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神様を継ぐ日 ~Angel Hazard~  作者: 千夜
第二章 非日常への逃亡

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20/21

19:早朝散歩

 依然として外を眺め続けるユタにかける言葉が思いつかず、しばらく沈黙が流れていた。とりあえず一緒に見渡してみると街は廃墟と化しているので灯りなど当然なく、街を照らしているのは月明かりだけだった。どこもかしこも秘美希が生み出した植物で覆われていて鬱蒼としていた。

「みんなどこかへ消えちゃったんだ…」

「消えた?確かに秘美希も穴に吸い込まれたとか言ってたし…」

 ユタは秘美希の話を思い出して感傷的になっているのかと思っていた。確かに、この街はかなり大きいからそれなりに栄えていた都市だったのだろう。

「僕の故郷もこうなってしまったんだ」

「故郷?」

「少し思い出してきたよ。神様がいなくなった瞬間、見慣れたものが突然消えて、親しんだ仲間たちもバラバラになっちゃった。みんな元気かなあ…」

「そうなんだ。ところで神様ってどうして消えたのか覚えてるか?」

「分からない。直後の状況は薄っすら覚えてるんだけどいなくなった理由が思い出せない…」


 どうやらユタが過去に経験したあの出来事は秘美希が経験した絶滅と同じようなものであったことに間違いないだろう。天使が記憶を失うぐらいのインパクトであった以上、天界で起こった絶滅など全く想像がつかない。しかもユタが仲間たちと言った以上、彼以外にも天使がいたのは衝撃的な新事実だった。だとすると彼らも地球のどこかにいるのだろうか…

「テンセイ。悪いんだけどしばらく一人で居てもいいかな?」

「ああ、すまないユタ。ごめんよ」

 曖昧な過去の記憶に耽るユタの時間をこれ以上邪魔するわけにもいかず、俺はベッドに戻ろうとしたその時だった。

「2人ともいないと思ったらここにいたんだ」

「…秘美希も途中で起きたのか?」

「いや、僕はいつもこの時間に目が覚めるんだ。散歩しようと思ったら君たちがいなくてちょうど見つけたとこさ」

 

 いつの間にか秘美希がやって来た。その表情は相変わらず何を考えているのか分からない。ベッドに戻るつもりだったが起きているのは俺たち3人だけで唯花たちはまだ寝ているだろう。ユタも一人にしてくれって言ってたし秘美希の散歩についていこうかな。

「秘美希、俺も一緒に散歩行く」

「いいねー。ユタは行かないの?」

「あいつは外を眺めたいらしくてその気分じゃないと思う」

「そうなんだ、まあいいや。他のみんなもまだ起きなさそうだし少し歩くか」

 こうして二人は朝焼けを眺めて黄昏れるユタを後にして散歩へと出かけた。秘美希の少し後ろを歩いていくと街全体が秘美希の植物で覆われている影響か、朝日はそこまで眩しくなくて涼しかった。無人の都市を二人でうろつくのはとても奇妙で新鮮な感覚だ。秘美希は散歩相手ができて上機嫌なようだった。

「いつもは一人でここを歩いてたんだ」

「当然そうだろうな。よく飽きないな」

「ああ。することが全くないからね」

「それ以外には何して過ごしたんだ?学校も行けてなかったんだよな?」

「街にある本を読んでたよ。てか、学校って何?言葉は知ってるけどどんなところかいまいち分からないんだよね」

 秘美希は学校の概念すら知らなかった。しかし、街に残された本を読み続けていたことで知識や語彙は年相応にあるようだ。

「ええっとな、学校は同じ年齢の人が集まって勉強するような場所のことだ」

「へぇー。なんか楽しそうだね。それはそうと10年間ずっと1人だったから人と会えて僕はすごく嬉しいな」

 秘美希の口から素直で純粋な言葉が溢れ落ちた。

「それなら良かったよ。俺もここに来た時はどうなるか不安だったし」

 歓迎してくれているようで良かった。いつまで逃亡生活が続くかは分からないが、ここでの暮らしはひとまず安心できそうだ。


 しばらく進むと辺りに異様な光景が広がっているのが見えてきた。車や電柱、家屋の瓦礫がビルに突き刺さっている。自然災害にしては破壊の仕方がどう考えてもおかしい。普通ならバラバラになっているはずなのに、ほとんどが原型を留めている。

「あれすごいでしょ。…そうだ、あそこに行ってみよう」

 そのまま秘美希の後をついていくとそこはかつて駅として機能していた場所だった。改札であっただろう場所を抜けてホームに出ると、天井部分に列車が食い込んでいてまるで吊り下がったまま時が止まっているようだった。秘美希が言った通りの光景だったが、いざ実物を目の当たりにするとかなり衝撃的な光景だ。しかし、それらを覆う青々とした植物と朝靄が混ざり合い、どこか幻想的な雰囲気だった。

「お前の言った通りだ…それにしてもすごいなこれ」

「でしょ。最初見た時は何か変な夢でも見てるのかと思ったよ」

 しばらくして秘美希は何か思い出したのかある方向へ歩き出した。

「おーい、どこ行くんだ?」

「せっかくだし僕のお気に入りの場所まで案内するからついてきてよ」

 秘美希に言われるままついていくとそこにはかつてショッピングモールらしき巨大な建物があった。入ってみると中まで植物に覆われているのは言わずもがな、衝撃的だったのは1階が半分水没していて魚が泳いでいた。廃墟の都市の一角に生態系が構築されていて見ていて不思議な気分だった。

「ここが僕のお気に入りの場所さ。いつ見ても癒されるんだよね」

「確かに綺麗だ…」

 

 俺は起きてからまだ何も食べていないため、眺め続けていたら空腹を感じていた。そんな俺の様子に秘美希はどうやら気づいたようだった。

「あれ、お腹減ってる?」

「…うん。ここに来る前からあんま食ってなかったし」

「そっか。ちょっと待ってね」

 そう言うと秘美希は一瞬でリンゴを生成し、実らせた果実を天征に渡した。

「はい、これあげる」

「ありがとう」

 リンゴをもらった俺は早速かじりつく。りんごの甘味が疲れた体に染み渡る。普通に美味い。命脈権能か天界因子による影響なのか、活力がすぐに復活した。

「美味かった。これでなんとか過ごせそうだ」

「喜んでくれてよかったよ。…日がかなり昇ってきたね。そろそろ戻るか」

「そうだな。もうすぐみんな起きそうだし…。そういえばここどのあたりか分からねえ。案内頼める?」

「もちろんさ」

 散歩の途中で俺は自分たちがどこにいるのか分からなくなり秘美希に頼らざるを得なくなった。10年もこの街で過ごしてきた秘美希はこの街を知り尽くしている自信からか快く応じてくれた。2人っきりでの早朝散歩は思いの外楽しく、気づけば朝になっていた。昨日から始まったこの街での生活はどうなっていくのか想像しながら、みんなが居る建物へと戻っていった。




 


 



 

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