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神様を継ぐ日 ~Angel Hazard~  作者: 千夜
第二章 非日常への逃亡

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18/21

17:樹海都市

 住んでいた街からかなり離れた郊外を走っている。時間はもうすぐ午前1時に迫る。周囲には当然車の姿は全く見当たらない。いざ車を発進させ、逃亡が始まると車に乗り込むまでの緊迫した雰囲気とは打って変わって、6人の状況はそれぞれバラバラだった。


「やっぱりこの時間だと車全然走ってないね。ずっとこれだったらいいけど…」

「俺の予想通りだな唯花。後は燃料切れになるのが心配…いや、この車EVだから充電切れたら煉の命脈権能(バイタルスキル)でワンチャン充電できそうだな」

 助手席の唯花は窓から周囲を眺め、追手やモンスターだったり変なものがないか警戒している。明は逃亡計画が予想より上手く進んでいることに対して気分が良いようだ。


「明、分かってるだろうけど絶対事故んなよ?」

「当たり前だ、信用しろ。てか、事故ったぐらいで覚醒者(俺たち)は死なねえよ。一瞬で再生するからな」

 俺はこの深夜ドライブが不安で仕方なかったため安全運転を心がけてくれと明に釘を刺したが、事故っても死なないから安心しろというニュアンスで返された。死なないのは良いがそれで車が動かなくなったらどうすんだよ…

 あまり考えないようにしよう。隣のユタは車の揺れで眠くなったのか、俺が気づいた時にはもう寝ていた。それにしてもよくこの状況で寝られるな。お前は修学旅行で最初に寝るタイプの奴か。


「…もうユタ寝てんの?てかさっきから思ってたけど明すげー飛ばすじゃん!」

「高速かと思ったらバリバリ一般道じゃん!スリルやっば」

 そんな天征とは対照的に、煉と姫菜の二人はテンションがぶち上がっていた。以前から退屈に苦しめられていただけあって、明による暴走をアトラクション気分で楽しんでいる。


「お前ら、そろそろだぞ」

 明はそう言うと速度を少し落として窓を開けた。寝ているユタ以外の4人は何をする気かと明の挙動を伺う。すると明は、窓から片手を伸ばした。また、彼の髪は赤い輝きが少し強くなっているから命脈権能を解放しているようだ。


「明、なんで手伸ばしてるんだ?」

「道が途中で封鎖されてると言ったろ?封鎖されてるのはあのバイパスの入り口だから俺のスキルで焼き払う」

 俺の問いに明は強行突破すると答えた。封鎖されてるからスキルを使ってそのまま突っ走るなんていくらなんでも脳筋すぎるだろ。煉と姫菜の悪ふざけも然り、覚醒者って本当にやりたい放題できるんだな…


「逃げられるまではよくてもカメラに映ってそのせいで追跡されたりしない?」

唯花が尋ねる。彼女は天征とは違うことを心配しているようだ。

「その可能性は普通にあるが、あの都市全体が立ち入り禁止区域だ。警察も研究機関(アステリズム)もそう簡単には入れねえ。ただあそこ…」

 何か言いかけたのと同時に、車は閉ざされたバイパスのゲートへと次第に近づいていく。


「やっぱり閉鎖されてるな」

 明は窓から一瞬だけ身を乗り出すと、運転席の窓から突き出した右手から炎の波を放射状に放つ。フロントガラスの向こう側には小さな火の海が広がっている。厳重に閉ざされたそのゲートは瞬く間に焼け落ちた。遂にバイパスへ侵入した。

「よし!後は突っ切るだけだ」

「今のすごい!明って炎操れるんだね」

「言ってなかったな姫菜。あと氷も操れるぜ」

「逆属性使えるのマジ?めっちゃ格好いいんだけど」


 姫菜は後部座席から俺とユタが座っている座席の間の上から顔を出していた。振り向くと彼女の顔が至近距離で見える。この逃亡劇を誰よりも楽しんでいるようだ。それと同時に、煉の歓声が聞こえてきたからこいつも彼女同様に興奮している。なんなら唯花も拍手していた。この強行突破と暴走はれっきとした犯罪行為だが、みんなそんなことを考える余裕がなかった。

 バイパスはさっきまで封鎖されていたから当然、車は一台も走っていない。それを良いことに明はさらにスピードを上げた。スピードメーターを覗いてみると軽く150kmは超えていた。そこら辺の特急列車より速い。


「俺、面白いこと思いついた」

 煉は何か閃いたようだった。何か悪い予感がするが気のせいか?

「なあ明。せっかくだし音楽かけていい?」

「構わん」

「よっしゃー!じゃあ早速」

 そして煉は音楽を大音量で流し始めた。車内にはHIPHOPの激しいリズムが漂う。

「ぶち上げるにはやっぱこれよ!」

 確かに煉はこんな感じの曲好きそうだな。というか、そんな見た目してる。

「おお、懐かしいなこの曲。昔めっちゃ流行ってたな」

 明も先程と比べて気分が上がっている。車内の緊張感がかなり薄くなってきた。

「煉分かってんじゃん!あたしもテンション上がってきたわー!」

 どうやら姫菜もこういう騒がしい雰囲気は好きなようだ。そして2人は曲に合わせて歌い始める。

「…ん?みんな楽しそうだね…」

 あまりの騒音にユタも起きてしまった。しかし、うるさいと言わない辺り、天使としての寛容さが伺える。


「じゃあ次はあたしが好きな曲かけさせてよー」

 煉が選んだ曲が一通り流れると、今度は姫菜が自分の好きな曲を流した。流れている曲の歌声は男声ではあるが、透き通るようで儚い雰囲気を纏っている。

「姫菜、このアーティスト誰?」

「”昴”だよ!あたし大好きなんだよねー。天征も名前は聞いたことあるでしょ?」

 昴とはSNSで根強い人気を持っている歌い手だ。姫菜は彼の大ファンであったようだ。


 そして、車は騒がしいままバイパスを突っ切っていった。数時間経って目的地に着いたのだろうか、車は停止した。

「お前ら、着いたぞ」

 明はそう言って車のエンジンを止めた。

「あれ、もう着いたのか?あっという間だな!」

「いやー、めっちゃ楽しかったなー!」

 到着するまで煉と姫菜はずっと騒いでいたにも関わらず、疲れている感じは全くしなかった。こいつらの体力どうなってるんだ…


 それから俺たちは車を降りた。外はまだ暗い。

「ここが甲信越にある廃墟になった都市なのね。にしてもすごく不気味だね」

 唯花が目的地を見つめている。

 目の前に広がる廃墟都市は不自然な雰囲気で荒廃していた。周りに人影や建物に灯りは一切存在しない。しかし、何よりも異常なのは街の至るところがの蔦や蔓など植物の緑一色で覆われていた。まるで樹海と都市が一体化しているようだった。


「なあ天征、なんかやばいのとかいないよな?」

「どうだろう。立入禁止区域だから基本的には誰も来ないはずだけどな。でも覚醒者(エヴォルバー)の一人ぐらいはいるんじゃないか?」

「まあその時はその時で俺らでぶっ潰せばいいか」

 俺に問いかけた煉は物騒な結論を出して自己完結する。


「…思い出した。あそこには奇妙なことが起きててな、最初は天界因子の暴走による絶滅で街の機能は失われ一夜で廃墟になったんだ。そこまではギリ分かるが、5年前ぐらい全体が緑に包まれたのが衛星写真で確認されたんだ。植物の成長スピードから考えても不自然すぎるんだよな」

 明が突然語り出した。そういえばドライブの時なにか言いかけてたよな…?

「明、それってまさか…」

「ああ、ここには確実に誰かいる。もしかしたら既に覚醒者の縄張りになってるかもな」

 明の眼差しは確証の表情をしている。やはりただの廃墟じゃないようだ。 


「とにかく入るぞ。今更戻れん」

「…そうだな」

 6人は緑の街を進んで行く。歩く度に蔦が邪魔になる。

「ねえ明ー。これすごい邪魔なんだけど。さっみたいに焼き払ってよ」

「さすがにそれはしない。緑どころか建物も焼けちまうし、何よりこの植物は誰かの命脈権能(バイタルスキル)で生成された可能性が高いからな」

「じゃあ、仕方ないかー」

 明はわがままをぶちまける姫菜を論理的に諫めた。彼女は残念そうに納得した。


「そういえば絶滅ってなんだ?」

 世間に疎い煉が尋ねる。

「天界因子っていう俺たちの力の源であるあの結晶が引き起こす災害だ。色々とパターンがあって詳しいメカニズムは未だに解明されてない。ただ、壊滅的な被害をもたらすから絶滅って呼ばれてるらしいぜ」

 明の説明を聞いた直後、俺は頭の中で点と点が繋がった。10年ぐらい前に未曾有の災害が発生したと聞いたことがある。あれはこの街で起きたことに間違いない。


 しばらく歩いていくと、俺たちは街の中心部に到達した。辺りを見回してもあるのは植物だけだ。

「ちょっとちぎってみよ」

「おい待て!」

 煉は興味本位で近くの草をちぎってしまった。明が慌てて止めた時にはもう遅かった。

 次の瞬間、ちぎられた草が一瞬で再生し、草の層がさらに分厚くなった。そして、どこからともなく何本もの巨大な蔓が天征たちを一瞬で包囲した。まるで周囲の環境全体が敵対しているようだった。

「え?」

「だから言ったはずだ…」

 まずい。明の言った通り、ここには覚醒者がいた。このままだと殺される。だが、この能力の持ち主の姿が見えない。どこにいるんだ…


 だが、俺たちを囲んでいた蔓が次第に小さくなっていき、外が見えるようになった。

「待って、誰かいる!」

 唯花が叫んだ方を見てみると建物の屋上に誰か立っていた。

「多分あいつだ!あいつが操ってる!」

 やがてその人物は、植物を操って屋上から地上へと移動し、俺たちの元へと近づいていく。


「こんな夜中にみんなどうしたの?ていうかさ、この街、植物しかないでしょ?」

 近寄っていく覚醒者はそう語りかけた。その姿は緑一色の髪をした、純粋そうでどこか謎めいた少年だった。


 







 

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