第61話 取り次ぐ者
祈りには、道がある。
その道を預かる者が来た。
榊屋弥左衛門の寄進油は、寺の馬留めを出て、渡し場へ向かっていた。
油壺は四つ。
札は外していない。
願主、榊屋弥左衛門。
品、寄進油四壺。
納め先、津島天王社。
寺の控え、橘屋の控え、湊屋の控え、馬借の控え。
それぞれに同じ名が残されている。
荷車を引く馬の口を取っていた与八は、昨日よりも慎重だった。壺は割れやすい。荷の名も重い。祈りの札を粗末にしてはならないが、札だけを見て道を変えるわけにもいかない。
渡し場に近づくと、川の匂いが濃くなった。
水面には薄い朝靄が残り、舟板を打つ小さな音が岸に返っている。船頭たちはまだ声を抑えていたが、荷が来たと見ると、こちらへ目を向けた。
湊屋の者が先に舟を見ていた。
浅い舟ではなく、油壺を積んでも揺れにくい舟を選ぶためである。
その時、渡し場の奥から一人の男が出てきた。
僧ではない。
社人でもない。
だが、ただの商人でもなかった。
白く日に焼けた小袖に、古い袈裟のような布を肩へ掛け、腰には木札を束ねた紐を下げている。頭は丸めていないが、髪は短く整えられ、歩くたびに札がかすかに鳴った。
男は油壺の札を見ると、深く頭を下げた。
「牛頭天王への寄進油でございますな」
与八は荷車を止めた。
「どなたで」
「祐円と申します。津島天王社へ出入りし、祈願と寄進を取り次ぐ者でございます」
湊屋の者が表情を変えた。
名前を聞いたことがあるのだろう。
祐円は懐から小さな帳面を出した。
「榊屋弥左衛門殿の願、承っております。寄進油四壺。こちらで預かり、津島へ納めましょう」
与八の手が止まった。
願主の名がある。
品も合っている。
納め先も合っている。
そして、今度は取り次ぐ者の名まで出た。
昨日より、本物に近い。
だからこそ、場が重くなった。
湊屋の者が、慎重に問う。
「祐円殿は、弥左衛門殿から直接お聞きで」
「願をかけた時に、名は預かっております」
「今日、油がこちらを通ることも」
祐円は、少しだけ間を置いた。
「昨日、清洲筋より聞きました」
与八は、その言葉に引っかかった。
清洲筋。
また、そこが挟まっている。
祐円は穏やかに続けた。
「祈りの荷は、扱いを誤ると願主に障ります。商人衆や馬借衆が粗末に扱ったと言われぬためにも、ここから先は御師筋が預かるのが筋でございましょう」
言葉は柔らかい。
だが、そこには圧があった。
渡し場にいた者たちが、油壺と祐円を見比べる。
祈りを取り次ぐ者が来た。
ならば渡すべきではないか。
そういう空気が生まれた。
与八は、昨日の甚蔵の言葉を思い出した。
分からぬ時は、粗末にせぬ形で止めればよい。
「少し、お待ちください」
与八は言った。
「那古野へ知らせます」
祐円は静かに微笑んだ。
「祈りの道に、また問いを挟まれますか」
与八は頭を下げた。
「挟むのではございません。道を間違えぬために、確かめます」
声は少し震えた。
だが、足は動かなかった。
知らせは、渡し場から那古野へ走った。
信長は庭ではなく、馬屋の前にいた。津島へ目を送る者をどう選ぶか、馬借の名を聞いていたところだった。
知らせを聞くと、信長の顔から余分な色が消えた。
「来たか」
平手が低く言う。
「取り次ぐ者でございますな」
「そうだ」
信長は短く答えた。
「願主、品、納め先の次は、取り次ぎの名。順に来るな」
龍之介は頷いた。
清洲の手は、少しずつ本物へ近づいている。
偽の札。
名のない祈り。
願主のある寄進。
そして今度は、祈りを取り次ぐ者。
全部が偽物ではない。むしろ、本物が混じるほど危ない。
信長はすぐに命じた。
「渡しへ行く。又左は来い。ただし、前へ出るな。新五、龍之介、勝三郎。藤吉郎も来い。祈りの道を見るには、足の遅い者も要る」
藤吉郎は一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに頭を下げた。
「はい」
平手が問う。
「慶順様は」
「呼べ。昨日、祈りには向く先があると言った者だ。取り次ぎにも向く先があるか、聞く」
信長は歩き出した。
「今日は、荷を奪わせぬ。だが、祐円を侮るな」
龍之介は、その言葉に少し目を細めた。
信長はもう分かっている。
祐円はただの小者ではない。
ここで粗く扱えば、那古野は祈りの取り次ぎを軽んじたと言われる。
かといって、そのまま渡せば、昨日外したはずの清洲筋が、また寄進油の道へ戻ってくる。
細い道だった。
渡し場には、すでに人が集まり始めていた。
油壺。
牛頭天王の札。
御師筋の祐円。
それだけで、見物の目が寄る。
川風が水面を撫で、油壺を包む藁がかすかに鳴った。
祐円は騒がなかった。
怒りもしない。
ただ静かに立っている。
それが、かえって場を重くしていた。
信長が着くと、祐円は深く頭を下げた。
「若様におかれましては、ご機嫌麗しく」
「挨拶はよい」
信長は油壺を見た。
「祐円と申したな」
「はい。津島天王社へ出入りし、願と寄進を取り次いでおります」
「社人か」
「社人ではございませぬ」
「では、社の者ではない」
祐円は少しだけ目を伏せた。
「社へ出入りを許された者にございます。願主の思いを社へ届ける、それが私どもの務めです」
信長は頷いた。
「ならば、祈りを扱う者だ」
「そのように心得ております」
「では聞く。榊屋弥左衛門の油を、お前に渡せば、誰が受け取ったことになる」
祐円は答えた。
「祐円が預かり、津島天王社へ納めます」
「預かりと納めは違う」
その一言で、祐円の表情が少し変わった。
龍之介は、信長の言葉を聞いて内心で頷いた。
そこだった。
祐円は取り次げる。
だが、祐円に渡した時点で、社へ納めたことになるのか。
ならない。
その間に、道がある。
信長は続けた。
「榊屋は妻の熱が引いた礼として油を納めたいと言った。ならば、油が社へ届くことが大事だ。お前が預かることで早く確かに届くならよい。だが、清洲筋から聞いたと言ったな」
「はい」
「なぜ、願主からではない」
祐円は静かに息を吸った。
「願主は、祈りの筋を知らぬこともございます。周りの者が取り次ぎへ知らせることは珍しくありません」
「珍しくないことと、今回正しいことは違う」
信長の声は荒くない。
だが、川風よりも冷たかった。
慶順が遅れて到着した。
寺の僧は、祐円を見ると軽く頭を下げた。
「祐円殿。お久しゅうございます」
「慶順殿」
二人は知り合いだった。
場の空気が、さらに複雑になる。
藤吉郎が小さく息を呑んだ。
敵ではない。
知らぬ者でもない。
それでも、見なければならない。
信長は慶順へ向いた。
「慶順。祈りを取り次ぐ者に渡せば、それで社へ納めたことになるのか」
慶順は少し考えた。
「必ずしも、とは申せませぬ。取り次ぎは、橋のようなもの。橋を渡り始めたからといって、向こう岸へ着いたわけではございません」
祐円が眉を動かした。
「慶順殿」
「祐円殿を疑っているのではない」
慶順は穏やかに言った。
「ただ、願主の祈りを確かに届けるなら、どこで誰が預かり、どこで誰へ渡すかを残すのが筋でございましょう」
信長は祐円を見る。
「聞いたか」
「はい」
「ならば、こうする。油はお前へ渡してもよい。ただし、この渡し場で、お前が預かったことを残す。次に、津島で誰へ渡すかも残す。清洲の蔵を挟むなら、その理由も残す」
祐円は黙った。
湊屋の者が息を止めている。
与八も動かない。
信長は言った。
「残せるなら、取り次げ。残せぬなら、湊屋の舟で社の近くまで送る」
祐円の目が細くなった。
これは拒絶ではない。
だから騒げない。
だが、好きに道を曲げることもできない。
祐円は、しばらく川を見ていた。
水面に朝日が揺れている。
舟が一艘、岸から少し離れて待っていた。船頭は櫓に手を置いたまま、こちらを見ている。
「若様は、祈りの道を帳面に縛るおつもりか」
祐円が言った。
信長は答えた。
「縛るのではない。切れぬように結ぶ」
「祈りは、帳面だけで届くものではございません」
「知っている」
信長は即座に言った。
「だから札を破らなかった。願主も責めなかった。今日もお前を追い払っていない」
祐円は、そこで初めて黙った。
「だが、祈りの名で清洲の蔵を通すなら、それは商いの道でもある。商いの道なら、誰がどこで預かったかを残す」
龍之介は、信長の横顔を見た。
若い。
だが、危うい道の上で足が止まらない。
祈りを否定せず、商いからも逃げない。
その両方を同時に扱っている。
祐円は、ゆっくり口を開いた。
「清洲の蔵を挟むつもりは、ございません」
仙八の名は出ない。
だが、場にいる者は聞いた。
信長は少しだけ目を細める。
「では、どこへ運ぶ」
「津島の社近くに、寄進を預かる家がございます。そこへ」
「名は」
祐円は、今度は詰まらなかった。
「榎本屋清左衛門」
湊屋の者が顔を上げた。
「榎本屋なら、存じております。社近くで油と灯明を扱う家です」
信長は湊屋を見る。
「確かか」
「はい。少なくとも、名だけの家ではございません」
「なら、その名を控えろ」
平手はいない。
代わりに龍之介が、板に置かれた紙へ筆を走らせた。
願主、榊屋弥左衛門。
品、寄進油四壺。
渡し場にて、祐円が取り次ぎを申し出る。
祐円、社人にあらず。津島天王社へ出入りし、願と寄進を取り次ぐ者。
清洲筋より荷を知る。
清洲北蔵は挟まず。
津島社近く、榎本屋清左衛門へ渡すという。
龍之介は筆を止めた。
祐円は、その控えを見ていた。
不満はある。
だが、虚偽とは言えない。
藤吉郎が、油壺の藁を見て言った。
「壺は、祐円様の舟へ積み替えるのですか」
祐円が答える前に、湊屋の者が言った。
「こちらの舟の方が揺れは少ない」
藤吉郎は祐円を見る。
「祈りを取り次ぐ人と、壺を割らずに運ぶ舟は、別でもよいのでしょうか」
祐円は藤吉郎を見た。
子供ではない。
だが、まだ若い。
その若い者に問われた言葉は、場の芯を突いていた。
慶順が静かに言う。
「祈りを運ぶことと、壺を守ることは、同じではありません。だが、どちらも欠ければ届きませぬ」
信長は頷いた。
「では、祐円は札と願いの取り次ぎとして同道する。壺は湊屋の舟で運ぶ。舟の者、馬借、祐円、それぞれが控えを持つ。津島で榎本屋へ渡したなら、受け取りの印を戻せ」
祐円は深く頭を下げた。
「承知いたしました」
その声には、最初の柔らかな圧とは違うものがあった。
完全な敗北ではない。
だが、祐円は自分の役を狭められた。
祈りの取り次ぎ。
荷の支配ではない。
そこが分けられた。
油壺は、渡し場で積み直された。
湊屋の舟に壺を載せる。
壺の間には布を入れ、藁を足した。
札は外さない。
ただし、札だけを舟の前へ立てることもしない。
願主の名、品、納め先、取り次ぐ者、渡す先。
それらを控えた紙を、油壺の内側の布包みに一つ、湊屋の者に一つ、祐円に一つ持たせた。
与八が、荷車の綱を畳みながら息を吐いた。
「祈りの人が来ても、荷の人は要るんですね」
甚蔵が頷く。
「祈りだけでは壺は運べん。壺だけでも祈りは届かん。どちらも要る」
藤吉郎は、その言葉を覚えようと小さく繰り返した。
祈りだけでは壺は運べない。
壺だけでも祈りは届かない。
分ける。
だが、切らない。
最近ずっと続いてきたことが、ここでも同じ形をしていた。
祐円は舟へ乗る前、信長へ向き直った。
「若様」
「何だ」
「祈りの道を疑いすぎれば、人は遠ざかります」
「そうだろうな」
「ですが、今日の若様の扱いなら、願主は傷つきませぬ」
信長は少しだけ黙った。
「なら、そう伝えろ」
「誰に」
「津島で、聞く者がいればだ」
祐円は、わずかに笑った。
「承知しました」
舟が岸を離れた。
油壺は静かに揺れている。
札は風に鳴らないよう、布で半ば押さえられていた。
祈りは見える。
だが、見せびらかされてはいない。
その姿を見て、龍之介はようやく息を吐いた。
今日は斬らずに済んだ。
止めずにも済んだ。
だが、簡単に通したわけでもない。
細い川筋を、何とか渡した。
那古野へ戻ると、信長は馬屋の前で報告をまとめさせた。
平手が聞き取り、龍之介が渡し場で取った控えを渡す。
信長はそれを見て、短く言った。
「今日は父上へ送る」
平手が頷いた。
「承知しました」
昨日は送らなかった。
願主を騒ぎに巻き込まぬためだった。
だが、今日は違う。
祈りを取り次ぐ者が現れ、清洲筋から荷のことを聞いたと自ら言った。清洲北蔵は挟まないと決まったが、清洲筋が祈りの道へ手を伸ばしている事実は残す必要があった。
信長は言う。
「榊屋弥左衛門の寄進油四壺、渡し場にて御師筋祐円が取り次ぎを申し出る。祐円は社人にあらず、津島天王社へ出入りし、願と寄進を取り次ぐ者。荷のことは清洲筋より聞いたと申す。清洲北蔵は挟まず、津島社近く榎本屋清左衛門へ渡すこととし、湊屋の舟で送る。控えを三つに分け、祐円、湊屋、荷に持たせる。そう書け」
平手は筆を進めた。
「坂井の名は」
「まだ書かぬ」
信長は答えた。
「だが、清洲筋という言葉はそのまま書け。祐円が言った言葉だ」
「承知しました」
新五が口を開く。
「御師筋を敵に回さずに済みました」
「ああ」
信長は頷く。
「だが、近づいてきた。札より近い。願主よりも、さらに道の中にいる」
藤吉郎が言った。
「祈りの取り次ぎと、荷を運ぶ人は、別なんですね」
「別だ」
信長は言った。
「だが、別だからといって切り離せば届かぬ。そこが難しい」
藤吉郎は真剣に頷いた。
信長は、庭にいる者たちへ目を向ける。
「決まりを増やす。祈りの荷に取り次ぎの者が来た時は、社人か、御師筋か、ただの商人かを分ける。次に、誰から荷を知ったかを聞く。最後に、どこで誰へ渡すかを残す」
平手が筆を止めずに言う。
「願主、品、納め先に加え、取り次ぎの名、聞いた筋、渡す先でございますな」
「そうだ」
又左が腕を組む。
「どんどん細かくなりますな」
信長は又左を見た。
「面倒か」
「面倒です」
「だが、斬るより早い」
又左は少し黙り、それから苦笑した。
「最近、それが分かってきました」
「よいことだ」
場にわずかな笑いが落ちる。
だが、信長の目は鋭いままだった。
「大膳は、次にさらに近いものを出す。社人そのものか、あるいは社の名を借りた文か」
龍之介は頷いた。
祐円は本物寄りだった。
だが、社人ではない。
次に来るものは、もっと社に近い。
あるいは、もっと近く見える。
清洲の手は、じりじりと祈りの奥へ入っている。
清洲では、坂井大膳が祐円の報告を聞いていた。
祐円は清洲北蔵を挟むことを通せなかった。
だが、追い返されたわけではない。
油壺は湊屋の舟で津島へ向かい、祐円は取り次ぎとして同道した。
榎本屋清左衛門の名も出した。
控えも三つに分けられた。
大膳は、しばらく扇を開いたまま動かなかった。
「役を分けたか」
控えの男が頭を下げる。
「はい」
「祈りを取り次ぐ者と、荷を運ぶ者を分けた」
「そのようで」
「三郎は、物を分けるのが上手い」
大膳は低く言った。
「だから厄介だ。祈りを敵にせぬ。御師筋も敵にせぬ。だが、道だけは渡さぬ」
控えの男は答えられない。
大膳は扇を閉じた。
「だが、祐円を通したことは大きい」
「通した、と申しますと」
「取り次ぐ者を拒まなかった。つまり、三郎は祈りの筋を断てぬ。そこは分かった」
大膳の目が細くなる。
「次は、社の名をもっと近づける」
「社人でございますか」
「社人そのものはまだ重い。だが、社の判がある文ならどうだ」
控えの男が顔を上げる。
「判」
「本物でなくともよい。似た判でもよい。見る者が迷えば、それでよい」
「偽判は危うくございませぬか」
「だから、はっきり偽とは分からぬものを使う」
大膳は静かに笑った。
「古い控えから写した判。昔の寄進に使われた札。今も通るかどうか、誰にもすぐには分からぬものだ」
控えの男は、ゆっくり頭を下げた。
「三郎は、判にも名を問うでしょうか」
「問うだろう」
大膳は言った。
「だが、問えば時間がかかる。問わねば通る。どちらでもよい。津島の道に、迷いが生まれればな」
清洲の影は、祈りを取り次ぐ者の次に、判の古さへ手を伸ばそうとしていた。
夜、那古野の庭は静かだった。
龍之介は、渡し場の光景を思い返していた。
油壺。
白い札。
祐円の穏やかな声。
慶順の「橋」という言葉。
信長の「預かりと納めは違う」という一言。
あの一言がなければ、場は祐円へ傾いていたかもしれない。
祈りを取り次ぐ者は、確かに必要だ。
だが、取り次ぎは到着ではない。
橋を渡り始めても、向こう岸に着いたわけではない。
それは、兵の道にも似ていた。
荷を出しただけでは、届いたことにならない。
文を持たせただけでは、読まれたことにならない。
命じただけでは、成ったことにならない。
間にいる者。
運ぶ者。
取り次ぐ者。
預かる者。
その一つずつが、道を変える。
龍之介は、掌を開いた。
呂布の武は、間に入る者を力でどかせる。
郭嘉の知は、間に入る者の意図を読む。
だが、今日必要だったのは、どかすことでも、疑うことだけでもなかった。
役を分けることだった。
祈りを取り次ぐ役。
壺を運ぶ役。
名を残す役。
それぞれを分けて、同じ先へ向ける。
それができなければ、祈りの道は清洲の道に変わっていた。
遠くで、馬が鼻を鳴らした。
川はまだ遠い。
だが、津島へ向かった油壺は、もう水の上にある。
次に来るものは、さらに古い顔をしているだろう。
札か。
判か。
社の名か。
龍之介は夜空を見上げた。
古い名は、重い。
重いからこそ、人は手を止める。
その重さを利用する手を、見失ってはならない。




