16:深夜ドライブの誘い
明の言っていた意味が理解できた。俺は今までの出来事を完全に忘れかけていた。
「明、あれのことか?」
「ああ。交差点で戦って以降、周囲の警備が明かに厳しくなってるんだよな。神社から戻る途中、ところどころに研究機関らしき人間を見かけて監視されている気分だったぜ。お前らにも伝えとかなきゃなって思って唯花に天征の家を教えてもらった」
やっぱりそうか。あれだけでかい交差点で暴れたらそうなるのも時間の問題だった。怪獣を倒した時のことがSNSで有名になりすぎて感覚が麻痺していた。交差点での共闘はモンスター達を倒した達成感でいっぱいだった。
「神社から帰る途中、明に天征の家を教えて欲しいって言われたから私も一緒に来たの。あとさ、興味本位であの廃ビルに行ったらあそこもめちゃくちゃ警備されてたし、最初に出会ったあの森も立ち入り禁止にされてたよ…」
「ん、お前ら森でなんかしたのか?」
「ええっと、私はあの時暴走してて天征を襲ってそのまま戦いになっちゃんただよね」
「何やってんだよ、てかお前ら覚醒者が命脈権能を発現させたらしばらくその痕跡が残るせいで研究機関に検出されるって知らないのか?」
「ご、ごめん…私そこまで知らなかった」
明が呆れ気味に天界因子の性質を明かす隣で唯花は申し訳なさそうにえへ、と笑って誤魔化していた。
「初めて知った。てっきり監視カメラに映ったとかまたSNSに拡散されたのかと思ってた。」
「そういうパターンも多いが、海岸みたいにカメラが無い場所だったら天界因子を検出する機器で調査してるんだ」
「なんでそんな詳しいんだ?明って研究機関の人間だったりするのか?」
「もしそうだったらとっくにお前を捕まえに行ってる。でも親がそこの研究員だ」
明は次々と重要な情報を語り出した。でも親が研究機関の人間なら明はどうして覚醒者になったんだろうか。ただ明は俺を救おうとしてるのは分かる。でなければ冗談でもこんな時間に家には凸ったりしないだろう。
「なあ唯花。一つ聞きたいんだけど廃ビルが警備されてたのって俺らと関係ある?」
天征が思考を巡らせている一方、煉はなにか勘づいたのか唯花に尋ねる。
「多分あると思うな。でも建物の中では戦ってなかったよね?なんでバレたんだろう…」
共に理由が分からない二人はお互いの顔を見つめては俯き必死に考えているようだった。
「あたし知ってるかも…」
次に喋ったのは姫菜だった。唯花と煉は探し物を見つけたような顔で彼女を見つめた。
「昨日スマホ見てたらそこの廃ビルが一瞬だけ揺れててっぺんあたりから光が飛び出したライブカメラの映像が流れてきたんだけどこのせいじゃない?」
「絶対それだ…」
唯花は少し顔が青ざめたような感じだった。
「深夜に天の川通りでバカ騒ぎがあったらしいけど、あれお前らだよな。目撃情報に鎖と黄緑色の光を見たってあったし何なら動画も出回ってたぜ」
「…やっべ」
煉は10年分の退屈を埋めたその行為が大ごとになっていることをやっと理解した。共犯者の姫菜も隠し事がバレたような顔をしていて明らかに焦っている。いくらなんでも暴れすぎだろ、何してんだよこいつら…
「というかお前、鎖の女王だろ?なんで天征の家にいるのか分かんねえけどお前も逃げた方がいいぜ?」
「あたしも?まあいいけど。てかオッサン、次からあたしのこと姫菜って呼んでよ。」
「はぁ、オッサン?まだ俺20なんだけど…名前聞いてなかったな姫菜。俺は明だ。」
明は姫菜の態度に困惑しつつもすぐ気を取り直して皆の表情を伺う。
「まあ、全員いるなら話は早いな」
そして明は本題に入るぞと言わんばかりに先程までの呆れていた表情から真剣な表情に戻った。
「これまでの騒ぎでお前らが国や研究機関に目を付けられるのは時間の問題だ。ここに残ってたら確実に捕まる」
この街から逃げることを警告するために自分の家を訪ねて来たことは天征も分かっていたが、まだ天征は逃げるという決断に至れなかった。
「でも、急にそんなこと言われてもなあ。学校にろくに行けなくなったせいでもし逃げたら学校のみんなとさらに疎遠になっちまうし…」
俺は普通の高校生としての日常にまだ未練が残っていてどうしても逃げることに頷けなかった。
「おい天征、お前何も分かってねえ!自由を奪われて監獄にぶち込まれる地獄がどれだけ過酷か俺は身に染みてんだよ!明の言う通り逃げるぞ!今は学校どころじゃねえ!」
煉が血相を変えて天征に叫んだ。煉は虚空に閉じ込められていただけあって敏感に反応した。
「ああ、良くて研究機関の実験対象にされちまう可能性も十分ある」
一方で明はサラッと恐ろしいことを言った。
煉と明の言う通りで目が覚めた。もしこのままでいたらある日突然自由を奪われる運命は近いだろう。そう考えたら逃げるのは当然の選択だが、逃げる手段とか場所は決めているのだろうか?
「確かにそうだな。でも逃げるって言ってもどうやって?」
「お前の家のすぐ近くに車を停めてるからそれに乗って逃げるぞ」
あの車の音はそれだったのか。やはり俺の違和感は正しかったようだ。
「本当にあそこに行くつもりなの?」
俺が聞く前に唯花が逃げる場所を確認してくれた。
「唯花には同じことを言うが、甲信越に廃墟化した都市があるからそこに逃げるつもりだ。お前らも聞いたことあるだろ?」
明が言った甲信越にあるその廃墟都市というのは、十年ぐらい前に起こった絶滅により壊滅した、地図から消えて存在を忘れられた都市だ。俺たちが今いる場所から200km以上も離れている。
「存在は俺も知ってるよ。しかしかなり遠いな」
「あそこにはもう誰もいないだろうから最適な逃亡先だと思うぜ?逃げる時間帯は深夜が一番いい」
逃げるなら人目に付くのを最小限にしようと明は計画を立てていたのだろうか、彼の準備は万端のようだった。
「じゃあ行くぞ」
事の重大さを理解した天征たちは明に続いて玄関から出ていく。そして天征は念のため家に鍵をかけた。
「テンセイ。今から僕たちどうなるの?」
「俺もこの先どうなるかよく分からない。とりあえず明を信じよう」
家から出てすぐ、黒色のバンが目に入った。これは明の私物なのだろうか?
「ちょうど6人乗れるじゃん!これお前の車か?」
「いや、近くに放置されてたのを拾ってきた」
「サラッと盗んでんじゃねえか。お前もあんま人のこと言えねーぞ」
「いいから乗れ。どっちにしろこのままだと全員捕まっちまうぞ」
どうやら明の車ではなかったらしい。煉のディスりを全く意に介さず、明は車のエンジンをかけた。
助手席に唯花、真ん中に天征とユタ、後ろには煉と姫菜が座った。
「歓楽街で騒いだ次は深夜ドライブかー。すげえ楽しくなってきたぜー!」
「あははは!音楽かけたら絶対盛り上がるっしょ」
「うるせえぞ。ただ騒いでるDQNのドライブとは事情がちげえことを忘れんな!…あと、目的地に通じる道は調べてある。途中で封鎖されてるが当然突っ切るからビビんなよ。じゃあ行くぞ」
明はウェーイと騒ぐ煉と姫菜を咎めると、後ろを振り返って忠告した。
そして車は逃げるように天征たちがいた街を走り抜けていく。




