21:共鳴する禁足地
遺跡は絶えることなく光を放ち続けている。これ以上近づくと確実に悪いことが起きる予感がする。
『…この街に来てからずっと、何か感じるんだ』
夜中にユタが発したあの言葉の意味がなんとなく分かった気がする。あの時のあいつはおそらくこの遺跡が放つ波長のようなものに神経が無意識に交信してしまっていたのだろう。
やはりこの街は植物に覆われただけの廃都ではなかった。この遺跡、今のところ光を放っている以外には何もしてこないみたいだけど…
「なあ、もしかして見つけちゃだめなやつ見つけた感じ?」
「そうなのかは分からないけど俺もこういうのが地下街にあるなんて思わなかったよ。煉、とにかくこれ以上近づかない方がいい。早く帰ろう」
「そうだな天征。俺もなんか嫌な予感がしてきた。てか地味に見覚えあるんだよなこれ」
「え?」
「閉じ込められたあの監獄にこれと似たような残骸がずっとあったのを思い出した。あれだけは未だになんの一部なのか分かんねえ」
「じゃあこれってもしや…。秘美希に聞いたら何か分かったりするかも」
「とりま戻ろうぜ。いつ暴走するか分かんねえし何より魚が腐っちまう」
こうして俺たちは逃げるように来た道を辿って地下街を抜けた。地上へと繋がる階段に置いてきたボートと魚の入ったバケツはどちらも健在だった。
水面にボートを浮かべるとすぐに飛び乗り、拠点がある方へ一心不乱に向かっていく。無人のショッピングモールと地下街は独特の気味悪さがあったが、突如として現れた遺跡のインパクトで全て吹き飛んだ。もしあれが暴走したらどうなってしまうのかなど全く見当がつかない未知の恐ろしさもあった。
ただ一つ確かなことは、あの遺跡は少なくとも俺たちが知っているこの世界のものとは思えない。石造りのような外見で機械的な仕組みが見当たらないのに光を発しているからだ。しかし、その断定で片付けようとするとどうしても気になることがある。
あの遺跡はどこからやってきた…?
ショッピングモールを抜けて拠点まで歩きながらあれこれ考えていると煉が先程の件をどうするかと俺に尋ねてきた。煉は明らかに落ち着きが無くなっていた。
「天征。さっきのやつマジでどうするよ?みんなに言うべきだよなあれ」
「え、ああそうだな。念のため伝えといた方がいい」
拠点についた俺たちはなんとかして平静を装って釣った魚の調理をみんなで分担しながらやり過ごした。そして、火を囲みながら食事にありつく。
満月の光が窓から差し込み、空間を程よく照らしていた。
俺と煉は目を合わせると、煉は言えよと言わんばかりに目配せした。俺はあの出来事を語ることにした。固く閉まった口の蓋を重々しく開けるようなシリアスな口調で。
「釣りに行った時、ショッピングモールと繋がってる地下街に見たことない遺跡みたいなやつがあった」
「え?あそこ行ったの?」
「…もしかして、行ったらまずいところだったか?」
「…」
秘美希が真っ先に食いつき、表情が一瞬でシリアスになった。やばい、ワンチャン地雷踏んだかも。あそこは禁足地みたいな場所なのだろうか。他のみんなは当然ながら全く知らない感じだった。
「秘美希はあの場所を知ってるのか?」今度は煉が尋ねた。
「いや、僕もあそこに一度行こうとしたけど何か怖い感じがしてずっと行けてないんだよね」
どうやら秘美希は一度も地下街に立ち入ったことはないようだ。だからあそこにあいつが生やした植物がなかったのだ。10年もここに過ごしているのに行ったことないって相当やばい場所なんじゃないか…
「それで、天征君たちが見つけた遺跡ってのはどんな感じだったの?」
「ずっと光を放ってて今も動いてるようだった。とにかくあれはただの遺跡の残骸じゃない」
「そうなんだ。だとしたら10年前に起きたあれと関係してる気がしてきたよ」
俺もそんな気がする。秘美希は10年間も街に眠ったまま放置していた未知の存在が訪問者である俺たちにいきなり明かされるとは思わなかっただろう。
みんなの様子を見てみると唯花、明、姫菜は状況がいまいち理解できていないのか疑問の表情を浮かべていた。
煉はいつにも増して真剣な表情をしている。深夜ドライブの時とはまるで別人だ。ユタに至っては俺と目が合うと何かを確信したように俯いた。
夕飯を食べ終わってからもしばらく沈黙が続いた。
「ねえ、明日みんなでそこに行ってみない?」
姫菜が意を決したように沈黙を破った。俺たちのシリアスなやりとりが彼女の好奇心を刺激したようだった。
「あたしも思ってたんだけどさ、やっぱりこの街色々おかしいよ。昨日寝てる時に目が覚めて外見たら電気ついてる場所あったからそれのことだと思うんだけど。あたしら以外ここには居ないんだし、煉は寝てたから絶対そういうやつじゃないよね?」そう言って姫菜は窓から指を差した。
「ほらあそこ。なんか光ってるじゃん」
指を差したところを見てみるとあの青白い光がショッピングモールの近くにある地下へと通じる階段から微かに見て取れる。秘美希と散歩した時はこんな光見た覚えないぞ…
「おい姫菜、俺もあそこ行ったけどなんかやばそうだからやめとこうぜ」
「なに言ってんの?秘美希ですら行ったことないんだしみんなで行って確かめた方がよくない?何か発見ありそうだし」
煉の静止を受け止めるまでもなく姫菜は行くべきだと頑なに主張した。そんな彼女もふざけている感じはしなかった。
「行ったところで特にメリットは無いような気がするが…」
「そんなこと言っちゃおしまいでしょ明。この街の真相とか分かったりするかもじゃん」
明も遠回しに考え直させようとするが無意味だった。
「…行ってみよう」
膠着状態の中、ユタが姫菜に賛同した。いつもはボーっとしているユタが急にガチなトーンで喋ったのでかなりインパクトがあり、俺含めみんながユタの顔を見て驚いていた。
「テンセイには言ってたんだけど、この街に来てからずっとなにか感じるんだ。僕の故郷が消えてしまった感覚に近いものを感じるんだ…」
「分かったよ。お前がそう言うなら…」
天使であるユタが言った以上、地下街にあるあの遺跡はユタに共鳴していたことが確かになった。煉は天使の意見を否定することは流石にできないようだった。
「じゃあみんなで行こうか。でもその前に一旦寝よう」
「うん」
明の提案に全員が賛成した後、俺たちは眠りに着いた。
翌朝、俺たちは準備を終えると拠点を後にして地下街へと向かってゆくのだった。空を見上げてみると、まだ満月が映っている。




