13:夜の底を這う鎖
5人で色々と話していると時間は一瞬で過ぎ去っていき日が暮れてきた。
煉は自分が現実に戻って来られるとは夢にも思っていなかったようで、これからどうするか考え始めた。
「元の世界に帰ってこれたはいいけどどうしよっかなあ。事情聴取とかめんどくせえから警察行って保護される気になんねえ…お前らはこれからどうする予定?」
煉が気だるげに問う。行方不明扱いになっているのでどうやら帰るあてがないようだ。
「今日はもう家に帰ろうかな」
「俺も」
唯花と明もただ俺に着いてきただけなので、今日は特にすることはもうないようだ。
「天征は?」
「俺もユタと一緒に帰るだけだな」
俺に聞いたところで特に何もないぞ?
「……」
ユタも特に予定は無いと言わんばかりに無言で頷いた。
煉は泊めてくれと言わんばかりに視線を天征に強く向ける。
「…どうした?そんな目で見つめて?」
「家帰ろうにもできねえんだよなあ。天征、しばらくお前ん家住んでもいい?」
「……まあ、いいけど。ユタもいるけど大丈夫?」
「おう、全然余裕ー」
距離の詰め方どうなってんだこいつ?初対面でいきなり泊めてくれってえぐすぎるだろ。一応OKしたけど家のスペース無くなっちまうじゃん。
「…じゃあそろそろ帰るか。みんなまたな」
天征が少し困ったトーンで皆に別れを告げる。
「うん!またねー」
「また会おうな。今日は本当に助かった」
唯花と明が一足先に帰っていくと神社には俺たち3人が残った。煉のことは全く知らないから家に入れるのは正直不安だ。まあ、悪い奴じゃないのは雰囲気で分かる。
「さて、俺らも帰るか」
「「うん」」
俺の言葉に二人は同じタイミングで返事した。
家に向かう途中、煉は連絡先を交換しようと俺に言い出した。
「10年近く閉じ込められてたのに携帯は無事だったのか?」
「あそこはバリバリ圏外だったから使い物にならなかったんだよな。壊れる以前の問題だぜ」
「でも充電は切れてるだろ」
「だと思うだろ?100%なんだよな」
「なんで?」
「俺の力、電気操れるんだけど充電にも使えるんだよな。神社行く途中で試してみたらいけた」
「すげ、そんなことできたんだ」
会話の後、俺は煉と連絡先を交換した。こいつさらっととんでもないこと言ったな。煉の力便利すぎるだろ。覚醒者って色んな奴がいるんだな。
「お邪魔しまーす!家入ったの久しぶりすぎー!!生きててよかったぜ!」
「流石に大袈裟だろ。ここいてもいいけど散らかすなよ?」
「分かってるよ。大丈夫、大丈夫」
「テンセイ、先お風呂入ってもいい?」
「いいよ」
ユタが風呂に入ったためリビングで煉と二人きりになった。しばらく経って煉はなにやら退屈そうな顔をしている。
「なあ…」
「どうした」
「10年間なんもない場所で過ごしてきたからこのまま寝るのも面白くねえんだよな…」
「戻ってきたばっかだからそりゃ慣れてないか」
「監獄のお勤めが終わった記念に夜の街に遊びに行きてえ」
「いいけど、またあの女に捕まって閉じ込められんなよ?」
「あれは不可抗力ってやつだ。てかあの空間は唯花と一緒にぶっ壊したからさすがに次はないだろ」
釘を刺された煉はあの時とは違うと頑なに否定した。そして10年間味わった虚無を取り戻してやると言わんばかりに街へ行こうとする。
「ていうか煉、街ってどのあたり行くんだ?」
「天の河通り行きてえんだよな!」
天の河通りとは、天征と明が共闘した鳴神駅の交差点から少し離れた距離にある歓楽街である。
「あそこか。まあ行ってこいよ。帰る時になったら連絡しといて」
俺は歓楽街特有のごちゃごちゃした雰囲気は好きじゃないから一緒に行く気にならなかった。
「よーしじゃあ行ってくるわ!10年の空白を埋めねえとな!」
煉は全身に黄緑の光を纏うと宙に浮上し、歓楽街の方向へ稲妻の如く一瞬で飛んでいった。
「速え……」
思わず声が出た。
煉を見送った後、俺は天の河通りにまつわる噂などを調べてみた。違法な商売や半グレ、援助交際などが跋扈する無法地帯になっているのは火を見るより明らかだ。
その中で一際目を引く情報が目に入った。
歓楽街に「鎖の女王」という二つ名で恐れられている少女がいるという噂だ。名称の通り、鎖を操ることができるらしい。その異様さから歓楽街では恐れられているようだ。
煉は天の河通りが今どうなっているのか絶対知らないだろう。覚醒者が全国的な話題になったのは煉が行方不明になってからのことだからっていう理由が大きい。
煉自身も覚醒者であるから、彼女と遭遇したら歓楽街が交差点以上に大ごとになってしまいそうだ。杞憂で終わってくれたらいいんだけどな…
「10年ぶりのシャバだぜー!!」
程なくして煉は天の河通りに着いた。彼にとって体感10年ぶりのシャバの歓楽街であるため見るもの全てが新鮮に感じられ、テンションが抑えられない。
歓楽街は至る所が煌びやかで多くの人々が行き交い、欲望とネオンの光で溢れている。そこに到着したは良いものの、何をするかまでは全く決めていない。おまけに実際年齢はまだ18なので飲み屋に入れないのだ。
(このままだと何もせず帰っちまうな〜。あ、面白いこと思いついたぜ!)
煉は何か閃いたようで街の片隅へと身を潜めた。
次の瞬間、不意に街頭のネオンが不規則に点滅し始めた。カラフルだった光が全て消えたと思ったら赤一色になったりと混沌を極めている。
周囲にいた人々は突然の事態に驚き困り果てている。
(これマジおもしれえ!俺の力ってこんなことにも使えるんだな!)
ネオンが狂った原因は煉が自身の命脈権能を悪用したことだった。
人々は同じ空間にいる少年が引き起こしているとは当然思いもしない。その張本人は電柱の影に隠れてニヤニヤしている。
「あー面白かった」
満足した煉が悪戯を辞めた途端、ネオンの光は元に戻った。周囲から「なんだったんだあれ」という疑問の声があちこちから聞こえた後、街に喧騒が戻った。
(…そういえばビルから出たきり何も飲んでねえや)
亜空間から脱出したことで代謝が復活し、喉が渇いた煉は飲み物を買いに自動販売機を探しに街を歩き続けた。
煉はこの時、既に後を付けられていることを知らなかった。彼の足跡を、底の高いブーツの足音がなぞっていく。
「今日は出られた記念日だ。オールぶちかますかー♪」
やがて自動販売機を見つけた煉はコーヒーを飲もうと、そのボタンを押すと同時に指先から電磁波を放ったら、コーヒーが取り出し口に落ちた。
どうやら煉の能力は生体電流による高速移動や電撃の他に、電磁波によるシステムのハッキングもできるようで、自動販売機に金を入れずに飲み物を手に入れることなど余裕だった。
やがて人気のない路地裏へ向かい、片隅に座り込んだ煉はコーヒーを飲んでくつろぎはじめた。
(夜の街って思ったより退屈な気がするな。でもやっと戻れたシャバは最高だぜ)
「…ねえ」
そう思った瞬間、後ろから女性の声がした。ここに来た時は誰もいなかったのでその声は自分にかけられているのは確かだ。煉は自分を閉じ込めたあの女ではないかと思い、背筋に冷たい感覚が走る。
しかも、その足音が近づくにつれてジャラ…、ジャラ…、とアスファルトを擦る不気味な金属音が大きくなっていくのが2倍も気味悪かった。
「…なんだ?」
恐る恐る振り返ってみると、そこに立っていたのはかつて自分を閉じ込めたあの女ではなく、黒と紫を基調とした地雷系のファッションに身を包んだ少女だった。その少女は華奢な体に、とぐろを巻いたヘビのような漆黒の鎖を纏いながらゆっくりと近づいてくる。
「さっきパチパチしてたのあんたでしょ?超ウケるんだけど」
少女は不気味な笑みを浮かべながら煉を見つめている。
(なんだこいつ?てか誰だよ…)
あまりにも予想外の展開に煉は動揺を隠せないようだった。




