20:廃都地下街に眠る聖遺物
散歩の帰り、歩いて行くにつれて日差しが強くなってきた。植物に覆われている環境のため至る所から虫の鳴き声も聞こえてきた。蝉たちは夏の空気に声を乗せ、短い命をひたすらに謳歌している。
「明るくなってきたね。この時間の空ってすごく綺麗だなあ。天征君もそう思うでしょ?」
「ああ、やっぱり夏の朝って爽やかだよな」
先程まで夜更けの雰囲気を纏っていた紺色の空を見上げてみると朝日の光を浴びて白くなっていた。久しぶりに朝の清々しさを実感した気がする。快い気分を味わいながら秘美希の少し後ろを歩いていくとしばらくしてユタたちがいる建物に着いた。一人ぐらいはまだ寝ているかもしれないと思い静かに階段を上がっていった。みんなが寝ている階へ行くと、ユタ・唯花・明の3人は既に起きていた。
「ちょっと、どこ行ってたの天征。メールしたの見てないでしょ」
「ご、ごめん。秘美希と散歩行ってて気づかなかった」
スマホの通知には唯花からの不在着信があった。彼女は俺の不在がとても心配だったようで少しムッとしている。あれ、どうしてか分からんが通知切ってるじゃん。
「とにかく戻ってくれてよかったぜ。こいつ、ついさっきまで『探しに行く』とか言い出して止めてたんだよ。まあお前のことだし大丈夫だとは思ったけど」
明が半ば呆れたように笑いかけた。
「そういえばユタ、あれからどうだった?」
「しばらく外を眺めてみたけど完璧に思い出せなくてしんどくなってさ、天征たちが散歩に行ってしばらくして結局寝たよ」
ユタは深夜に漂わせていたあの神妙な雰囲気の残滓がまだ残っているものの、いつもの話しやすい感じに戻っていた。一方で煉と姫菜の方はというと、余裕で爆睡中だ。オールして遊ぶから疲れが取れきっていないんだろう。正直思うが18でこれは予後が悪い。こいつら大学行ったら毎日絶起する未来しか見えない。
「おい起きろ」
「うぐっ…なにぃ」
「うぅん、やだ…」
俺は絶起コンビを叩き起こした。2人は最初は唸りながら抵抗したが渋々起きた。
「ふふっ、僕が作ったベッドの寝心地そんなに良かった?」
「まだ寝たいのに…」
秘美希は自分が作ったベッドでみんながぐっすり眠れたことに対して喜んでいるようだったが、姫菜はそれに返事するどころか我儘を言った。まずい、こいつら二度寝する気だ。
「いつまで寝るつもりなんだよ。これからどうするか考えなきゃいけねえんだからさっさと起きろよ」
明が苛立ちながら催促すると2人はやっと立ち上がった。
「腹減った…」
「うん、ちょっと待ってね煉」
煉の空腹に応えるため秘美希は自身の命脈権能で様々な果物を人数分生成した。
「みんな、フルーツしかない朝ごはんだけどせっかくだから食べて」
相変わらずのクオリティだ。散歩に行って爽やかな気分になっているからか2倍に美味しく感じる。他のみんなも絶賛している。
「ありがとう!普通に美味い」
「喜んでくれて良かった」
朝食を終えると煉が何か言いたそうな顔をしている。
「秘美希のおかげで食べ物には困らないけどフルーツばっかだとなあ。肉が食いてえ」
確かに煉の言う通りだ。この生活が続くといくら覚醒者の体だとはいえ栄養失調になりかねない。だが、俺はあることを思い出した。秘美希と散歩した際に寄った廃ショッピングモールの1階は湖のようになっていて魚が泳いでいたんだった。てかあそこはお気に入りの場所ってあいつが言ってたな。
「そういえば魚なら散歩の途中で見たよ。あれ釣ったら食べられるんじゃないか?」
「マジで!?じゃあ早速釣りに行こうぜ!案内してくれよ天征!」
煉は目をキラキラさせて俺を釣りに誘ってきた。相変わらずこいつはノリで生きてるんだな。気楽そうで羨ましいぜ。
「待てよ煉。俺たち以外誰もいないとはいえ流石に単独行動ははぐれるからまずいだろ」
「行ってきなよ天征君。さっき行ってきたばっかりなんだし場所は覚えてるでしょ?僕たちは5人でここにいるよ。ある程度釣れたらここに戻ってきておいでよ。もし迷っちゃっても僕の力ですぐ場所は分かるからそんなに心配しないで」
「…秘美希がそう言うなら分かったよ」
そういえばこの街は秘美希の庭だった。もし迷ったらその辺の植物をいじったら助けに来てくれるだろう。今のところ不安要素はほとんど無くなった。
「魚、俺が焼こうか?」
「ありがとう明。その時はよろしく頼む」
火を操ることができる明が調理役を買って出てくれた。明と秘美希の存在はサバイバルにおいてかなり心強い。
「じゃあ煉、行くぞ」
「よーし、じゃあ行ってくるわお前ら!」
こうして天征は煉を連れて釣りに行った。
「あー楽しみ!どれぐらいいるかなー!」
「おい待て、勝手に先行くな!お前場所知らないだろ!」
下の方からテンションが上がった煉と、そんな彼に振り回される天征の喋り声がしばらく街に響き渡る。一同は思わず笑ってしまった。
そして俺たちはショッピングモールに着いた。立体駐車場の方は水浸しではなかったのでそこから上っていく。
「1階が全部水に沈んでるから2階からじゃないと入れない」
「マジじゃん。マングローブみたいですげえなここ。」
「釣った魚をこれに入れよう」
かつては商品か備品だった大きめのバケツが放置されていたのでそれを使うことにした。
「てか、釣り竿や網もないのにどうするんだ?」
「俺の能力でいくらでも捕まえられるだろうからいらねーよそんなもん」
「それってお前まさか…」
「いけえええ!!」
煉は自らの命脈権能によって帯電させた手を水中に突っ込んだ。
”ビリビリビリリリ!!!”
感電したであろう音が響いた途端、魚がピチピチ跳ね上がり始めたと思ったら力尽きて水面に浮いている。これ、ただの電磁パルス漁じゃねえか。やってることが普通に環境破壊で笑えない。
「お前、全部仕留めてないよな?」
「当たり前だろ。見えてる魚にしか当ててないから」
「そんなことできるのか?」
「ああ、決まった対象だけを絞って電撃を当てるぐらい余裕さ」
どうやら煉もそこまでバカではなかったようだ。それにしてもこいつの能力って便利だな。EVも充電できるんだっけ。
「さあて、どうやって回収しようかな。ん?ボートあるじゃん。天征、あれ使おうぜ?」
岸のようになっている場所には植物でできたボートとオールが置かれていた。おそらく秘美希が作ったものであることに間違いない。簡単には沈まなそうだ。
「うん。運ぶの手伝って」
俺たちはボートを漕ぎながら浮かんでいる魚をバケツに入れて回収した。大小合わせて10匹以上は獲れた。とりあえず今日分の食料は確保できて良かった。
「おい、どうした?」
「天征、あれなんかおかしくね?」
煉の手が止まり不審に思って声をかけたら煉はあるものを見つめていた。
「どう見ても階段じゃん。え、なんで?」
「だよな?どう見てもなんか変なんだよ」
水面にぽつんと階段が鎮座していることに気づいた。だがここは1階だ。あの階段は地下へと続く階段だから地下は当然浸水しているはずなのに、階段の入り口の時点で水が止まっているのが何よりも奇妙だった。
「あそこに何かあるのか?」
「あれ、行けるんじゃね?ちょっと行ってみようぜ」
好奇心に駆られた俺たちは何かに引き寄せられるように階段へと向かった。到着した際に俺はボートが流されないようにボートを階段に乗り上げさせておいた。水と魚の入ったバケツは重かったのでボートの隣に置いておくことにした。
階段を下りるとそこは地下街だった。当然照明は機能しておらず、無人の場所になっているのだが周囲の店や設備は多少劣化しているものの原型を留めている。不気味なほど静かなのは言わずもがな、秘美希が生成したような植物がどこにも見当たらなかったのが余計に心をざわつかせた。
「なんだこれ。ここだけ違う場所みてえだ」
「もしかして秘美希の知らないところに来ちまったの?あんま奥まで行かない方がいいと思うけど…」
そう言った矢先、非常口から青白い光が漏れているのが見えた。
「煉、あれ見て」
「見るからにやべえな。どうするよ?」
怖いもの見たさもあり非常口の扉を開けてしまった。避難経路にしては不自然なほど広いのが不気味だ。光を辿って進んでいくとその最奥にはあるはずのないものが待ち構えていた。
「っ…」
あまりの衝撃に俺たちは言葉を失った。青白い光の主はなんのために造られたのか、どこの物なのか全く見当がつかない遺跡のような建造物だった。少し大きめの家ぐらいの大きさで地下街に存在できそうにないほどの場所を取っている。まるでここだけ別の空間になっているようだった。遺跡の建材は石なのか金属なのか分からない質感をしていていつの時代の技術で造られたのか知る由もない。中央にある円形のポータルらしきものから光を発しており、今も稼働しているようだった。ポータルをよく見ると、囲まれた空間がシャボン玉に反射した色彩のようにうごめいている。その向こう側はどうなっているのかまでは見通せなかった。
この街で起きた絶滅って、ひょっとするとこの建造物が何か関係しているのか?




