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ガングニール・フロンティア 〜蒸気荒野の剣と人形〜  作者: (鉄)
1章「走る列車上の出会い」
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ウェルカムトゥクレイジーワールド(挿絵)

 屋根の上では、走る列車の風が、まともに体を叩いた。


 メイドの少女は屋根に這いつくばり、奪ったライフルを構えている。どこか、ネコ科を思わせるしなやかな身ごなしだった。それが、妙に様になっている。片目をつむり、銃身の先に標的を捉える。


 ぺろり、と舌が唇を舐めた。


 ドォン


 大口径の銃声が、風を裂いた。右手で並走していた強盗のひとりが、撃ち抜かれて体ごと吹き飛び、トカゲの背から転げ落ちる。少女は構えを変えない。続けざまに二発、三発。左右の強盗が、面白いように脱落していく。揺れる屋根の上、走る列車、動く標的。そのことごとくを、少女はものともしなかった。


 トウヤは、思わず感心した。


 残るは、先頭のボスだけ。少女は真正面の青年へ照準を合わせ、引き金を絞った。


 轟音。だが――。


 青年はニヤリと笑い、無造作に一発を撃ち返した。次の瞬間、少女の放った弾が、空中で爆ぜて消えた。


「……偶然か?」


 もう一発。同じだった。こちらの弾のほうが、大きさも強度も上のはずだ。理屈に合わない。だが二度続けば、偶然では片付かない。何かがある。それが何かは、わからない。


 その間に、青年は距離を詰めていた。


 跨ったトカゲが列車の真横に並ぶ。青年は不敵に笑い、銃口を少女へ向けた。発射。少女は身を投げて避ける。撃ったであろう位置から逆算した、正しい回避だった。射線は外れた――はずだった。


 だが、弾は予想よりも速く、伸びてきた。避けきる前に、その身体へ届こうとする。


 キンッ


 甲高い音とともに、火花が散った。


 二人のすぐ脇に、真っ二つに断たれた弾丸が、からんと転がる。


「……は?」


 少女は、しばし動けなかった。たった今、自分は撃たれていた。避けたつもりが、避けきれていなかった。それを――斬って、落とした者がいる。走る列車の屋根の上で、目にも追えない速さで飛んできた弾を、刀の一閃で。


 そんな曲芸じみた真似を、こともなげにやってのけた青年へ、少女はゆっくりと顔を向けた。


 影が、頭上をよぎった。


 少女が見上げる。青年が――トカゲの背を蹴り、屋根の上の二人を頭上から飛び越えていた。屋根に飛び移るのではない。越える。人ひとりが跳べる高さではなかった。


 空中で、銃口がトウヤへ向く。


 人間離れした速射が、立て続けに火を噴いた。それを迎え撃つトウヤの右手も、また人ならざる速さだった。刀の軌道はもう目に追えない。閃光が立て続けに散り、甲高い金属音が幾重にも重なる。気づけば、放たれた弾はことごとくはじき返されていた。常軌を逸した連射と、それを刀一本で受け切る曲芸。どちらも、まともな人間の業ではなかった。


 少女が、はっとライフルを構え直す。青年へ向けようとした、その動きの先に――。


 青年が、着地した。


 二人の、ちょうど間に。


 そして少女の額へ、銃口を突きつけた。


 二人の動きが、止まる。


 青年が、ひゅう、と軽く口笛を吹いた。


「いやー、あんたいい腕してるね」


 額に銃口を突きつけたまま、青年は少女を一切見ず、トウヤへ軽く語りかけた。


「俺のファニングはちょっとしたものだと思ってたんだが。東洋の剣士ってのは、みんなそんなことできるのか?」


 悔しさよりも、面白がる響きだった。トウヤは戦闘の構えを崩さず、答えない。


 少女が何か言おうと口を開く。青年が親指で、ゆっくりとハンマーを起こした。


 カチリ、と鈍い音がした。


 それから、銃口を少女の額へ、ほんの少しだけ押し込む。黙ってろ。念を押すような仕草だった。少女は口をつぐむ。


 青年が、初めて少女へ目をやった。砂にまみれたメイド服を、上から下へ。さらにその奥を覗き込むように、目を細める。何かを検めるような、値踏みするような視線。一拍。


「なるほどねー……」


 得心したように、つぶやいた。


「ふんっ。その体だけで生き残れるほど、新大陸はあまかねぇよ」


 銃口を額に当てたまま、続ける。


「宝の持ち腐れだ。ま、あんたぐらいなら――人間だった俺ですら、狩れるな」


 少女の顔が、悔しげに歪んだ。だが、声は上げなかった。実力で及ばぬことは、誰より彼女自身がわかっている。


「ま、比べる相手が悪いか。なんたって俺様は天才キッド。ビリー・ザ・キッド様だからな」


 キッドと名乗った青年は、自信たっぷりに親指で自らを指しながら、少女の額から銃口を外した。


 トウヤは、なんだこいつは、と思った。


 思いながら、短く名を返す。それから、口を開いた。


「丘の上のバカが、なんだって?」


 束の間の沈黙。


 キッドが、声を上げて笑った。心の底から愉快そうに。


 その笑いが、ふつりと真顔に変わる。


 刹那、速射。


 トウヤは半身をひねり、射線の外へ抜けた。


 足場は、走る蒸気機関車の屋根だった。


 継ぎ目を越えるたびに跳ね、曲線にさしかかれば大きく傾ぐ。常人なら、立っているだけで難儀する。その上で、二人は撃ち合い、斬り結んでいた。揺れには、どちらも一言も触れない。触れる必要が、ないかのように。


 接近すれば剣士が有利――そう思えた。だが、キッドは圧倒的な連射と巧みな足さばきで、トウヤをついぞ間合いに入れさせない。離れて撃つ者と、近づいて斬る者。決め手は、互いに出ない。


「ハハッ、お前人間かよ」


 キッドが、撃ちながら笑った。


「ここまで俺の銃弾よけれる奴、なかなかいないぞ」


 トウヤは、弾を見ていなかった。見えるはずがない。見ているのは、相手の視線、銃口の向き、体のわずかな起こり。撃つ人間の動きを読み、弾が来るより先に射線を空ける。それだけだ。


「そのつもりだが。化け物に見えるか?」

「はは、そういう奴はゴロゴロここにはいるんでね」


 キッドの声が、わずかに低くなる。


「だが、そういう奴は全部――ぶち抜いてやったが、ねっ!」


 言い終わると同時に、キッドが撃った。






挿絵(By みてみん)

生成AIを使っており、画像はあくまでイメージです。

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