29:カルナト共和国
「それにしても広いなあ」
下手に侵入すると流石に怪しまれる可能性があるので、私は高度を上げてしばらく街の上空を飛び続けて様子を伺うことにした。地上を見下ろすと、整備された道路が街へと続いているのを見つけた他、自然と街の境目には侵入者を上空からでも見えるほど高く厚い壁が建付けられている。また、壁同士の隙間に建物がポツンと建っていた。おまけに車のような乗り物もある。
もしかして、ここは国境検問所なの?だとしたらあそこを通らないとここには入れないんだろうね。絶対めんどくさいやつじゃん。何聞かれるか分からないし。
そんなことを考えながら飛び続けていると、街の一角に森を見つけたのでそこに降り立つことにした。森に降りてすぐ周囲を確認したが幸い人影は見当たらなかった。それにしても空の警備は全然ガバガバじゃない。飛行機も見当たらなかったし空港が無い国なのかな?
森を抜けてしばらく歩いたところで小規模な農村に辿り着いた。周囲には畑が広がっていて、中農作業に勤しんでいる人もいれば、子供たちは集落を走り回って遊んでいる。そののどかな光景は日本の原風景を彷彿とさせ、私は少し懐かしい気持ちになった。
ちょうど近くを住民らしき男が歩いている。この人にここがどこか訊いてみよう。
「あのー、すみません。ここはどこですか?」
「…え?どこってここはカルナトだよ。知らないのかい?」
「…カルナト?」
ちょっと待って。カルナトって名前の国初めて聞いた。もしかして私が知らないだけなの?
でもなんで言葉は通じるんだろう…?
「お嬢さん、思ったけどここじゃ見ない格好だね。どこから来たの?」
「…日本から来ました」
「ニ、ニホン?」
「はい、本当に日本から来ましたしそこが出身なんですけど…」
「いやー、その国は初めて聞いたなあ」
これどういう状況なの?言葉は通じてるのに日本という国の存在を知らないなんて全然分からないんだけど!?
「ニホンってところはどんな場所なのか教えてくれないか?」
今度は逆に向こうから聞かれた。どうしよう……とりあえず正直に説明するしかないよね…
「ええっと、地球にある島国です」
「チキュウ?また知らない場所が出てきたなあ…」
「……」
男の反応に思わず私は言葉を失った。日本を知らないのはギリ理解できるけど地球すら知らないって本当にどういうこと?
てかここ地球じゃないの?…でも空は青くて雲もあるし陽の光も差してるから絶対地球のどこかのはずでしょ。マジで何が起きてるのか分からなくなってきた。
「俺、このあと畑仕事があるんだ。そろそろ行ってもいいかな?」
「あ、どうぞ。色々と申し訳ないです」
男は別にいいよとだけ言って、畑の中へと去ってしまった。
ああどうしよう。これだと別の人に聞いたところでさっきみたいな反応されて終わりだよね。とりあえず、あそこで休むか。
私は農村の片隅にある建物の日陰でしばらく休むことにした。
農村の人々にとって唯花はかなり目を引く存在だった。唯花は、人々が自分の存在を不思議がっているところまでは頭が回っていなかった。
「あの女の子は何者なの?」
「さあ、なんでここにいるのか俺も分からん」
「でもあの人、困ってそうな顔してるよ」
「とりあえず、”当局”に連絡してみよう。あの方たちならなんとかしてくれるだろう」
うーん、これからどうしようか。このカルナト?って場所で手がかりが見つからなかったらさっさと抜けて別の街に行くしかないのかなあ。ワンチャン明とかとここで居合わせたりしないかなー
…なんか足音が聞こえる。まあ、農村の人だろうから話しかけても意味なさそうだしスルーでいいか。
「すみません」
「はい!?」
まさか声を掛けられるとは思わなかった。慌てて振り返ると、目の前には丁寧に仕立てられた軍服を着た青年がいた。この辺りに住んでいそうな人間ではないのは雰囲気で分かる。
見るからに威圧的だしなんか悪い予感がする。やばい、何聞かれるんだろう…
「カルナト共和国秩序維持省の者です。あなたがお困りになっていると地域住民からの連絡を受けました。事情をお伺いさせてよろしいでしょうか」
「は、はい」
秩序維持省!?なんか聞いたことない単語出てきたんだけど……まあでも、この人ならある程度は答えてくれそう。ワンチャンに賭けるしかない!
「まずあなたの名前とどこから来たか教えてください」
「名前は唯花って言います。あと、日本って国から来ました。」
「そうですか。…しかし、申し訳ありませんが二ホンという国は私も存じ上げませんね」
やっぱりこの人も知らないか。変な遺跡に吸い込まれて気づいたらここにいたって言ったら頭のおかしい人だと思われかねないから簡単に言えないし。本当に詰んだかも…
だが、その青年はそこで終わらせることはしなかった。
「ユイカさん、あなたが嘘をついていないことは分かりました。とりあえず、あなたを外国人観光客として扱いますのでよろしければ私がこの国を案内しましょうか?」
「え、いいんですか!?ありがとうございます!」
「いえいえ。『誰も取り残さない社会』がカルナトの理念ですから。さあ、私に着いてきてください」
「はい!」
「申し遅れました。私はレクターと言います。しばらくの間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
案内してくれるなんてこの人めっちゃ親切じゃん!誰も取り残さない社会ってなんかパラダイスみたい。そう思いながらレクターについていった。その先には馬車のような自動車が停められていた。レクターは助手席に私を乗せると、街の中心まで車を走らせていった。
街を覆う外壁にはカルナト共和国の国旗らしき赤色を背景とした紋様が等間隔で描かれている。いったいどんな国なんだろう…




