24:放浪からの捕囚
唯花たちと再び会うまで絶対諦めずにみんなを必ず探し出そうとユタと約束し、拳を下ろした。そこだけは良かった。
俺が一人じゃないのはまだ救いだったが依然として心細い。今のところこの街に残っているのは動かなくなった遺跡と、秘美希の命脈権能で残された植物くらいだ。みんなはどこに飛ばされたのかも分からない。何も手がかりがないので取るべき行動目的が具体化できない。
「お前の言う通り、このまま諦めてもどうしようもないな。でも、これからどうしたらいいか全く分からねえ。ユタは何か考えてる?」
「うーん…ごめん。僕も何も考えてなかった」
ユタは少し考えたのちにそう答えた。こいつも当てがなかったのかよ…。
「とりあえず、人を探すか…」
それしか思いつかなかった。住んでた街から逃げて数日経っているので俺たちは行方不明扱いになっているかもしれない。だが、俺の場合はまだ夏休み中だし一人暮らしだからまだ行方不明にはなっていないかもしれない。それ以前に母親は物心ついた時にはおらず、父親に至っては俺が小学生になった頃には死んだらしい。ここまで生きてこられたのも行政からの生活支援制度のおかげだ。行政に連絡しようかと一瞬考えた。だが、それをすれば俺が覚醒者であることまで知られる可能性がある。
……駄目だ。
その案は頭の中で即座に却下した。
「そうだね。人がいる場所なら、何か分かるかもしれない」
ユタも二つ返事で応じてくれた。
「ここにいても何も分からないし、とにかく人のいる場所へ行こう。あ、そうだ。ちょっとその前に…」
「…?」
地下街から出た後、俺たちは人を探しに行く前に、ショッピングモールに行って食料や水、日用品やテントを拾い集めた。また、大きめのリュックが綺麗な状態で残っていたからそれに入れて背負った。我ながら見た目はバックパッカーみたいでそこまで違和感がない。
スマホで地図アプリを開いて航空写真を見てみると、現在地から最寄りの市街地まで大体30㎞ぐらい離れている。当然ながらここは立入禁止区域なのでバスも電車もやってこない。つまり歩いていくしかない。気が遠くなりそうだ。流石に丸一日かけて歩き切るのは難しい。テントを拾って正解だった。
「今日中に30㎞は無理だ…。とりあえず今日は行けるところまで行こう」
そうして俺たちはこの街を出発した。
地図を見たら目的地まで鉄道が走っていたので線路に沿って歩き続けた。日が沈んだ頃には足が疲れてきた。覚醒者の体でなければすぐ疲れてもっと時間がかかっていると思う。とりあえず初日で10km近く歩き通せたのは悪くないはずだ。
周囲には使われなくなった線路と道路しかなく、どこで休もうか場所を探していると一軒家らしき建物が視界に入った。人がいるならあいつらが行方不明かどうか聞き出してみよう。怪しまれないことを祈る。
「あのー、すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
インターホンを押して話しかけても反応がない。どうやら空き家になっているようだ。恐る恐る玄関を引いてみると、鍵がかかっていないようで木が軋む音と共に扉が開いた。
「…仕方ない。今日はここで休もう」
「うん」
ショッピングモールで拾った食べ物は賞味期限の切れたスナック菓子やキャンディーばかりだった。覚醒者だから簡単には体調を崩さないだろう。どちらにしろ食べないよりかはマシだ。そう思いながら食事を取り寝室だったであろう部屋で眠りについた。
そして2日目。唯花たちが消えた絶望と歩き続けた疲れのせいか、起きた時には昼の1時を過ぎていた。
ああクソ、絶起した。
俺が起きた時には既に起きていたユタはどこか不安げに俺を見つめていた。
「テンセイ、行かないの?ずっと寝てたけど」
「悪い悪い。ちょっと疲れてたから寝すぎた。じゃあ行こう」
しばらく歩くと辺りに田んぼが広がった。その一角には農家のおじさんが農作業をしている。
「あの人に聞いてみよう」
そうして俺たちは手がかりを掴めるかもしれない僅かな希望を抱いて農家に尋ねることにした。
「すみません、お聞きしたいことがあるのですが少しよろしいでしょうか?」
「ん、どうした?」
「最近行方不明の事件ってありませんでしたか?」
「いやー、知らないなあ」
「わ、分かりました。ありがとうございます…」
見事に空振ってしまった。そりゃそうなるか…。あの街は本来立ち入ることすらできないし遺跡の存在すら俺たちしか知らないだろう。下手に尋ねると怪しまれかねない。
割り切って歩き続けると公園を見つけた。幸いなことに誰もいないし、ちょうど腹が減ってきたから食事を取ることにした。まだ食料は数日分残っている。
「ユタも何か食べる?」
「僕は天使だからいらないよ」
ユタは食事を必要としないのを忘れていた。それならこいつはどうやって生きてるんだろう。
「そうだったな。だったらお前、ずっと食べてないよな。」
「うん」
「なんか…羨ましいよ」
食べ終わった後、ワンチャン繋がらないか連絡先を交換している唯花と煉に何度も交互に電話をかけた。しかし、2人とも出なかった。
「やっぱり駄目か…。」
その頃、天征たちを公園の向こう側から監視する存在が潜んでいた。2人はその存在に気づく余裕などなかった。
車内にはたくさんの観測装置や計器が忙しなく稼働している。
「対象二名を確認。遺跡の反応と一致しています。アクションを開始しますか?」
「いやまだだ。今やったら反撃される可能性が高い。もう少し様子を見よう」
「了解」
俺たちは気を取り直して街まで歩き続けていくと、商店街っぽい場所に着いた。街までもうすぐだ。
「…え?」
希望を抱いたのも束の間、その商店街はシャッター街と化しており人の気配など微塵もなく荒廃していた。そう気づいた瞬間、歩いた疲れが一気にこみ上げてきた。
「マジかよ…」
思わず地に膝がついてしまった。
「今日はもう休もう」
ユタも状況を察して声をかけた。
「…でも、あいつらはどこかで助けを待ってるかもしれない。それにお前と約束した以上、諦める真似はしたくないんだ」
「休むだけだよ。諦めるわけじゃない」
俺は返事をしないまま立ち上がった。しかし、少しだけ歩くと頭の中が真っ白になった。
「……俺、何すればいいんだ?」
諦めたらどうしようもないのは分かっている。だから必死にみんなを探そうと歩き続けた。でも、探したところで全く手がかりがない現実に直面し、精神的に限界を迎えていた。
このまま俺は野垂れ死んでしまうかもしれない…。
そう思った矢先、後ろから車の音がした。振り向くと車は一台だけでなく複数台いた。車から十数人ほどの人間が俺たちを包囲するように迫っていく。
「なんだこいつら…」
「テンセイ、あの人たちは誰?…僕たち、どうなるの?」
警戒しつつも今の俺はまともに戦う気力などなかった。ユタも何が起きたのか理解できていないようだった。
しばらくして俺たちの前に一人の男が近づいてきた。てかこの人、妙に見覚えがある。
そうだ、思い出した。俺が怪獣を倒したあの海岸で調査をしていた研究機関のあいつだ!服装があの時と全く同じだから分かった。
でも、どうして俺たちの位置が分かった?
「驚かせて悪かったな。お前らと戦うつもりは全くないから安心してくれ」
その男はそう言って俺たちを安心させようと語りかけた。だがその言動とは裏腹に、見たこともない科学的で近未来的なエンジンのような物体を両肩に装備しており、見るからに戦闘態勢で隙がないように見えた。
「君が海岸で出現したあの覚醒者で間違いないよな?」
「…は、はい。…でも、なぜそれを」
「お前らは何も知らないだろう。詳しいことは後で全部教えるからとりあえずこっちに来てくれ」
俺たち、知らぬ間に追われていたのか…?




