31:栄光のパレード
やっぱりレクターの言ったことに納得できない。宗教は確かに危ないっていうのは分かるけど、国で一番重い罪にするって極端な気がする。再教育って何するのか気になるけど聞いたら絶対後悔しそうな気がする。
「宗教に蝕まれた人々は社会から取り残されてしまう。そうなる前に救うのが私たちの責務です」
真剣な表情で私にそう語るレクターの様子からして、宗教は禁止すべき存在であるのはカルナトにとって常識なんだろう。
しばらく街を歩いていくと、大勢の人たちがある方向へ向かっていることに気づいた。見た感じ今日はお祭りか何かあるっぽい。
レクターは思い出したかのように振り向いた。
「今日は軍事パレードがあるんですよ。せっかくだし見に行きましょうか」
そう言って彼は私を連れて人ごみの中を突き進んでいった。彼を目にするなり人々はすんなりと道を開けた。中には頭を下げる人もいた。レクターはこの国だとかなり偉い人なんだろうな。
「パレードってどこでやるんですか?」
「建国広場で行われます。ちなみに主席のお姿もお目にかかれますよ」
「分かりました。教えていただきありがとうございます」
国家主席も参加するってことは相当大規模なイベントなんだ。正直、国家主席がどんな感じの人なのか気になるし、軍事パレードだからかなり迫力がありそう。ちょっと楽しみになってきたかも。
やがて建国広場に着いた。だが、レクターは広場の敷地に入るや否や、直進する人々とは別の方向へ向かっている。
「このまま行くと人が多すぎて見れないかもしれません。もっといい場所がありますのでそこから見てみましょう」
そしてレクターはある塔まで辿り着くと、ドアに手をかざして鍵を開けた。一瞬彼の手が光ったからおそらく何かしら能力者なのかもしれない。
塔を上ったあと、また別の塔に繋がっている通路に出た。十メートルくらいの高さだが見晴らしはそれなりに良く、宮殿がはっきり見える。見下ろしてみると、見物客が集まっていて物凄い人だかりができていた。
「間に合って良かった。もうすぐ始まるようですね」
レクターがそう言った直後、楽器の音が一気に聞こえてきた。広場に待機していた軍楽隊が演奏を始めたようだ。その音に合わせて大勢の兵士たちが行進している。彼らの一糸乱れぬ動きに、私は思わず言葉を失い見入っていた。
それだけではなかった。急に人々の拍手や歓声が塔の上まで聞こえてきた。拍手の先を見てみると戦車らしき兵器が行進してくることに気づいた。しかも、一般的な戦車とは外見も全く違う。前面にはドーム型の装甲で覆われている他、上部には砲塔が角のように伸びている。こんなの初めて見たんだけど…
こう見るとカルナトって結構発展してるんだ。
「すご!戦車走ってるじゃん」
「彼らはカルナトが誇る主力戦車、ウォーヘッドですよ。……いつ見てもかっこいい」
戦車の名前を教えてくれたレクターだったが、声のトーンが少し適当で私の方を見ていない。その目はパレードに夢中になっていた。独り言出てるしマジになってるやつだ。確かに戦車かっこいいけど…
戦車の行進が終わってしばらく経つと、軍楽隊の演奏の音量が大きくなった。
「さあ、主席のお出ましです」
そして、宮殿から十数人の兵士や側近に守られるようにして主席らしき男が出てきた。男が姿を現した直後、人々の盛り上がりは最高潮に達し、拍手はさらに大きくなった。社会主義国家のトップが来ると聞いたから、威圧的な雰囲気の人物を想像していたが現れたのは微かに茶色く光る髪をした青年だった。
もしかしたら私とあんまり年変わらなそうな。あいつ、普通にイケメンじゃん。
「あの人の名前はなんていうんですか?」
「彼がまさしくカルナト共和国三代目国家主席、”シュンスイ=トクユキ”です。」
「……とくゆき?」
今、なんて言った。ここ、日本じゃないのに国のトップの名前、めっちゃ日本人っぽくない?流石に偶然か…いや、首都がケントグラードって名前だったし何か日本と関係ある気がしてきた。
「ユイカさん?どうされました?」
「ええっと、国家主席の名前のスタイルが日本と似てるような気がしたんです」
「…そうでしたか。でも私はこの世界に二ホンという国の存在は確認されてないので流石に偶然だと思いますね」
「もう一つ聞きたいのですが、建国者はなんていう名前だったのですか?」
「建国者は”ケント=トクユキ”という名前です。ちなみにシュンスイ氏は彼の孫です」
やっぱり私の違和感は間違ってなかった。建国者の名前も思いっきり日本人だし絶対偶然じゃないよねこれ。でもなんでこの国に日本人が関わってるんだろう。ここが地球じゃなかったら日本人なんているわけないし、仮にどこかの外国だとしたらテレビや学校とかで絶対知ってるはずだからこんなに何も分からないことはないと思うの……
もしかしてあの遺跡、未来の世界かどこかと繋がってるのかな?それかまたは……ダメだ止めよう。頭がパンクする。とにかくここは私の常識が通用しない場所なのは確かだ。
あれこれ考えているうちにパレードが終わった。最後まで盛大なまま閉会式が行われ、人々はパレードの余韻に浸りながら帰っていく。空を見ると日が暮れはじめていた。
「素晴らしいパレードでしたね。そろそろ帰りましょうか」
「はい。あ、でも私、帰る所がなくて……」
「ああ、それに関してならご心配なさらず」
「え?」
「まあ私についてきてくだされば分かります」
レクターについていくと、ホテルっぽい建物に案内された。彼はフロントの人と少しだけ話すとこっちに戻ってきた。
「本日はここにお泊まりください。外国から来られた方を受け入れるための宿泊施設です」
待って、気持ちはありがたいけどお金なんて当然持ってないから色々飛ばしすぎだって!
「でも私、この国の通貨なんて持ってませんが大丈夫なんですか?」
「無料なので大丈夫です」
「え、無料なんですか!?」
「はい。困っている方を放置するわけにはいきませんから。この施設は秩序維持省の管轄なので私の方から対応しておきます。お気になさらずお休みください」
そう言ってレクターは街のどこかへ消えてしまった。
他に当てがないので、とりあえずレクターを信じることにした。ロビーに入って彼から指定された部屋に入ると、部屋は普通のホテルと変わらない感じだった。風呂やトイレが完備されていてしかも清潔。またランプらしきものにはスイッチがついていて、どうやら電気もあるようだ。外国人なのにこんなに優遇してもらっていいのかな。そんなことを考えながら風呂から上がり、ベッドに寝転んだ。一日中カルナトを歩いた疲れもあって、考え事をする間もなく私はぐっすり寝た。
なんか外が騒がしい。ドアを叩く音がする。誰なの…?もしかして呼ばれてる?
「ユイカさーん、起きていますか?」
レクターだ。声で分かった。朝からどうしたんだろう。流石にここに泊めっぱなしにするのはまずいからとりあえず迎えにきてくれたのかな。
「はーい、今起きました」
「おはようございます。急ではありますが主席があなたとお会いになりたいそうです。今すぐ来ていただけませんか」
「え?」
全く身に覚えがない。パレードに出てたあの人が私に用があるって何があったの?




