覚醒
────起きてぇ……ぇ!!
……誰だろう。
聞き覚えのある声だ。
暗黒の微睡みの中で響いたその声に俺は耳を傾けた。 けれど、目蓋は重く何も考えたくないと頭が言っている。
……そうだ、俺は封印されたんだ。
……左目が痛い。じくじくと痛む。なんでだ?
左目だけじゃない……全身が痛い。けれど左目が特に……熱い。
俺は一体どうなっちゃったんだ……確かミスリーとの戦いに負け、あのよく分かんねー男の箱に収容されたんだった。
まだ出来れば戦いたいけれど……もう無理だ。腕も足ももがれ、こんな訳の分からない箱の中に閉じ込められ、何度も何度も痛みが全身を襲うだなんて……羽を折られた鳥も同然だ。意思とは関係なしに戦うことは……
───うぐっ!!
────やめろと言っているのが聞こえない?
なんだ……?
誰の声だ……
いや、知っているだろ……憎むべき相手の声を忘れるわけがない。
……ミスリー
そして……鞠猫の苦しむ声だ。
……この左目の熱さ……知っている。
覚えがある。
そうだ……鞠猫と再び再開した時、更衣室で彼女に散々撃ち込まれたあの弾丸の熱さだ……
……鞠…猫……
……鞠猫
…………鞠猫!!
左目が疼いた。
何も写さなかった目を開く。もう負けだ、終わったと諦めていた瞳を開く。
左目が暗闇にポッカリと浮かんだ光の円を写す。そしてそこから見える光景。
地に伏せる鞠猫の姿。そして……足蹴にするミスリー。
全身をゾワリとした感覚に包まれる。
鞠猫の瞳が俺を見ていた。
そして彼女の唇は小さく形作る。
逃げ……て……
俺を気遣うその言葉を……
─────逃げられるわけ…ないだろ!!
なんだか分からない感覚が俺の体を染め上げた。
ミスリーに対する怒り、鞠猫を守れなかった悔しみ、そして足を引っ張った俺自身への憤慨。
それは俺を今までにない感覚へと誘った。
……へこたれる時間はない
……終わったと諦める資格も無ぇ!
俺には─────
戦うしか道はない!!
「ア"ア"ああぁぁぁぁあ"あ"ぁぁ"ぁ"ぁ"…ウア"ア"ア"アァァァァッッッ!!!!」
……鞠猫
……俺の大切な友達。
出会ったばかりだけど、そう思える。
出会いは酷いもんだったけど今ならそう言える。
君に助けられ、自分が何者なのかを知った。
どこまでも人とは相容れないのかもしれないと思ったけど、そうではないと教えてくれた。
在りたい様にあればいいと教えてくれた。
……人でありたいと願う心が、人である証だと教えてくれた。
……俺の大切な…大切な友達。
どこまでも愚かな俺の……大切な存在。
失いたくない
失いたくない
奪われるわけにはいかねぇ!!
全身を突き刺していた針。
それがなんだ
奪われた手足。
今更なんだ
折れた戦う意思…それがなんだ!!
自由を奪う針なら破壊しろ! 手足ならさっさと再生しろ! 戦う意思ならすぐに積み直せ!
奪われたくないなら再起しろ!!
俺は人であり、超常だろが!!
出来ないことがあって……なにが超常だ!!
女の子一人くらい守ってみせろよ!!
「ウア"ア"ァァッッ!!!」
全身に纏わっていた何かを破壊し、目の前の黒い壁を壊す。壁が壊れると同時に金属の千切れる音も響く。俺の入っていた箱が急降下する。だが、俺は慌てることもない。新たに生えた『左足』と右足で飛び出す。
そうして着地する。新しく生えた『両手』も着地するのに利用して。
俺の後方で箱の落ちる音がけたたましく鳴る。
「……ミスリー」
ゆっくりと俺は立ち上がり、彼女を睨み付けた。
その顔は驚きに満ちていた。それはそうだろう。俺自身、自分の体に起こっている事に驚愕していたのだから。
色々な感情が頂点に達した時、俺の全身がまるで爆発するような感覚に包まれ、左目の痛みは消え、両手、そして右足が復元したのを感じた。闘志は今まで以上に燃え上がり、何故だか分からないが……圧倒的な自信が俺を支配していた。
「……奏……貴方その目」
驚くミスリーがそう聞いてきた。
目?
俺は確認するように振り返り、病院の硝子窓の薄い反射を利用する。するとどうだろうか、俺の両眼がピンク色に発光しているのが分かった。
俺の普段の緑色の瞳ではなく桃色の眼。……一体何が起きているんだと思った。けれどなんとなく分かる。俺の体がこの女を許すなと叫んでいるのが。
「ふん……なんだか分かんねーが、今ならミスリー……お前をぶちのめせる気がするぜ」
「嘘…嘘よ……その瞳……私の気のせいよ……」
彼女が話を聞いていないのはわかった。しかしそんな事はもうどうでもいい。もう俺の目的は一つだけだから。
鞠猫を救う。その為にこいつらは……邪魔だということだ。




