11:混沌と虚空からの帰還
「うう…いたた……」
意識が戻った唯花はゴホッと軽く咳をして体を重々しく起こす。
(助かったの…?)
亜空間にいた時は空腹などあらゆる生理的感覚が消失していたが、今は喉の渇きを感じている。おまけに少し湿っていて地味に暑い。
どうやらあの監獄から抜け出せたのだろうか?
「…ん?」
乱れていた視界が戻っていき、目の前になにか物体があることに気づいた。
「……どうなってるの?」
しかし彼女はまだ状況を理解できなかった。なぜなら目の前の物体はさっきまでの自分と同じように倒れている煉だったからだ。
唯花は轟音と閃光により意識が飛んでしまったため、煉と全力でぶつかってからの記憶が当然ない。
(もしかしてまだ閉じ込められてる…?)
彼女は絶望する直前、地面に着いた手の平に埃っぽい感触を覚えた。しかも、あのふわふわしていた感覚も無くなっている。
「うそ……戻れた?」
ハッとして立ち上がり、辺りを見回してみると割れた窓ガラス、埃を被った数年前の雑誌、何かしらの備品で散らかっているではないか。そして窓からは日が差している。
「…出れた!!」
なんと廃ビルに戻っていたのだ。唯花は思わず感嘆の声を上げた。
テンションが上がったまま割れた窓から外を眺めてみると、そこには見慣れた街並みが広がっていた。
(あれ、ここ1階じゃない……)
唯花は1階から乗ったエレベーターで亜空間に飛んでしまった。そのためここが何階であるのか分からないため迂闊にビルからは出られない。
振り向いた先にはエレベーターがあり、近くの表示を見てみると最上階の30Fとなっている。
都市伝説では最上階に行ってしまうと神隠しに遭ってしまうと書かれていたが、裏を返すと神隠しから脱出できたからここに戻ってこれたのだろう。
「ううん……痛え…」
とにかくこの廃ビルから出ようと思った矢先、煉がついに目を覚ました。
「あ……」
「クソ…まだ終わってねえぞ……」
「待って!私たち戻れてるよ」
「え?」
「ここはさっきの変なとこじゃなくて廃ビルなの。だから戦うのはもう終わり」
「……マジじゃん…俺、出れたんだ…」
煉はしばらく辺りをうろついてそれが現実であると認識した途端、歓喜の表情を浮かべた。
「よっしゃー!10年ぶりの空気うめえー―ゴホッ……なんか汚くね?」
「廃ビルだから埃まみれなんだよね」
「なるほどな。じゃあまずはここから出ないとな」
虚空から帰還できたのは良いものの、戻った先は廃ビルでしかも最上階だ。このまま長居していてもどうしようもない。
唯花はエレベーターへ向かったが、エレベーターは既に電源が消えていて使い物にならない。煉の命脈権能で仮に動いたとしても、また亜空間に飛ばされてしまう可能性も捨てきれない。
「エレベーター使えないんだけど。入ったときは動いたのに…」
「おい、非常階段があるぜ。そこから出れるんじゃね?」
「階段あったんだ。じゃあそこから出よう!」
二人は非常階段を駆け下りていく。そして一階のロビーに辿り着き、唯花がこじ開けたところから遂に脱出した。
「そういやこんな見た目だったなー。懐かしいぜ」
煉はビルを見上げると、行方不明になる直前の記憶を思い出した。
「お前のおかげであの監獄から出られてほんとに助かったぜ。さっきは急にキレて悪かったな」
「いやいや、私だって二度と出れないかと思ったよ。まあお互い様ってことで」
しかしなぜあの亜空間から脱出できたのだろうか。
自分と煉の因子の出力の総量が亜空間の許容値を超えたことで臨界状態になり、廃ビルへ戻ることができたのかもしれないと唯花は心の中で仮説を立てた。
「どうして煉はあそこに閉じ込められたんだっけ?」
「家出してあそこでたむろしてたら変な女に話しかけられてよお、気づいたらそこに飛ばされてたんだよ」
「その女ってどんな感じだったの?」
「なんかヨーロッパの貴族みたいな格好してた気がする。あと歯が鋭かった」
「何それ、怖いな…」
「てかどこ向かってるんだ俺たち?」
「神社で友達が待ってるからそこに行くつもり」
「俺も行っていい?」
「うん、いいよー」




