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ガングニール・フロンティア 〜蒸気荒野の剣と人形〜  作者: (鉄)
3章「刃と銃声と、幸運と」
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師弟関係

 森の浅瀬に、アリの死骸が累々と転がっていた。

 戦闘は、終わったばかりだった。

 ルチアーノが帽子のつばを指で押し上げ、ふうと息を吐く。


「二人がいてくれて助かったぜ。正直、ウチのもんだけだと手に余るんでな」

「正直、こっちが助かった」


トウヤが刀を振って血を払う。


「物凄く動きやすかった。目の前の敵を斬ることだけに、集中できた」

「ただ、群れのど真ん中に突っ込んでく度胸のほうが、よっぽどヤバいと思うがね」


 ルチアーノが肩をすくめた。

 リィズは横目で、ルチアーノの銃さばきを見ていた。派手さのかけらもない、地味なものだ。だが一発も無駄がなく、卒がない。――自分より、上だ。素直に、そう思った。


「惚れ直したかい、嬢ちゃん」

「惚れてもいないし、直す機会もない」


 バッサリ斬って捨てられて、ルチアーノが声を上げて笑った。


「ま、これでも親父に、さんざん仕込まれたからな」


 弾倉を入れ替えながら、ルチアーノは言う。


「自分から動くな、相手を動かしてトドメをさせ――ってね」


「……自分から動くな、相手を動かしてトドメをさせ」


 リィズが、その言葉を小さくなぞった。


「嬢ちゃんとは獲物が違うから、参考になるかはわからんがね」


 ルチアーノが続ける。

「正直、俺の腕じゃこいつら程度ならどうにかなるが、もっとデカい魔物が相手になると、ちと火力が足りねぇ。必然、フォローに回ることになる」


 年季の入ったライフルを肩に担ぎ直し、片目をつむってみせた。


「人間相手には、十分なんだがね」

「いや、わし……ここにきて若干、火力不足で実は落ち込んどるんじゃが」


 リィズが、自分のアンチマテリアルライフルを見下ろしてこぼした。


「ああ、それは腕の問題だな」

「わし、泣くぞ?」

「……能力が足りねぇんだな」

「わし、ぎゃん泣きするぞ?」


 ルチアーノが笑いながら、そのライフルを指さした。


「冗談はさておき、嬢ちゃんのそいつなら、火力の心配はいらねぇはずだ。基礎の威力ってのは、武器に乗るもんでな。――腕や、その先のもんが足りなくても、そいつはそのまま持っとけ」

「その先のもん?」

「倒せば倒すほど、強くなる。弾にも、撃つやつの力がそのまま乗ってくる」


 ルチアーノが軽く言った。


「お前さんが落ち込んでるのは、火力じゃねぇ。そっちのほうだ」


 リィズが、むっとした顔のまま黙り込んだ。図星らしい。


「ちなみに、その手の極端なやつだと――ピストル一丁で、デカブツも平気で撃ち抜くようなのもいるらしいぜ」


 ルチアーノが思い出したように付け足す。

 トウヤの手が、無意識に懐へ伸びかけて、止まった。

 先ほどの戦闘での疑問をルチアーノにぶつける。


「先日も、何匹か一回り大きい個体を潰した。そいつを潰すと、周囲の連携が崩れてな」

「ああ、そいつらは小隊長ってとこだな。群れの末端を束ねる役だ」


 ルチアーノが、足元のアリを無造作に踏み潰した。


「で、お前さんらが頭だと思った、ひときわデカいやつ――ありゃ、おそらく中隊長ってとこか。せいぜい、いくつかある偵察部隊か、尖兵を仕切ってるくらいのもんだ」


 頭、だと思っていたものが、中隊長。

 その言いようの端々から、群れ全体の大きさが、嫌でも知れた。


「見てな」


 ルチアーノが、踏み潰した一般兵を爪先で示した。死骸からは、何も立ちのぼらない。

 次に、少し離れた死骸へ無造作にライフルを向けた。一発。一回り大きい個体の胴が弾け飛び、跡にぱきりと小さな魔石が覗く。さらにもう一回り大きいやつへ、続けて一発。こちらは派手に上体が吹き飛んで、転がり出た石は、小隊長のものより大きい。だが、初めて倒したあのボス狼のものよりは、小さかった。

 白いスーツに体液が跳ねても、ルチアーノは気にする素振りもなかった。


「石が大きいほうが、手強い相手ってわけだ」


 トウヤが、懐のキッドの魔石を指先でいじりながら呟いた。


「のう……石がないのがただの獣なら石があるのは、なんじゃ?」

「もとは同じ獣で、魔物になったやつじゃないか? オレ達が倒して強くなるのと、同じようにな」

「生まれながらに、強力な魔物として生まれてくるやつもいるそうだ」


 ルチアーノが帽子のつばに手をかけながらニヤリと笑ったあと続けた。


「……俺は、女王アリがそうじゃねぇかと、にらんでる」

「女王アリ、か」

「……生まれながらの、魔物」


 リィズが、低く呟いた。

 誰にともなく、自分の足元あたりに落とした声だった。トウヤは聞き取れなかったかもしれない。


「なら、もっと斬り殺して、強くならないとな」


 トウヤがことさら朗らかに言った。


「この戦闘狂め」


 リィズが、半眼で吐き捨てる。ルチアーノが、おかしそうに肩を揺らした。


「ほんと――お前さんらが、今は味方でよかったぜ」


 帽子を、目深に被り直した。

 森を抜けた先、岩がちの斜面に出たところで、リィズが足を止めた。


「ルチアーノ」


 名を呼ばれて、ルチアーノが振り返る。リィズはその正面に立った。


「一つ、頼みがある」


 そして、頭を下げた。

 トウヤは、わずかに目をみはった。

 軽口で頼むなら、いくらでもやりようはある。リィズはそれをせず、まっすぐ頭を下げていた。


「戦闘中に、口を出してくれ」


 ルチアーノが、面白そうに目を細めた。


「ほぅ……嬢ちゃん、それがどういう意味か、わかって言ってるのか」

「……」


 ルチアーノは帽子のつばに指をかけながら、無言のままのリィズを面白そうな表情で見る。


「戦い方の手の内を教えるってのは、そういうことだ。部下にだって、そこまではしねぇ。息子か、弟子にでもするってんなら、ともかくな」


 リィズは、頭を上げなかった。わかっている。わかった上で、下げている。

 戦いのときとは、別種の張り詰めた間があった。トウヤは、何も言わずに見ていた。


「――俺は、高いぜ?」


 ルチアーノが、軽く言った。


「こう見えても、優秀だからな」


 そこで、リィズが顔を上げた。にやり、と笑っている。


「お代は、女王アリの退治でいいじゃろ?」

「……十分、お釣りが来るな」


 ルチアーノがにやりと笑い返して、手を差し出した。

 リィズが、その手を握る。

 重い話を、軽口で包んだ。だが、握手は本物だった。

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