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ガングニール・フロンティア 〜蒸気荒野の剣と人形〜  作者: (鉄)
3章「刃と銃声と、幸運と」
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再会

 交易所に戻る頃には、日が傾きかけていた。

 いつもの受付へ向かう。ただし今日は、解体所へ回る裏口ではなく、表のカウンターのほうから。


「なんだ、今日はこっちに来たのか」


 受付が顔を上げた。


「調子が悪いのか、それとも獲物に出くわさなかったか。まさか、俺の顔を見に来たってわけでもないだろうしよ」


 トウヤはいくつかの素材をカウンターに並べた。大物は、持ち帰っていない。


 受付が素材にざっと目をやって、片眉を上げた。


「いつものように丸ごと持って帰ってこなかったのか、もったいない。まぁこれだけでも、それなりの額にはなるがよ」

「ちょっと厄介な奴らと戦ってのぉ〜」


リィズがカウンターに肘をついて伸びをした。


「さすがにクタクタじゃわい。アリのような、でかいやつらでな」

「一匹一匹はそこまでじゃないんだが、数が半端じゃなかった」


 受付の手が、ぴくりと止まった。


「……アリ、か」

「組織立って動く。まるで軍隊のようだった」

「そいつぁ――」


 受付が口を開きかけた、そのときだった。


「森の、どのあたりで出会った」


 後ろから声がした。

 振り返ると、白いスーツに同じ色のハットの男が立っていた。ヨッ、と指を二本立てて、片手を軽く上げている。


「腕の良い新入りが来たと聞いてたが、お前さんらか。報告に上がってた奇妙な格好からして、そうじゃねえかとは思ってたけどな」


 どこかで見た顔だ、とトウヤは思う。誰だったか――


「嫌じゃ嫌じゃ、こいつは返さぬぞー!」


 突然、リィズが背中のアンチマテリアルライフルを抱え込んでジタバタし始めた。逃げ出そうとした襟首を、男にひょいと掴まれている。ライフルに頬ずりしながら、足だけが空を掻いていた。


 その光景で、像が結んだ。

 あの機関車だ。胸を撃たれて倒れていた、白スーツの伊達男。


「……財布も、盗んでたよな」


 トウヤがぽつりと言った。


「な、お主もだって! それで買い食いしておったじゃろうがー!」

「ハッハッハッハッ」


 ルチアーノが愉快そうに笑う。


「確か、蒸留酒もパカパカいってるんだって?」

「んむ、喉が焼けるような喉越しがさいこー……って、なんで知っておるんじゃー!」

「まぁまぁ、落ち着けって」


 ルチアーノはジタバタするリィズを軽くあやす。


「何も返せと言ってるんじゃない。命の恩人でもあるからな」

「ほんとか? ほんとうじゃな?」


 リィズが頬ずりをやめて顔を上げた。


「もし嘘ついてたら、わしは三日三晩ここでガン泣きしてやるからな」

「いやそれは本当に勘弁してくれ」


 受付がうんざりした声を出す。


「ほんとほんと」


 ルチアーノは楽しそうに答えて、リィズを地面に下ろした。


「ここじゃなんだし、場所を変えようや。飯ぐらい奢るぜ」


 奢り、という言葉に、二人の足が自然とそちらへ向いた。


 ◆


 連れて行かれたのは、表通りから一本入った酒場兼食事処だった。

 ルチアーノが向かったのは二階の奥。店全体が見渡せるくせに、入口からはこちらが見えにくい席だった。慣れた足取りで、迷いがない。


「好きなもん頼んでくれ。ここは肉もうまいが、魚料理なんか珍しく置いててな」


 その一言で、トウヤは魚料理を三人前頼んだ。リィズは一番高い酒を、ルチアーノは肉料理を。


「遠慮しねぇなぁ、お前さんら」


 ルチアーノが苦笑して、運ばれてきたグラスに口をつけた。


「で、その軍隊みたいなアリだが――森の、どのあたりで会った」


 トウヤが場所を伝える。ルチアーノの眉が、わずかに寄った。


「……奴ら、そこまで縄張りを広げてやがるか」


 小さく舌打ちして、それから少しだけ声を落とした。


「お前さんら、ホストって存在は知ってるか」


 二人の目の色が変わった。


「知ってるようなら、話が早い」


 ルチアーノは二人の反応を見て頷く。


「一応補足しとくと、魔物からさらに進化した、強力な個体を指す言葉なんだがな」


 二人は、視線だけで続きを促した。口は挟まない。


「お前さんたちが森で会ったのは、そいつの子飼い――部下のようなもんだ。奴らはホストと思われる女王アリを中心に、群れってより、国家と言ったほうがいいものを作ってやがる」


 グラスを置く。指先が、テーブルを軽く叩いた。


「ずっと排除したいと思っちゃいるんだが、なかなかうまくいかなくてな」


 一拍、置いた。


「このままだと、いずれ街が襲われる。昔みたいにな」


 その先は、ルチアーノが一息に語った。

 昔、ホストの脅威がこの街を呑み込みかけたこと。それを、たった一人の男が倒したこと。その男が、自分の親父であること。


「ドンって呼ばれてた。スラムでくすぶってた俺を拾って、育ててくれた人だ」


 声に、熱が混じり始めていた。


「俺はこの街が好きだ。大切な家族がいる。――そんな俺を拾ってくれた親父の、敵もとってやりたい」


 拳が、テーブルの上で握りしめられていた。

 二人は、口を挟まなかった。沈黙が、いちばんの相槌だった。


 語り終えて、ルチアーノは小さく息を吐いた。グラスの水を呷り、喉を鳴らして飲み干すと、それを静かに置く。


「……ちょっと、熱くなりすぎたな」


 苦笑して、いつもの軽い調子に戻った。


「ま、親父の仇を討ちたい――ありきたりで、つまらん話だがね」

「そうか」


 リィズが、静かに言った。


「かたき討ち、か」


 短く呟いて、酒を呷る。

 トウヤは横目でその横顔を見たが、何も言わなかった。


「つーわけでだ。身内の恥ずかしい話まで聞かせちまって悪いが――協力してくれないか」


 ルチアーノが両手を軽く広げた。口調は軽いが、目だけは真剣だった。


「もちろんだ」

「うむ」


 ルチアーノが、張り詰めていたものをほどくように笑った。

 ちょうど、料理が運ばれてくる。


「さ、暗い話はここまでだ。たくさん食ってくれ」


「それと、しばらく俺も付き合うぜ」


ルチアーノは続けた。


「お前さんらの腕前も見ておきたいしな。それに――巣穴の在り処を、なんとか突き止めてぇんだ」

「むしろ、戦えるのか」

「おいおい」


トウヤが魚に箸をつけながら訊いた。

ルチアーノが肉を切り分ける手を止める。トウヤの方を向いてウインクを一つ。


「これでもちょっとしたもんなんだぜ、俺は」

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