12:神社でのひととき
廃ビルを出た唯花たちと時を同じくして天征と明は既に、ユタがいる神社に着いていた。
今のところ神社には誰もいない。てかユタはどこ行った?
「明、着いたぞ。さっき言ってた場所はここだ」
「ほう、神社か。確かに良い場所だな」
交差点の激闘でかなり力を消耗した。しばらくここで休もう。
「ああ、疲れた。しばらくここで寝るわ」
「マジでどうなるかと思ったぜ」
明は神社の縁側に寝ころび体を休める。俺も明に隣に座り休んでしばらくすると、社の裏から誰かの足音が聞こえてきた。
「あ、テンセイおかえり!」ユタが戻って来た。俺が鳴神駅方面へ向かっていた間に何をしていたのだろう?
「ただいまユタ。どこ行ってたんだ?」
「ちょっと山の方散歩してたんだ。隣の人はテンセイの友達?」
「…あ、うん。まあ一応そう」
ユタがやってきた途端に明は彼に注意を向け、天征の仲間であることをすぐ感じ取ったのかユタに目を合わせた。
「俺は古賀明だ。ユタっていう名前だよな?」
「うん!アキラ、よろしくね!」
「ああ、よろしく」
ユタはアキラと挨拶を交わした後、労わるような眼差しを天征に向けた。
「テンセイ、頑張ったね」
「ん?」急にどうした?
「さっきさ、君が走っていったところが静かになった気がするんだ」
「ああ、あれのことか。かなり疲れたなあ。それにしてもよく分かったな」
思い出したかのようにユタは俺の方を振り向くと全て知っているかのように語りかけた。天使は因子の気配の他にも空間の歪みなども感じられるのだろうか?
「…どういうことだ?頑張ったってなんで知ってんだよ?」
なぜユタが交差点での戦いを知っているのか疑問を感じた明は、気になって仕方ないのか立ち上がってユタと視線を合わせる。
「っ!?」
「え?アキラ、どうしたの?」
明は天征よりも多くの戦いを経験しているからか、覚醒者としての感覚がかなり磨かれている。ユタの神性に瞬時に気づくのは十分すぎた。
「天征、こいつただの人間じゃねえだろ…!?」
「…俺もそうだと思う。会った時から色々やばかったし」
「ごめん言い忘れてた。僕は天使なんだ」ユタはサラッとカミングアウトした。
明はさらに驚いた反応を見せる。
「天使!?覚醒者じゃなくてか…?」
「明、俺も最初は信じられなかったよ。でもこいつに助けてもらった時に確信した」
明は目の前の少年が天使であることに動揺を隠せない。一方でユタは自分が天使であると言っただけなのに相手が驚いているのが全く分からなかった。
「あー!天征いるじゃん。おーい!」
ユタと明の膠着が続いてどうしたものかと焦っていたら、鳥居の方から聞き覚えのある声がした。振り返ってみると唯花がこっちに向かっている。しかももう一人隣に誰かいる。なんか見た目チャラいぞ…
「あいつらも知り合いか?」
「女子の方はそうだけどもう一人の方は知らないなあ」
「あ、ユイカ!ってあれ、もう一人は誰だろう?」
先程まで沈黙し合っていた俺たちも、意識は唯花たちへ向いた。
「聞いてよ天征!都市伝説確かめようと廃ビル行ったらさあ、変な空間に閉じ込められちゃったの!」唯花は駆け寄ると必死に訴えてくる。
「だからやめとけって…でもなんで戻ってこれたんだ?」
「隣にいる人とそこで会ったんだけどなんか戦うことになって気づいたらビルに戻れてたの」
「よく分からないけどとりあえず帰れてよかったよ。…そういえば君は?」俺は隣の人に誰か尋ねた。
そいつは俺が話すターンが来たというような顔で陽気なトーンで返事した。
「俺は白井煉だ!よろしくな天征!煉でいいぜ」
「おう。じゃあこれから煉って呼ぶよ」
「…レン」2人の会話を聞いたユタが煉の名前を復唱した。
「ん?」
「煉、こいつはユタっていう俺の友達だ。仲良くしてやってほしい」
煉にそう頼むと、彼の表情に微笑みが戻った。
「おけ。よろしくねー」
「うん!よろしくレン!」
煉は見た目の通りの感じだ。神隠しにあった行方不明者ってもしかしてこいつのことか?それにしてはなんか元気だな……しかも陽キャじゃん…
俺とユタとはすぐに打ち解けた煉であったが明に対してはあからさまな反応を見せた。
「なんか金髪のヤンキーいるじゃん。あいつもお前のダチ?」
「ああ、こいつは―」
俺の話を遮るように明はちょっと待て、と言った。
「おい、見た目で決めつけんなクソガキ。俺は不良じゃねえぞ!」
見た目でイメージを決めつけられたのが癪に障ったのか明は不機嫌そうな顔をして言い返した。
「わりいわりい、そんなにキレんなって!てかあんたはなんて名前?」
「古賀明だ。天征とは一緒に戦った仲だ」
「へえ、それは面白い。俺と唯花もそんな感じだぜ」
唯花は自分と同じように天征が明と戦ったのか邪推した。
「もしかして天征も明と殺し合ったの?」
「んなわけねえだろ」明は俺より早く否定した。
「違うよ」
みんないるからせっかくなので俺は明とここに来た経緯を説明することにした。
「いや、鳴神駅近くの交差点にモンスターが湧きまくっててさあ、そこで明と一緒に倒してきたんだ。そっちこそ何かあったのか?」
「ええっとね、急に煉がキレたと思ったら襲い掛かってきて、私も全力で戦ったら気を失って目が覚めたらビルの最上階にいたの」
「…どういうこと?とりあえず戦ったら神隠しから脱出できたってことか?」
唯花はちょっと違うといった感じで頭を軽く横に振った。
「多分、私が迷いこんだ空間が、煉と本気でぶつかった時に出たエネルギーに耐えきれなくなってぶっ壊れて現実世界に帰ってこれたんじゃないかって思ってる」
「なるほど、そういうことか。じゃあ俺が暴れなかったら今頃ここには居なかったってことだな!」煉は戻ってこれたのは自分だと言わんばかりに得意げに言い放った。
「ちょっと待ってよ!あの時ほんとに焦ったんだから…」唯花はどこか不満げだった。
「まあお互い様ってもんよ!」
一旦4人の会話が落ち着くと、明はユタについて再び触れた。
「ユタと天征はどこで会ったんだ?」
「怪獣と戦って地下深くに落ちたらユタがそこで眠っててさあ、なんか起こせたんだよ」
「眠ってた、か。怪獣倒した奴ってお前のことだったんだな」
え、マジかよ……それ言われるとは思ってなかった。
「やっぱり明も知ってるのか」
「ああ、そのうち有名な覚醒者になるだろうな」
明は微笑みまじりに皮肉を言った。煉は世間のことを何も知らないのか覚醒者という単語が引っ掛かった様子で首を傾げた。
「エヴォルバー?」
「知らないのか?俺らみたいに何かしらの力が使える人間のことだぜ」
「そういう呼び名があるのか。10年ぐらい閉じ込められてたから世間のことなんも分かんねえ…」
「10年?」
「亜空間に閉じ込められた時間は10年近く感じたんだ。でも唯花が言うには2年しか経ってないって言われてさ……時間感覚がマジで分からなくなってるんだよな」
「なるほど。お前が2年前に行方不明になってた白井煉本人か」
「明も言うならやっぱり2年しか経ってなかったのか。こっちの世界では全然10年も経ってないってすげえ拍子抜けするわ」
煉は覚醒者の存在や行方不明になっていた本当の時間を明から聞かされて完全に納得したようだ。
「だから私2年しか経ってないって言ったじゃん……」唯花が不服そうに呟く。
神社に5人揃ったは良いものの、これからどうしようかユタに相談しようと後ろを振り返ってみたがそこにユタの姿はなかった。
「あれ、いない。…え、なんでそこに?」
辺りを見回すとユタは鳥居の上に立って空を見つめていた。いつの間にここに上ったんだ?しかもなんか呟いているように見える。
「なあ天征、ユタってなんか変じゃね?」煉がそう言い寄ってきたので俺はユタが天使であることを打ち明けた。
「すげえ!天使ってほんとにいたんだな。俺は信じるぜ?」
「え?普通は疑うと思うけどな…」
「瓦礫しかない監獄に閉じ込められてたから天使みたいな存在も全然いると思うぜ?」
煉は自分が虚空に閉じ込められた空白の2年間を話してくれた。多分煉を閉じ込めた犯人は覚醒者に違いないだろう。
「なんか聞いた感じお前を閉じ込めた女はただの覚醒者じゃなさそうだな」
「絶対ヤバい奴だって目が合った瞬間感じたぜ。でもいつかはあいつを絶対ボコしてやりてえ」
「気持ちはすごく分かるよ。何も感じられない場所に体感10年も閉じ込められるなんて俺は絶対耐えられない」
「だろ?まじで頑張ったぜほんとに…」
会話のネタが思いつかなくなった俺たちはしばらくユタの様子を見つめ、沈黙が続いた。
「…ここにいるのも、きっと理由があるんだろうな」沈黙を破ったのは明だった。
「どゆこと?」煉が即座に尋ねる。
「天使が本当に存在するならあいつらは空の上にいるはずだ。でもそこに帰らないってことは何かしら理由があるんじゃねえかって思ってる」
「日本で覚醒者が出現したことと何か関係があるのかな?」唯花は仮説を立てた。
唯花の発言で俺は今までの出来事を思い出した。海岸の怪獣も交差点のモンスター達は別の次元からやってきたはずだ。そして唯花が出会った煉も、この世界から切り離されていたということになる。ユタも故郷には帰れないと言っていたから唯花の言ったことは世界に起きた異変の的を得ているのかもしれない…




