第4話:暗い微睡の向こう側
ユタが言ってる神様ってのはこいつの故郷の保護者、あるいは君主なのだろうか。どっちにしろ神様と言ってる辺りユタは天使のような存在なのかもしれない。天使だと仮定すれば過去にユタの故郷が滅亡して俺たちがさっきまでいた日本の地底に落ちてしまい、今日までずっと眠っていたことになる。本当にユタは天使なのかもう一度聞いてみよう。
「なあユタ。もう一回聞くんだけど、ユタはどこからここにやってきたんだ?」
「空よりも高い場所にいた。あそこ、楽しかった気がする…」
「空の上か。ところでユタって人間なのか?」
「いや、僕は人間じゃない…」
「…だよな……じゃあ、何なんだ?」
「怖がらないで。僕は天使だったんだ」
「ユタが住んでた場所は天界で合ってるのか?」
「うん。」
「天界や神様のことってどこまで覚えてる?」
「……みんな楽しく暮らしてた。神様はとても優しかった。でも突然みんな消えたと思ったら僕はそこから記憶を失って、独りぼっちになった。目が覚めたら目の前にテンセイがいたんだ」
俺の予想は的中した。俺に結晶を与えて覚醒者にしたうえ、一瞬で地上にテレポートできる力を使えるのだから明らかに人間ではないことは無意識に理解していた。しかし、奇妙な点はそのような力を持っているのにも関わらず故郷での記憶がとても曖昧になっていることだ。
「みんないなくなっちゃったし天界にも帰れない。どうしよう」
「…じゃあ、帰れるまで俺の家で過ごしなよ」
「ほんと!?ありがとう。でもいいの?」
「お前のおかげで助かったんだ。地下で二人ぼっちで終わるのと比べたら全然大丈夫さ」
故郷に帰れなくなった(天界自体が何らかの原因で消えてしまった?)ユタをそのままにして帰るわけにはいかない。助けてもらっておいて置き去りにする恩知らずのような真似をすることはできなかった。幸い俺は一人暮らしだからユタを家に住ませてもしばらく問題ないだろう。そういえば地上に戻れたことしか頭になかったな。ええっと、神社があるな。ああ、あそこか。思ったより家から近いところに戻れて良かったぜ。
天征たちが戻ってきた場所は怪獣と戦った海岸とは真逆の方向に位置する山の麓にある神社の近くだった。人気もなく、天征のアパートまで歩いて数分かかるぐらいの距離であったので二人は問題なく家に着くことができた。
「ユタ、着いたぞ。ここが俺の家」
「お邪魔しまーす」
「ベッドの上とか好きに座っていいから。服持ってくるわ」
「うん」
ユタの服装は明らかに周囲の注目を引くような異様さだったから着替えさせなければと天征は家に着いたら自分が持っている服をユタに着せようと思っていた。
(まあこんなのでいいか…今更だけどあいつが今着てる服の素材何なんだろう)
ユタがベッドで座ってくつろいでいる間、俺は適当に服を選んだ。そしてユタの前に服を置いた。
「持ってきた。今ユタが着てる服は結構目立つから面倒なことになりそうな気がするんだよな。だからこれに着替えてほしい」
「分かった」
着替え終わったユタはグレーのジーンズと黒のパーカー姿で、見た目はどこにでもいそうな少年の格好になった。これで周囲から注目される心配はない。
「僕、どう見えてる?」
「普通に似合ってる。むしろ全く違和感ない」
「良かった…」
「てか腹減ったなあ。家出てから何も食べてないんだよな。ユタも何か食う?」
「僕は大丈夫。天使は食べなくても生きていけるんだ」
「え?じゃあどうやって生きてきたの?」
「そこは僕もどうしてか分からないんだ」
すげえな、何も食わなくても生きていけるのかよこいつ。どういう生態なんだ本当に。見た目はほぼ人間だけど体の構造とか全く違うんだろうか。それにしてもこいつらの体って結構便利だな。とりあえず昨日の残りあるからそれ食べよ。
天征はユタをベッドに置いてご飯を食べにダイニングへと向かった。一人残されたユタは封印から目覚めてすぐ力を使ったのだろうか、体がすぐに慣れず次第に眠気が彼を襲い始めた。
(なんだか眠いなあ。それにテンセイの部屋、どこか落ち着く)
食事を終えてベッドに戻ると、既にユタはぐっすり眠っている。飯は食わないのに寝たりはするんだな。初めて知った。てか洞窟で会ったときはずっと寝てたはず?でも起こすわけにはいかないな。こいつが起きるまでじっとしとくのも暇だしまた外出しに行こうかな。勝手に家から出そうな感じはしないし留守番はこいつに任せておこう。
天征は朝と同じように特にあてもなくまた外へ歩いていくのだった。既に外は日が沈みかけており薄暗くなっていた。人気もあの時よりは少なくなっており散歩にはちょうどいい時間帯だ。しかし、天征には気がかりなことがあった。自身が怪獣と戦った際に撮影された動画がSNSで拡散され、ニュースの見出しになっていたのだ。「海上に出現した怪獣、光を纏った少年と共に消滅」とトレンドになり様々な憶測が飛び交っている。「神様が助けてくれた」、「直前まで倒れていたから人間だったはず」、「遺体が見つからない」などと言いたい放題言われていることを目の当たりにした天征は頭を抱えた。
(全部違うってば。これはめんどくさいことになっちまった…もし俺だってバレたらどうなるか分かんねえ。研究機関に捕まって実験対象にされたりしたらどうしよう…)
俺は魔が差してしまい現場に向かってみると案の定人だかりができていた。なるべく人の目を避けるため少し離れた場所から見てみると、海岸には立ち入り禁止のフェンスが敷かれており警察が警備している奥には研究機関の職員であろう数名の人物が調査している。まずいなあ、誰も死ななかったのは良かったけどこれじゃ逃亡生活している気分だ。思いっきり動画に映ってたし身バレも時間の問題かもしれん。しばらく様子を伺っていると一人の人物に意識が向いた。他の職員は白衣を着ていていかにも研究機関の人間っぽい格好をしているがあいつだけは黄緑と黒を基調としたカジュアルな服装をしており明らかに浮いている。しかも何やら他の連中に指図しているように見えるからおそらくこいつはリーダー格なのだろう。あ、やばい!今、明らかに目が合ったぞ!?現場周辺は人も結構いるし俺がいる場所は割と距離があるからはっきり見えることはないはずだ。なのにその男は俺がいる方向を思いっきり見つめている。さすがに偶然だよな?
一点を見つめ続けているその男に、同僚であろう小太りでメガネをかけた研究員の男が彼のもとへ寄っていき話しかけてきた。リーダーの男は考え事をしていたと言ったのだろうか、同僚に笑いかけると調査に戻っていった。
無意識に悪い予感を感じた天征はすぐに家に戻ろうと来た道を引き返すことを決めた。しかし先程通ってきた道は野次馬が行き交っており、日没だから顔が見えにくいのが救いだが到底安心して通れそうにない。遠回りになってしまうが仕方なく通りから外れてしばらく進んだところにある森を抜けて帰ることにした。
森に差し掛かってしばらくすると鬱蒼とはしているものの、とある異変が起こっていた。虫や鳥の鳴き声が一切しないのだ。まるで森自体が一つの廃墟のような不気味な静けさで包まれており、霊的な力によって支配されているようだ。見慣れている森が普段と比べて明らかに何かおかしいと天征の心は次第に不安に駆られていく。そんな天征を見定めるかのように、異変の元凶は森の上を漂いながら彼の様子をずっと伺っていた。
「ふふ、見つけた。なんか髪の毛の色変だけどあれが海岸に現れた覚醒者で間違いなさそうね。どっちにしろ化け物は倒さなきゃ」




