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ガングニール・フロンティア 〜蒸気荒野の剣と人形〜  作者: (鉄)
3章「刃と銃声と、幸運と」
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連携

 ルチアーノを加え、新たなアリの群れに踏み込んだ。先のものより、明らかに一段、規模が大きい。

 ルチアーノは、トウヤには何も言わなかった。

 好きに斬らせている。あの男が群れの真ん中で何をどう判断しているのか、リィズにもよくわからない。だが、ルチアーノは見ているだけで、口を出さない。――そういうものなのだ、と思うことにした。

 代わりに、声はすべてリィズに飛んできた。


「左」

「待て」

「今だ」


 短く、素早い。必要なときだけ、理由がつく。


「タンクが動いた。射線が通る。三秒だ」


 言われたとおりに撃つ。当たる。

 だが、ルチアーノはそれで満足しなかった。


「お前はトウヤとは違う」


 弾を込め直すリィズの背に、声が飛ぶ。


「あいつは、分野が違うのさ。理屈じゃなく、嗅覚で正解を引く。いざとなりゃ、理屈の真逆でも体が勝手に動いちまう。――ああいうのは、好きにやらせるのが一番いい」


 だから、何も言わないのか。リィズは、群れの向こうのトウヤを、ちらと見た。


「だが、お前は違う」


 もう一度、ルチアーノは言った。


「考えろ。理屈で動かないものを、理屈に落とし込め。お前が、合わせるんだ。――その上で、自分も最大限、生きるように動け。合わせるだけの、道具になるな」


 道具になるな。

 その一言が、妙に残った。

 小隊長を、いくつか潰していく。

 そのうちに、ルチアーノが遠くの一点を顎で示した。


「あれが司令官――まぁ、大隊長ってとこだな」


 ひときわ大きい個体だった。格が違う、とひと目でわかる。

 トウヤとリィズの足が、同時にそちらへ向きかけた。


「待て」


 ルチアーノが止めた。


「まずは、離れた方向の中隊長を潰せ。一体ずつな」


 なぜ、と問う間はなかった。ルチアーノの目に押されるように、二人は動き出す。


「通り道の小隊長も、できれば潰しとけよー」


 間延びした声を背に、それぞれの中隊長へ走った。


 リィズはちらと、向こうを見た。

 別の中隊長へ向けて、トウヤが同じように突っ込んでいる。ほぼ同時だった。

 言われたとおり、通り道の小隊長――現場で下士官のように立ち回る個体も、走りながら撃ち抜いていく。競っているつもりはない。ないが、向こうの斬り進む速さが、目の端から消えない。


 二人が中隊長の懐へ届いたのは、ほとんど同時だった。

 中隊長が、こちらの間合いを嫌って身を引こうとする。退き足の方向は、もう読んでいた。リィズが先に弾を置き、逃げ場を削る。中隊長がわずかに動きを止めた、その一拍へ撃ち込んだ。

 かつて「指揮官」と見て手こずった相手を、今度は確実に倒せた。手応えに、こみ上げるものがある。


 二体の中隊長が、消えた。


 すると、群れに小さな混乱が走った。穴を埋めようと、一回り大きい個体が数体、持ち場を離れて走り出す。


「やはりな」


 ルチアーノが、笑った。


「人材は有限だ。二体消えた穴を、二体の司令官で埋められるわけがねぇ。その分――大隊長の周りが、薄くなる」


 見れば、確かに。

 大隊長を固めていた群れが、混乱の収拾へ吸い出されていく。


「リソース管理は、大事だよなぁ」


 ルチアーノが、楽しげに帽子をかぶり直した。それから、二人へ大声を飛ばす。


「大将首を取れ!」


 走りながら、リィズの頭には、たった今のルチアーノの手が焼きついていた。


 大隊長を、直接狙わなかった。離れた中隊長を潰し、穴埋めに人手を引き剥がし、周りを薄くした。

 あんなことは、わしにはできなかった。

 いや――そもそも、そういう考えがなかった。視野の広さくらいに思っていた。違う。あれは、戦場そのものを動かしている。


 わしに、あれは無理だ。

 だが、と思う。

 戦場まるごとは、無理だ。だが――目の前の、一匹を動かすことなら。


 大隊長の退路へ、弾を置いていく。

 当てる気で撃つ弾と、外れてもいい弾を、織り交ぜる。狙いを外したように見せて、選択肢を一つずつ削っていく。逃げ道を、こちらの引きたい方へ。


 大隊長が、ほんのわずか、余裕を見せた。安全だと思った方へ、一歩。

 そこへ、トウヤの一撃が割り込んだ。護衛のアリが薙ぎ払われ、一瞬、空白が空く。


「お主なら、そう動くと思っていた」


 その空白へ、リィズは引き金を絞った。

 大隊長の巨体が、ぐらりと傾いだ。

 残された群れが、糸の切れたように散っていく。今度こそ、頭そのものを仕留めた。


 トウヤが、こちらを見ていた。何も言わない。ただ、口の端が、わずかに緩んでいる。


「なんじゃ、その顔は」

「いや、別に」

「ふん」


 悪い気は、しなかった。

 散った群れが森の奥へ消えていくのを見届けて、リィズは息をついた。


 ルチアーノが、こちらへ歩いてくる。白いスーツは体液とほこりでひどいことになっていたが、本人は気にする素振りもない。


「いやぁ、お疲れさん」


 帽子のつばを上げて、笑う。


「お前さんらに狙われた、悲しき中間管理職に同情しちまう働きだったぜ」

「お主もな」


 リィズは、自然にそう返していた。世辞でも、おだてでもない、素直にそう言わせるものだった。


「斬りやすかった」


 隣で、トウヤが満足そうに一言こぼして、頷く。


「これなら、やれそうだな」


 ルチアーノが、にっこりと笑った。


 夕暮れの風が、森の匂いを運んでくる。倒した群れの気配は、もうどこにもない。

 女王アリ。生まれながらの、強い魔物。

 その名が、胸の奥で小さく疼いた。けれど今は、隣に二人いる。やれそうだ、という言葉が、不思議とすとんと胸に落ちた。


 帰るか、と誰かが言った。

 そうじゃの、とリィズは答えて、歩き出した。

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