソッと耳打ちしてモルテナウスはアルバから離れた。

 アルバは平静を装って見事なカーテシーで応じると、2歩後ろに下がりレオナルドの横に並んだ。

「両名大儀である。今後も我がウィリティング帝国のますますの発展に尽力せよ」

「はっ!」 「はい」

「……ではルーラー卿、この後の流れを説明せよ」

「承知致しました陛下。それではこれよりダンダリオ団長の伯爵位授与を称える立食パーティに移ります。皆さま侍従の案内でのご移動をお願い致します」

 扉の向こうから多数のメイドや執事たちが現れ、1人また1人と案内されて謁見の間から去っていく。

 レオナルドには控えの間に案内したグレーヘアの執事が歩み寄る。

「ダンダリオ伯爵、こちらでございます」

「待ってください、彼女は」

「ノービレさんは別件だよ。レオは新領主としていろいろお歴々に挨拶しなきゃだからね」

「……お前っ……」

「ダメだよレオ、ここは王宮。口の利き方には気をつけようね。そちらの彼女も一緒にダンダリオ伯爵をお連れするように」

「えっちょっと!」

 レオナルドとガーネットはグレーヘアの執事に半ば強引に連れ出されてしまった。

 謁見の間に残るのは玉座に深く腰掛ける皇帝とモルテナウス、そしてアルバのみ。

 アルバはドッドッドッと早鐘を打つ心臓の音を隠すようにゲラルトへ最敬礼のカーテシーを行う。

「……よい、楽にしなさい」

 先程の威厳ある皇帝の声ではなく、さらに優しい声がアルバの耳に届く。

 恐る恐る顔を上げたアルバにゲラルトはただ微笑みかけていた。

「驚かせて悪かったね。こうでもしなければ内務大臣がうるさいのだ」

 やれやれと肩を竦めるゲラルトに、アルバは拍子抜けしていたところにモルテナウスが手を差し伸べた。

「ノービレ殿、もう少しこちらに来てもらえるかね?」

 ゲラルトの言にモルテナウスは小さく頷き、アルバの右手を取り赤いカーペットを歩き始める。

 アルバも仕方なくそれに従い、ゲラルトまで残り5歩というところで止まった。

「ここから儂の執務室へ移動しよう。そなたの知識を儂に貸してほしいのだ」

 応えるべきかオロオロとするアルバを見て、ゲラルトは豪快に笑った。

「わっはっはっは!よいよい、ここにはもう儂らしか居らんでな。楽にしてよいのだよ?」

「……発言するご無礼をお許しください。私の知識が陛下のお力になれるかどうか…」

「堅苦しいのぅ……まぁ良しとしよう。そなたの知識は儂らの力になるよ」

 よっこら、と立ち上がったゲラルトの後ろをモルテナウスは手招きして移動し始める。

 向かう先は真っ赤なカーテンの奥、隠されるように取り付けられた黒いドア。

「慣れぬ場所で慣れぬことを強いておることを許しておくれ。とにかく今は、儂らの話を聞いてほしいのだ」

 ゲラルトが黒いドアを開け、アルバと共に中に入る。

 後に続いたモルテナウスがドアを閉め、そのまま誰も来ないようにと動くことはなかった。

 壁一面の本棚と中央に豪奢な暖炉、執務机といかにもな執務室の中で異彩を放つ物が1つ。

「この手帳をな、解読してもらえんだろうか」

 そう言って手渡された茶色の手帳はずしりと重く、アルバはしっかりと握る。


 まってたよ


 耳の奥にどこか懐かしいような、そんな声が聞こえた気がした。

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