22:次元の彼方
遺跡までの案内は煉が買って出てくれた。すぐ後ろに姫菜たちがついて行く。あいつらは4人でなにかと喋っているがなぜか会話が全く頭に入ってこない。ここ数日で色々起き過ぎて無意識に頭が混乱しているからだろうか。怪獣を倒したと思ったら地底で天使と出会い、夜の森で死神に殺されかけた次は狼と交差点で暴れ、死神が救出した行方不明者とそいつが連れてきた繁華街の元住人に居候されかけた。しまいにはそのみんなで深夜ドライブをかましてゴーストタウンへ向かい、そこで出会った唯一の生存者の少年に変に気に入られた。しまいには、地下街でこの世ならざるものを見つけてしまったのだ。何の因果でこうなったのか未だに整理というか理解がつかない。
ところで俺はというと先頭の4人と少し距離を空けてユタ・秘美希と共に歩いている。2人とも相変わらずシリアスな表情をしていた。
「本当に行くんだね…。なんだか後戻りできない気がする」
秘美希は不安を隠しきれていないようだ。俺は何も答えられなかった。というか、かける言葉がすぐに思いつかなかった。
「…遠ざけているままだと何も変わらない。あそこに行けば、僕の記憶が蘇るかもしれない」
少しの沈黙の後、ユタが意味深な返答をした。ユタの瞳を覗くと決意が固まっているように見えた。
「本当のことを言うと、呼ばれているような感じがするんだ。ここに来た時からずっとね…」
付け加えるようにそう言うと夜空に浮かぶ満月を見つめた。街に降り注ぐ月光はどこか青白く、無視しがたい違和感を放っていた。やはりこの街を襲った原因はあの遺跡なのだろうか…
そしてついに地下街への入り口となる階段へとたどり着いてしまった。
「へぇー、この先に天征たちが見た遺跡ってのがあるんだ。早く見てみたいなー」
「なんか雰囲気違うな。秘美希が行かなかったってのも納得するぜ」
「流石に私も一人じゃ行けないかも。エレベーター乗ったら飛ばされたのもあるし…」
事情を知らない三人は三者三様の反応を見せた。俺たちは慎重な足取りで階段を下りていった。
「うわぁ、雰囲気すっご。心霊スポットみたい」
「肝試ししてるわけじゃねーぞ姫菜。てか地下なのに明るいな。電気ついてるけど煉、お前が点けたのか?」
「ちげーよ明。なんかさっき来た時からずっと点いてる」
「なんだそりゃ。やっぱこの場所色々とおかしいな」
そういえば煉と2人で行った時は照明は機能しておらず少し薄暗かった。なんで今は点いてるんだ?この地下街が俺たちを誘導しているようで2倍も気味悪く感じられる。
「天征君、遺跡ってどこにあるの?」
「非常口の奥の方にあった。うっすら光ってるからすぐ分かるはず」
秘美希に場所を聞かれそう答えた矢先、煉があの非常口を見つけた。
「あれが昨日見つけたやつだ」
相変わらず青白い光が漏れ出している。それを見た姫菜は疑問の表情を浮かべていた。
「なんか光出てない?」
「ああ、昨日俺らが来た時からずっとこれなんだよな。えぐくね姫菜?」
非常口の扉は俺たちが開けたままで、細い通路が青白く照らされているのが一目で確認できた。みんなで進んでしばらくすると秘美希の表情がさっきと比べてさらに暗くなっているようだった。
「やっぱり怖いのか?」
「それもあるんだけどこの光、10年前のあれと全く同じ色だ…」
「じゃあそれって…」
秘美希は衝撃的な事実をカミングアウトしてきた。やっぱり絶滅とあの遺跡は関係しているじゃないか!ということはここでまた絶滅が起きるのか…?
突然姫菜が立ち止まり指を差して叫んだ。
「あ!あれだよね!めっちゃでかくない!?」
「近づきすぎない方がいいぜ。吸い込まれるかもしれねえぞ!」
明もあまりの衝撃に驚きを隠しきれない。
いよいよ遺跡の前までやってきた。あまりの異様さにみな言葉を失った。心なしか遺跡が放っている光の量が増している気がする。いや、間違いなく昨日の時より脈動が激しい。俺たちはそれを前にして立ち尽くしていた。だが、しばらく経って足音が空間に響いた。ユタが吸い寄せられるように遺跡へと向かっていく。
「待てユタ!どうなるか分からない!戻れ!」
俺の必死の警告に全く耳を貸さないまま歩みを進めていく様はまるで何かに操られているようだ。
「神様、ここにいるのですか…?」
「はあ?ユタお前なに言って…っておい!やめとけ!」
さらに全く理解がつかないことを遺跡に向かって語り掛け、光を発しているそのポータルに触れた。
触れた直後、空間の音が消えたと同時にポータルから光が消えた。呆気に取られていると耳鳴りのようなキーンという高音が脳内に直接鳴り響く。立っていられるのがやっとのレベルだ。遺跡に触れたユタは頭を抱えて倒れ込んでいる。
しまいには空間そのものが切り刻まれていく。地下街を中心にこの世界が壊れていくような感覚に襲われた。何が起きた!?
「まずい!あの日と同じだ!」
秘美希の一言で俺たちは絶滅にちょうど巻き込まれていることに気づいた。ユタが遺跡に触れたことで絶滅のトリガーが引かれてしまったのだ。
「逃げるぞ!!」
明がそう叫んだが事態はさらに悪化していた。台風の時のような轟音が鳴り響くに加え、ついさっきまで神経が把握していた天井と床の概念が曖昧になり、空が足元に広がっているような、地に足がついているのか浮いているのか分からず上下感覚が消失していた。当然みんなはパニック状態になり逃げ惑っていた。
振り返ってみると光が消えたポータルから、まるで空間を引き裂いたかのような黒いヒビが生み出されていた。しかも、明と出会った交差点で出現したあのヒビによく似ている。そのヒビの向こうには見たこともない複数の風景のような模様が万華鏡のように映し出されていて、何もかもが異常だった。
「なにこれ!?助けてー!!」
「っぐ、ああああ!!」
姫菜と明がヒビに吸い込まれていった。
「10年前と同じだ!だからみんないなくなっちゃたんだ!」
秘美希は命脈権能で草を床に固定して粘っていた。しかし、その植物が張り付いていた床も消失してしまい、明たちと同じ運命をたどってしまうのは秒読みだった。
「助けて天征君!また一人になるなんて嫌だ!!」
「秘美希!手離すなよ!」
俺は必死に叫びながら秘美希の手を掴もうとした。しかし、指先が触れ合う直前で空間がブレて成す術なく植物ごと吸い込まれてしまった。
唯花と煉は遺跡の一部に掴まり持ちこたえようとしていた。煉は命脈権能を発現させ電気を帯び、その速度を活かして一気に抜け出そうとした。
「天征!なんでお前とユタだけ吸い込まれねえんだよ!!それなら助けてくれ!また閉じ込められるなんてもうごめんだぜ!」
煉はスピードを持ってしても抜け出すことはできず、叫んだままヒビの奥に呑まれてしまった。残された仲間は唯花だけになった。こいつだけでも絶対助けたい!俺の周りに白銀の光が立ち込める。死に物狂いで唯花に手を伸ばし、なんとか彼女の手を掴むことができた。
「お前だけでも助けるから!」
しかし、刻一刻として次第に彼女の手が離れそうになる。
「もう私だめかも…。」
「唯花ああ!!」
ついに彼女も絶滅の餌食になってしまった。仲間を失った絶望と怒りに包まれた俺はその感情を全て遺跡にぶつけ、ポータルにひしめくヒビを殴り続けた。
こうなってしまうなら最初から言わなければ良かった!みんなで行った結果、みんなは飛ばされて俺とユタだけ取り残されるなんてあんまりじゃないか!!
どれだけ殴っていただろうか。冷静さが戻ってきたところで周囲は静かになっていた。目を開けてみると、ポータルは消滅しており、遺跡を構成していた建材は粉々になって砕け散っていた。
「止まったのか…?」
何もできなかった俺は心が空虚になり、両膝が地に着いた。纏っていた白銀の光が霧消していく。
絶滅が過ぎ去った地下街に残されたのは2人の少年だった。一人は頭を抱えて苦しみ、もう一人は絶望に打ちひしがれていた。
書き始めてから半年以上経ち、ここに来て第2章がやっと終幕しましたね。投稿ペースが不安定なのは承知ですが、それでも読んでくださる方々に感謝の気持ちを忘れることなくこれからも書き続けていきたいと思います!
閑話休題、22話のラストで遺跡の向こう側に飛ばされた唯花たちはどうなってしまうのか。取り残されたユタと天征はこれからどうなってしまうのか。
この時点で本作は完結まで10%進んだところぐらいですかね。第3章は今まで以上に面白い展開が待ち構えています!ですが、ここから読み続けていただけるのだろうかと内心不安を感じています。もし、面白い・次も読みたいと思っていただけたなら、感想やブクマなどで応援していただきたいです!モチベになるので大変喜びます。
カクヨム版の方も引き続きよろしくお願いします!




