2:光継者
絶滅:特定の周期で天界因子が引き起こす現象。これにより自然災害の発生の他に覚醒者の大部分は命が尽きてしまうほど暴走してしまい、いくつかの都市が壊滅している。また時空の歪みも発生し、その歪みからまた新しく天界因子が流入してしまい不特定多数の覚醒者が発生してしまうという悪循環を招いた。
いざ行ってみれば明らかに異様だった。海上の空は見たことのない巨大な幾何学模様で覆われている。これは天変地異ではなく超常的なものによって引き起こされていることは間違いない。周囲には多くの人々が集まり混乱しきっている。
「何あれ!?」
「すげー!絶対バズるやつだあれ」
「どう見てもやばいだろ。逃げた方がいいんじゃないか」
野次馬の群れに混じりながら空から目を離せないでいた。好奇心が無意識に俺を縛る。しばらくしてその幾何学模様は次第に赤黒くなりますます不気味になっていく。人々のどよめきはさらに大きくなっていった。
「絶対なにか来るって!もう逃げよう!!」
「うわっ、眩しい!」
その時だった。咆哮のような轟音と共に、模様の中心から突然光が放たれる。光が降り注ぐにつれて模様は消えていき、海面に再び目を向けるとそこにはなんと怪獣がいたのだ。その怪獣は恐竜が禍々しく巨大化したような姿でゲームで登場してくるモンスターのようだった。とりわけ不気味なのは全身を模様と同じ赤黒いオーラで覆われ、世間一般の感覚とは違う神々しさを与えられているようだった。そして怪獣は街の方へ向かって歩み始めた。
「みんな逃げろ!マジで死ぬぞ!!」
あちこちから悲鳴が聞こえ、人々はパニックに陥り逃げ惑う。そんな状況の中、俺は怪獣から目を離さず逃げられずにいた。恐怖で動けないわけではない。心の底から怒りが湧き上がり、その怒りが逃げることを許さないでいたのだ。こんな化け物にみんな殺されてしまうのか?俺はただ平和に暮らしたかっただけなのに…なぜ急に何もかも奪われなきゃいけないんだよ!ふざけるな!気づけば俺は固く握りしめた拳を怪獣に向けていた。無力なことは分かりきっている。逃げ回って死ぬぐらいなら抵抗して死んだ方がマシだ。
怪獣は徐々にこちらへ向かっていく一方で俺は死を覚悟しながら立ち尽くしていると視界が急に真っ白になっていく。まずい、このままだと間違いなく死んじまう。でも体に力が入らないし意識がぼんやりしてきた。極限状態で心臓が止まったわけではない。肉体と精神が強制的に引き剝がされるような超然的で、抗えない感覚に包まれた。周囲の群衆の叫び声や逃げ惑う足音が遠く聞こえる。倒れる直前に目が捉えたものは踏み荒らされた砂浜の歪な模様だった。
(…俺は、死んだのか?……ん?誰かいる…)
意識が戻ったのと同時に視界が復活すると目の前にはなぜか少年がいた。しかしその少年は眠っているような表情をしているうえ、クリスタルのような黒い岩石で下半身が埋まっており封印されているようだった。誰だと声をかけても反応がない。そして周囲は白い空間に包まれており天征と少年以外には他に何もないのだ。
近づいてみると、その少年から煌めく結晶が飛び出して天征のもとへゆっくり向かっていく。そして結晶は天征の体の中へと入りこんでいった。再び視界が真っ白になり何も見えなくなっていくのだが先程とは明確な違いがあった。結晶が入り切った直後から自身の感情に呼応するように全身に力がみなぎってゆく。分離させられた精神が肉体に還り、意識が現実に戻りつつあるのは感覚で分かる。怒りの次にやってきた感情は希望と闘志が混ざった衝動だった。
(戦えってことか…一か八かだ。やるしかねえ!)
「あいつ絶対死んだ…」
「待って、あの人うっすら光ってない?」
時を同じくして怪獣は既に海岸に上陸し、未だに倒れている天征に目と鼻の先まで迫っている。人々は彼は踏みつぶされてまもなく死んでしまうのだろうと呆然として眺めている。怪獣が天征を踏みつぶそうとした瞬間……天征はふっと立ち上がり全身が白銀に光り輝いた。それだけでは終わらず自身を踏もうとしてきた怪獣の足を光のような速さで殴り返したのだ。一瞬の出来事だった。正体が分からない力に操られるように怪獣がひるんだタイミングを逃さず反撃を続ける。そして天征は高く上空に舞い上がり拳に怪獣を捉える。
「終わらせてやる!こいつは俺がぶっ潰してやる!!」
叫ぶと同時に光の勢いが増し、怪獣に向かって隕石のように突っ込んでいくその姿は白銀の戦士のようだった。天征が全身全霊で殴りつけた瞬間、轟音が鳴り響くと共に眩い白銀の光を放ちながら怪獣は爆発し、塵になって消滅した。その周囲を覆っていたオーラも光となって消えていった。天征は見事に怪獣を撃破したのだった。見ていた人々は予想外すぎる結末に驚きを隠せない。
「あいつ、倒したぞ!にしても何だったんだあれ!?」
「私たち、助かったの?」
「あれ、でもさっきの人がいない…」
「もしかしてあの化け物と一緒に消えちゃった?」
天征にとって事態はまだ終わっていない。怪獣を撃破した衝撃で地面に穴が開いてしまい、その穴は底が見えずシンクホールの如く巨大だった。目覚めた力に慣れきっていないためかまた意識を失った天征はそのまま穴の底へ落ちてしまったのだ。さらに光が消えた頃にはその穴は塞がり元に戻っていた。人々は天征が立ち上がった時点で離れた場所から見ていたので穴が開いたことには気づかず、彼が怪獣と共に散ってしまったのだろうかと思われた。
「あれ、ここは…」
どれくらいの時間が経っていたのだろうか、深い地の底で天征はやっと目が覚めた。地面に落ちるまで力が消滅していなかったおかげか幸いにも無傷だった。しかし力に目覚めた影響か、髪の毛は黒髪から怪獣との戦闘の際に纏っていた光のような銀色に変わってしまっていて、天征はまだその変化に気づいていない。とにかく今の状況を把握することに脳の処理が追いついていなかった。
なんか暗くね?怪獣を殴って倒したと思ったら、急に眩しくなってまた意識を失った。…もしかしてさっきの衝撃で俺は地底に落ちたってこと!?やばいやばい、これ帰れるのか?
慌てて立ち上がって周囲を見回してみると神秘的な光景が広がっていた。白く煌めく光がベールのようにうっすらと漂い、透き通った水がその光を反射し輝いていて綺麗だった。俺は地上に戻らなければと思う気持ちを忘れて日本の地底にはこんな幻想的なものがあったんだと思いながら、地底を彷徨っていく。しかしこの雰囲気はどこか見覚えがある。これってさっきあいつと会ったあの空間だよな…?
怪獣に反撃する前にあの謎の少年と出会った場所の雰囲気とよく似ている。しばらく進んでいくと黒光りしているクリスタルの塊を見つけた。まさかと思い、クリスタルの元へ向かってみるとそこにはあの少年が封印されているように佇んでいるのだった。その少年は眠りながら微かな煌めきを放っている。俺の違和感は確信に変わった。
俺に結晶を与えて力に目覚めさせて怪獣を倒せたのはこの男の仕業なのだろう。というかここにずっといたはずなのにどうやって俺の意識を切り離してまで結晶を飛ばしたんだ?そもそもなんでこんな地下深くで眠っているんだ?しかもこんな水晶は今まで見たことがない。こいつが起きて聞いてみたら何か分かるだろう。逆に起こしたら水晶に刺されて殺されるとかいう即死トラップじゃないよな?いや、わざわざ結晶を俺に飛ばしてきたんだから流石にそれはないと信じたい。
他に当てがなくどうしようもなかった俺は少年を起こしたらどうなってしまうのかと躊躇いながらもここから脱出できる手がかりを得られるかもしれないという淡い期待に全てを賭けて少年へと近づいていった。




